JARCLIVE8

vol.8 時代の変化にしなやかに対応していく 宿泊施設とともに「稼ぐ力」を引き出しあう JARC LIVE JARC(ジャルク)一般社団法人 宿泊施設関連協会 Japan Accommodat ion Related Consort ium

JARC LIVE 3 協会の主旨と目標 JARC 役員 宿泊施設関連協会は、観光立国の中枢である宿泊施設とともに、刻々と変化する宿泊業界がさらに発展していけるよう、宿泊施設に携わる 同じ想いをもった企業が集まる協会です。訪れたお客さまへ、よりストレスフリーな環境を提供することにより、それぞれの地域が活性化 していくことを目的とします。また、先々の時代の変化にしなやかに対応していくため、宿泊施設の皆様とともに生産性の向上考え、お互 いに「稼ぐ力」を引き出し合っていきます。 ◆宿泊施設の海外進出 海外で働く 134 万人の日本人に心の安らぎを与える場所を提供するために、日本の宿泊施設が海外進出することにより、日本の文化の発 信はもとより海外に劣らない経営・運営手法や生産性向上のための方法を模索していきます。またその土地に住む外国人の人々に、その土 地にある日本の宿泊施設を通して日本を体験してもらい、日本を訪れてもらえることを宿泊施設とともにめざしていきます。 ◆ラストリゾート 国内外の日本の宿泊施設が、有事の際にその土地の人々の避難場所や救急病院となり、人々の安全が確保される場所に宿泊施設がなれるよ うともに歩んでいきます。 ◆宿泊業の地位向上 宿泊業に携わる人々の意識を高めていくとともに、宿泊業に必要なスキルが向上できるよう、ともに学び、宿泊業がプライドの持てる職業 になれるよう、支援していきます。 J a p a n A c c ommo d a t i o n R e l a t e d C o n s o r t i um J A R C L I V E VOL.8 会長 林 悦男(株式会社タップ 代表取締役会長) 最高顧問 藤野 公孝(元参議院議員) 特別顧問 木俣 芳明(一般財団法人 アジア太平洋観光交流センター理事長)、久保 成人(公益社団法人 日本観光振興協 会 顧問)、石塚 勉(専門学校日本ホテルスクール 理事長) 監事 八木 豊(サーブホテルズ株式会社 代表取締役社長) 専務理事 須藤 文昭(元藤田観光株式会社 常務執行役員) 理事 北村 剛史(株式会社 サクラクオリティマネジメント 代表取締役)、小澤 一弘(株式会社 中部衛生検査センター 専務取締役)、村山 慶輔(株式会社 やまとごころ 代表取締役)、石原 健(株式会社 ホスピタリティデザイン横浜 代表取締役)、丸山 和彦(株式会社オータパブリケイションズ 常務取締役事業本部長)、渡部 聡(サン・パシフィッ ク・エンタープライズ株式会社 専務取締役)、高橋 敏也(一般社団法人 メイドインジャパン・ハラール支援協議 会 理事長)、櫻井 慎也(株式会社 近清 代表取締役)、畑山 和沙(株式会社セラヴィ 法人営業部 部長) 2 JARC協会の趣旨と目標 4 次世代のホテリエ達 スペシャル座談会「ニューノーマル時代のホテリエはどのような スキルを持たなければならいのか」 専門学校日本ホテルスクール校長石塚勉氏×東京YMCA国際 ホテル専門学校校長小畑貴裕氏×日本工学院専門学校副校長 遠山一明氏×JARC会長林悦男 10 ホテルスタッフクローズアップ 「あの憧れのホテルに一度は泊まってみたい」 sankara hotel&spa 屋久島/Activity Manager 大木信介氏 THE HIRAMATSU 京都/ホテル営業部部長 大下淑典氏 14 「なぜホテル業界を選んだのか?」 東京YMCA国際ホテル専門学校 青木星さん/那須彩花さん 駿台トラベル&ホテル専門学校 上野愛美さん/川口秋哉さん 18 オープン情報 富士屋ホテル/星のや 界長門 26 「アフターコロナにおける日本観光マーケティング考察」 ㈱やまとごころ代表取締役/JARC理事 村山慶輔氏 28 JARCウィズコロナ安全行動基準プロジェクト 「緊急時のコロナ対応からwithコロナ対応へ進化すべき道のり!」 (一社)メイドインジャパン・ハラール支援協議会理事長/JARC ウィズコロナ安全行動基準プロジェクトチーフコーディネーター 高橋敏也氏 「消防の問題と飛沫防止パーテーション」 アステックス㈱ 建材営業部課長補佐 中村博之氏 「やまなしグリーン・ゾーン構想」 山梨県県民生活部 グリーン・ゾーン推進課主査 森田考治氏 「安全・安心の見える化 空気触媒コーティング」 ホテルモントレ㈱ 代表取締役社長 山本啓之氏/ニチリンケミカル㈱ 営業企画部 中里陽子氏 非接触型「tap アプリ」サービス開始 ㈱タップ代表取締役会長 林悦男氏 非接触テクノロジー「顔認証」 パナソニックシステムソリューションズジャパン㈱ 課長 津村賢一氏 「世界の非接触スマートモバイルキーの現状」 ㈱アッサアブロイグローバルソリューションズジャパン 代表取締役 深尾大地氏 46 【日本工学院ホテルコース特別講義】 「これから宿泊施設が目指す姿と現状の課題【シティホテル編】」 帝国ホテル情報システム部長 花井伸二氏 「ホテル事業の事業特性を理解してホテルを企画・計画する」 ㈱観光計画研究所取締役社長 矢野直氏 52 JARCゼミナール 第26回 フォルシア㈱事業開発部営業リーダー 杉岡健一氏 第27回 オムロンソーシアルソリューションズ㈱ 社会ソリューション事業本部事業開発部主査 虎吉晃平氏 54 「JARCゼミナール」のご案内 55 会員 ZOOM UP ㈱ピースカルチャー代表取締役 角田遥奈氏 ㈱リプロ Boost Jpan㈱代表取締役 吉崎夏来氏 58 伝統の逸品 「パーコーメン」ザ・キャピトルホテル東急総料理長 兼 副総支配人 曽我部俊典氏 「ソールボンファム」東京會舘取締役調理本部長 斎藤哲二氏 62 会員一覧 Contents

4 (一社)宿泊施設関連協会 会長 / ㈱タップ 代表取締 役会長 /日本工学院専門学 校 ITカレッジ情報ビジネス 科ホテルコース テクニカ ルディレクター 「ニューノーマル時代のホテリエは どのようなスキルを持たなければならないのか」 新型コロナウイルス感染症にともない宿泊業界を取り巻く環境が一変した。政府からも「新しい生活様式」が求 められるとともに在宅勤務やワーケーション、Wワークなど、コロナ以前とはまったく異なる日常が求められている。 ホテル業界もニューノーマル時代を迎え、次なる時代のホテリエが持たなければならないスキルとは何か、各専門 学校としてまたホテル学科や観光学科を持つ専門学校間で何をすべきか、これからのホテリエやホテル業界の進む べき方向性を踏まえて率直なご意見をお伺いした。 学校法人日本ホテル学院 専門学校日本ホテルスクー ル 理事長・校長 東京 YMCA 国際ホテル 専門学校 校長 学校法人片柳学園 日本工 学院専門学校 副校長 石塚勉氏 小畑貴裕氏 遠山一明氏 林悦男氏 宿泊業界を支えるホテリエになるためには ホスピタリティサービス工学の考え方を取り入れた 「日本型ホスピタリティマネジメント経営学」の習得を! 次世代のホテリエ達 スペシャル座談会

JARC LIVE 5 不況になるほど強い専門学校の底力 林 この度の新型コロナウイルス感染症は宿泊業界に多 大な損害を与えました。特に首都圏では法人宴会や結婚 式の日延べやキャンセルが相次ぎ、宿泊においても稼働率 が 10 ~ 30%台という低空路線が継続しています。コロナ 以前は人手不足を課題としていましたが、一転して余剰 人員が課題になるなど、状況が真逆に転じています。感 染症予防として非接触が消費者側から求められ、対面を 主力としていたホテルサービスの在り方も大幅に変えてい かなくてはなりません。私自身は非接触イコール非対面とい う考えではなく、最先端のテクノロジーを下支えに、よりヒュー マニズムなサービスの提供が必要であると考えます。今回 は日本を代表するホテル専門学校、そして後発ながら新 たな視点でホテル学科を設置した専門学校を指揮する皆 様にご参集いただき、これからのホテリエの在り方につい て大いにご意見をお聞きできればと思います。当協会の会 報誌「JARC LIVE」は会員をはじめ、行政機関や観光・ 宿泊関連の協会団体ならびに全国の3,000施設以上のホ テルや旅館へ 5000 部をご提供しています。宿泊業界に おいては十分に周知されている専門学校ですが、はじめ に各校の歴史などをお聞かせください。はじめに最も歴史 のあるYMCA小畑校長からお願いします。 小畑 85 年前の 1935 年に国際ホテル学校として誕生し ました。1940 年予定していたまぼろしの東京オリンピック 開催に向け、世界各国からのゲストを迎えるプロフェッショ ナルを育成するために日本で初めてのホテル学校としてス タートしました。当時はキリスト教牧師による英語学校の 要素が強く、英語を学んで帝国ホテルに就職する学生が 多かったと聞いております。85 年前のことですが入学倍 率は5 倍ほどあり初年度は130 人が入学しました。第二 次世界大戦により一時募集停止となりましたが 1946 年に 再開し、1964 年に開催された東京オリンピックのときには 選手村食堂ピレスハウスのサービスを担当。翌年 1965 年 には1年制のホテル専攻科を新設、1970 年には国際ホテ ル学校として海外ホテル研修を開始し、1979 年には専修 学校法制定と同時に専修学校許可を得ました。その後、 長野オリンピックのときには選手村へ実習生を派遣するな ど国際的な舞台で実務経験を積んでいます。 林 85 年前に開校されているとはおどろきました。これま でに卒業された人数はどのくらいいらっしゃるのですか。 小畑 卒業生は1 万 2000 人におよびます。不思議なこ とですが 85 年前も今も、入学者数は1学年で 130 人ほ どです。途中、100 人を切ったりすることもありましたが、 今は85 年前とほぼ同じ数字となっています。学校の規模 的に130 人ほどがちょうど良いこともありますが、歴史は繰 り返されていることを実感します。開校後の第二次世界 大戦と今、世界的規模で起きている新型コロナウイルス 感染症にともなうパンデミックとは内容こそ異なるものの、こ の先の専門学校運営において参考になると考えています。 また85 年という歴史から親子 3 代でYMCAに通われて いる方もいます。傾向として家が旅館や駅前ホテルの経 営者のご子息が多いことから、“先代がお世話になったか ら”と足を運ばれています。中には4代目というケースやホ テルや旅館を経営されているご子息の場合は、大学を卒 業されてから実務的な経験を積むために入学されるケー スが多々あります。いずれにしても改めて歴史の重みを感 じるとともに今日まで受け継いでいただいた諸先輩たちに 感謝するとともに、これからの時代のホテリエ育成の在り 方を常に模索している次第です。 林 3 代、4代に引き継がれていくということはとても素晴 らしいことです。ところで、おそらくホテル業界では知らな い人がいらっしゃらない日本ホテルスクールさんの歴史や 今日至るまでの経緯はいかがですか。 石塚 1971 年 10月、プリンスホテル㈱が中堅幹部育成 を目指してプリンスホテルスクールを創立、翌年 4月新入 生 160 名を迎えて開校しました。1976 年、当時の運輸 省監督下で財団法人日本ホテル教育センターを設立、財 団立の日本ホテルスクールと名称変更、1987 年東京都の 認可を受けて専門学校日本ホテルスクールへ、更に2009 年学校法人日本ホテル学院を設立、学校法人立の専門 学校日本ホテルスクールとなりました。1997 年に1000 名 規模となり、それ以来若干の増減を経ながら、現在在校

6 生 830 名、卒業生 13 万 3800 名となっております。日本 の高度経済成長、ホテル業界の拡大成長と共に、多くの 人に支えられ歩んでまいりました。 林 私もITカレッジホテルコースにテクニカルディレクター として携わっているのですが、日本工学院専門学校 遠 山副校長より専門学校の歴史をお聞かせください。 遠山 1947(昭和 22)年、東京・蒲田に絵画科と洋 裁科を擁する「創美学園」に始まります。現在は6 つの カレッジと専門性の高い 34 の学科を持つ総合専門学校と して運営しております。これまでに約 23 万 5000 人を超え る卒業生を各業界の第一線に輩出しております。蒲田キャ ンパスには6300 人の学生が学んでいます。変化する時 代の中で常に求められる人材とは何かを模索し、このた びホテル系の学科としては最後発の 106 番目に諸先輩の 仲間入りをさせていただきました。ホテリエとして必要とさ れているホスピタリティや語学に加えて、ホテル業界で活 用されているICTスキルも学べることをポイントとしていま す。JARCの会長でもある㈱タップの林会長のひと押しが あったからこそ誕生したものです。 85 年前とコロナ後の今が同じ状況に 林 皆さん、とても歴史があり専門特化した人材育成に 尽力されているのですね。先ほど、小畑校長から85 年 前に戻ってきたというお話をされていましたが、具体的に どのような背景で当時の歴史を紐解くとこれからどのような 展開が見込まれると予測されますか。 小畑 第二次世界大戦によりホテルを開けられない、オリ ンピックがない、外国人来ない、求人こない、就職厳し いというまさに新型コロナウイルス感染症による経済状況 や労働環境が同じです。しかしながら専門学校はまさに この不況に強い業界です。不況になれば家庭の懐事情 が乏しくなり、大学進学するよりも専門職を手に付けて家 計のためにも早く就職させたいと親は考えます。高校の 進路担当の先生は専門学校へ行くよりは大学進学を勧め る傾向にありますが、4年間学費などを払い続けていくこ とが困難な状況であれば 2 年間の学費で専門業種に就 職した方が良いと考えます。また経済不況に伴い商業科 や工業科など専門分野を学んでいる高校生も求人が少な いことから、専門学校に資料請求する件数が増えてきま した。このように専門学校においては不況になるほどに強 くなるという流れがあるのです。 石塚 しかし残念なことに、現在専門学校は約 2800 校、 約 60 万人の学生がいます。社会貢献度が高いにもかか わらず、大学進学の傾向が強く、高等学校や業界経営 者から、余り評価されていない傾向があります。 林 将来的に起こりうる少子化に伴う日本人の就労人数 の減少を鑑み、また格差社会をなくすためにも優秀な人 材ばかりに目を向けるのではなく、例えば貧困が理由で学 びたくても学べない潜在的に優秀な人材を発掘するため にも、下にいる人たちを上に引き上げていかなければなら ない。ホテル業界を俯瞰的に見ていると人材育成の重要 性は唱えていますが、実際にスキルを高めていくための 教育がなされていないのが実状です。 小畑 ただ、専門学校は就職後の即戦力がポイントであ り、特にホテルなどサービス業界においては即戦力が求め られます。多くの専門学校では座学よりも実務を重視して、 インターンシップを実施しています。ところが、大学生もサー ビス業、接客業が好きな人材は大学4年間という期間を通 して、専門学校生の実習時間よりはるかに超えた経験を 現場で積んでいます。専門学校の場合は入学してすぐに 就職活動のことを考えなくはなりません。即戦力をセールス ポイントが通用しにくくなっている現状があります。 ホテルによっては採用されても契約社員として入社し、 専門学校卒業生の場合は専門職に配属されますがマネ ジメント職には就けないというところもあります。石塚理事 長の言われるようにまだまだ専門学校に対する評価、認 知が低いという課題を抱えています。 石塚 日本の伝統的な体制風土のある企業にはその傾 向があるようですね。いずれにしてもホテル学校・学科を 目指してくる学生は、社交性に富み、国際的な異文化の 香りのある職場を希望して入学してきますので、こうした

JARC LIVE 7 生に相談にきます。本来はホテルの人事部が駆け込み寺 になるべきだと思いますが・・・次世代を担う若者たちをしっ かりと最後まで見守り続けてほしいですね。 石塚 まさに学校が保健室のようです。悩みを抱えてい る卒業生がよく訪ねてきます。ときには再就職先を紹介す るなど、表現は良くありませんがまさに納品して返品され て、またメンテナンスをして納品する、そんな感じです。 人材育成と給与のバランスも課題です。さまざまな資格が 国家資格や任意団体の資格として実施されていますが、 資格取得が給与に反映されていません。とても難関なソ ムリエ資格を取得しても給与に反映されていません。ある 優秀な卒業生は5 年間勤めましたら、ポジションも給与も 上がらないことからブランド店へ転職したところ月収 2 倍以 上あがったとのことです。接客業が根っから大好きでした ので、学歴ではなく次世代をリードする存在として、きちん と見極め見合った給与を与えるなどまずは低い労働賃金 を上げていかなければ、次世代のホテリエを育成していく ことは難しい。 林 労働賃金を上げることはとても重要なことです。低賃 金・重労働という現実を改善するためにはどうすべきか、 今まさに考えるときです。それでは本題のホテリエの教育・ 育成はどうあるべきかということですが、私が思うには、ま ず始めに“サービスの仕分け”をすることです。ホテル業 界を俯瞰的にみると、そもそもサービスとは何かを考えたと きに、今、サービス業と言われている業務内容が本来の サービスの範疇ではないと思うのです。 例えばレストランで厨房から料理をフロアまで運び、お 客さまのテーブルに提供していますが、厨房からサービス スタッフが料理をピックアップしてお客さまのテーブルまで料 夢や希望を大事にしてあげたいです。学生の 9 割は、ホ テル、ブライダル、レストランの業界へ進んでいきます。自 分の職業に誇りを持ち、業界に魅力を感じる環境を、経 営者の皆さんに作って欲しいところです。 林 教育という点では「専門職大学」や京都大学や一 橋大学で観光業に関するMBAも始まりました。専門学 校の立場から見て専門職大学についてどのようにお考え ですか。 石塚 大学や大学院でいろいろな教育機会が増えていく ことは、業界のレベルアップには大切なことですね。観光 業界は、様々な業種で成り立っているので、育成すべき 人材像とそれに必要なカリキュラム編成を、業界のニーズ に適合させることが必要です。学位を取ればいいという お話ではないでしょう。現在の専門職大学のお話も文科 省から頂戴していますが、これまでの大学基準に近い印 象がありますので、どんな人材像を具体的に目指している のかが不明、その点、疑問に感じています。 観光庁は、観光産業を基幹産業とし観光立国を目指 すために、「観光産業を主導する経営人材」「観光の中 核を担う人材」「即戦力となる地域の実践的な観光人材」 の3層構造で育成・強化していく必要があるとしています が、既存の約 50 校の観光系大学、約 100 校の専門学 校をどう活用していくのか、またこれらを支援する予算措 置があるのか、残念ながら、具体的な動きは見えません。 また、大企業においては、終身雇用制の根強さや教 育体制の不備のため、中途採用者や外国人の採用に対 しては厳しさがあります。外資系や新規の企業では、適 材適所で中途採用、登用が可能になってきているように 思われます。 やるべきこと、それは“サービスの仕分け 林 観光庁と専門学校の経営陣の皆様との対話を積極 的にすべきではないのでしょうか。もっと業界の現実を伝 え、改善していかなければ… 石塚 難しいですね。残念ながら、観光庁は、大学院 レベルのリーダー育成が主眼、多くの人材を輩出してい る専門学校の卒業生を余り気に留めていないように思わ れます。 小畑 しかしながら専門学校卒業生に関しては大卒者と 比較して離職は低く、定着率は高いです。この現実もしっ かりと認識してほしいところですね。何かがあって退職を 考えている卒業生の多くは学校に戻ってきて、担任の先 s p e c i a l i n t e r v i e w

8 理を運ぶことはサービス業ではなく“運搬業”となります。 サービス業というのはあくまでもお客さまと接する部分であ り、料理を運ぶという部分はサービス業ではありません。 運搬業の部分までサービス業という括りにすることにより労 力的にもきつく、また生産性も下がります。1人の人間が 運搬業もしているわけですから。 もし、ここをテクノロジー活用と切り離して考えることができ るとすれば、本来のお客さまへの接客を仕事としたサービ ス業に専念することができますし、運搬業務がなくなります ので、1人で多くのお客さまに対応できるようになります。こ の部分をまずは整理することが、テクノロジーとともに歩むこ れからのホテル業のあるべき姿が明確となり、必然的に学 校や職場で教えるべきことが明確化するのだと思います。 これからは1 つのホテルでテクノロジーを理解している 人材が1割、サービススタッフが 9 割の割合で運営するよ うになるのではないかと思います。サービス業ではない部 分の業務を仕分けできテクノロジーに代替させる知識があ れば、サービススタッフは本来の業務であるお客さまへ顧 客満足につながるホスピタリティを提供することができるは ずです。これからはホテル人材としてテクノロジーを理解 し、顧客満足につながるエンジニアリング力を備えたホス ピタリティサービス工学の視点が不可欠だと思うのです。 小畑 サービスの仕分けは確かに必要です。ホテリエと して本来やらなくてはならないことが明確になります。それ によりホテル業界に対するイメージも変わります。 自社ホテルの基礎体力を明確にジャッジ 林 運搬業とサービス業を仕分けすることで、これまで サービススタッフ1人で4、5テーブルしかできなかった対 応が 10テーブルできるようになるかもしれません。レクサス の工場ではエンジニアは終日、移動することなく同じ場所 で整備作業を行なっています。それは必要な部品がエン ジニアのところに自動的に届くという自動化を図っているか らです。わざわざ工具などを取りに行く必要がありません ので、時間的ロスを軽減させ、集中して取り組めますの で生産性も高まり、労力という点でも働き手に優しい環境 を作り上げています。 少し視点が異なりますが、東南アジアのペニンシュラホ テルでは客室内にコックピットのようなものがあって、全世 界の放送を聴くことができますので手厚いサービスはなくと も、客室で十分に楽しむことができます。エンターテインメ ントを際立たせることにより、宿泊する目的が泊まるから楽 しむへ転換させることができ、結果的に売り上げアップに つなげられます。 また経営的に厳しい現状の中、損益分岐点を下げ、 いくら売り上げたら経営が成り立つのかを思考するととも に、本当にこのホテルの基礎体力はどのくらいなのかを見 極めることも大切です。その上で合理化すべきところ、投 資すべきところ、基礎体力を維持するための人材配置な ど、本来はホテル側に考えられる人の存在が不可欠です が、もし不在ということであればホテルの内情に詳しい外 部の人に依頼して、あらゆる業種におけるサービスとテク ノロジー化の仕分け作業をすべきだと思います。 小畑 林会長のおっしゃるように、賃金を上げるための合 理化や人員整理ではなく、エンターテインメントという要素を 軸にすることにより少人数で生産性を高めることができます。 これからはますます思考の柔軟性と何かと何かを結ぶエン ジニアリング力を養うためのカリキュラムは必要ですね。 遠山 その点で今回関わっている日本工学院専門学校 の取り組みは、林会長のご支援、アドバイスをいただき、 これまでのホテルスクールと違う目線に立ったカリキュラム を組んでいます。実務で使われているPMSの仕組みの 理解と実際に使われているPMSを使った講座を取り入れ ることで、ホテル運営やマネジメントを学ぶことができます。 また総合専門学校であるメリットを生かして、蒲田キャン パスに現存している22 学科 74 分野(2021 年度)の専 門コースとのコラボレーションを行ない、イベントやAIを取 り入れた授業を行なうことにより横軸で考えられる力、つま り林会長のおっしゃるエンジニアリング的な発想の醸成や エンジニアリングの発想にともなう、これからの時代を担う 若者たちが考える新たな仕組みを構築できることにつなが ると考えています。 多様な時代に対応するために、ひと言でいうと「次世 代のホテル業界を担うホテリエ」の育成を目指しています。 ホテリエとして最も大切なホスピタリティとインバウンド対応 の語学力を身につけた上で、ホテル運営そしてマネジメン トも遂行できる人材を育成したいと考えています。 ホテル業界で活躍する若者に表彰状を 石塚 卒業生でホテルに就職後、コンピューター会社へ 転職し、またホテル業界に勤め、現在ホテルの総支配 人として切り盛りしている女性がいます。コンピューターの 理論や実務を学ぶことで効率的に生産性を上げるための マーケティングと解析ができるなど、左脳を発達させること ができます。これからの時代、トップに立つホテリエは右脳、 左脳ともにバランスが良いこと、つまりシスティマティックに

JARC LIVE 9 考えられる人材の育成も不可欠であることが、卒業生の 経験からも裏付けられます。 またこれからはもっと女性が活躍できるホテル業界を目指 していかなければならない。卒業生で管理職として活躍 している女性も増えています。もっと、メディアを活用して 業界として輝く女性たちをフォーカスして次世代があこが れるスターを創出し、業界の皆さんが協力して輝いている ホテリエを表彰することで業界全体を盛り上げていくことも 業界のイメージアップに欠かせないことです。 小畑 視野を広げるという視点で当校では選択授業とし て週一日、学校外のスクールで学ぶことも推進しています。 例えばコルドン・ブルーの料理教室などがあります。実際、 調理実習を受講することで学生も変わっていきます。ホテ ル1本に集中するのではなく、ホテルに係る業種を知るこ とで“こういう世界があるんだ”と見聞が広がります。厨 房内のことを知ることで横軸に目線を広げることができま す。専門学校内に固執することなく、教育のアウトソーシ ングにより発想力を広げることができるのではないかと思い ます。 またその一方で徹底的に職業人を育てるためにホテル から大学へのキャリアアップも、ホテリエのプロフェッショナ ルを育成するために必要なことだと思います。 今年の新入生は入学早々に自宅待機となり、通学する ことができませんでした。待機中、学生たちは何をしてい たのかと聞くと、ウーバーイーツでアルバイトをしていたの です。 お客さまに注文されたお料理を運び、そして手渡しす る。人に出会えることにやりがいを感じていたのです。こ の話を聞き、ポジティブであり素晴らしいと実感した次第 です。 主旨と異なりますが、ホテル関係者の方々にも例えばフロ ントシステムを入れ替えたときに、ある意味、入れ替えた後、 すぐ本番で実践されていますが、お客さまとのトラブルが生 じないようにすること、使用するホテリエが新しいシステムに 対して不安を抱えたまま実務にかからないよう、そんなとき はぜひ、設備の整った専門学校の教室を活用していただ ければと思います。困りごとに対してお互いに助け合うこと も同じ業界を歩むものとしてあるべき姿だと思います。 「気づきのセンスや人文的人間力」「マーケティ ング」「テクノロジー」「管理会計」を学ぶ 遠山 当校は「人間力」を高める教育を以前から掲げ ており、知識やスキルだけでなく、問題を発見し解決する 能力の習得とコミュニケーション能力の向上に重点を置き、 魅力ある社会人の育成をすることにも力を入れております。 また、コロナにより対面が主体のホテル業界において非 接触によるおもてなしという課題を抱えています。林会長 が提唱されている「ホスピタリティ」×「ITスキル」を追 求する「ホスピタリティサービス工学」を学べる専門学校 を目指していきます。 またコロナに伴いCMの自粛を図るとともにオンライン面 接やオンライン試験なども進めていかなくてはなりません。 すべてがこれまでにない経験ですが、小畑校長がおっしゃ られた不況になるほどに強い専門学校の底力を活かし、 世界で活躍できるホテリエ育成に務めていきます。 石塚 オンライン授業の導入により、先生方も大変苦労さ れたと思います。またオンライン授業で才能を発揮された 先生もいらっしゃいました。急激な変化により潜在的なもの が顕在化されたような気がします。若き未来のホテリエの ためにもITを駆使しながらも、ホテリエ本来の力を発揮 できるよう、学校そしてホテル、産学が連携し、新しいホ テルの在り方、ホテリエの在り方を考え、業界と協力し改 善していきたい。 林 大切なことは自分のホテルのサービスポリシーや本来 経営者がどんなお客さまに来ていただき、訪れたお客さま にはこのホテルを通してどんな満足をしてもらいたいなど、 ホテルコンセプトを明確にした上で、テクノロジーを導入し ていかなければなりません。これからの時代、ホテリエと して成長していくには「気づきのセンスや人文的人間力」 に加え、「マーケティング」「テクノロジー」「管理会計」 など幅広い知識が必要になってきたと考えています。 これから始まるニューノーマル時代に、今も昔もホテル ほど素敵な商売はないのです。宿泊業界を支えていくホ テリエになるには、さらに誰もが働きたいと思う憧れの職業 にするためには、ホスピタリティサービス工学の考え方を取 り入れた「日本型ホスピタリティマネジメント経営学」を学 ぶことが重要だと思います。おもてなしやホスピタリティだ けではお金は稼げません。そのためあえて「ホスピタリティ マネジメント」の後ろに、あえて「経営」という言葉を加 えました。 魅力あふれるホテル業界、そして魅力あふれるホテリ エを育成していくためにも産学官がともに同じテーブルで 話し合いを行ない、新しいホテル経営・運営の在り方、 職場の環境改善や給与水準の見直しを進めていくべきだ と考えます。ホテルを支えるパートナー企業の集団である JARCとしても、ぜひとも、ホテル業界のさらなる発展に 向けた支援、提案をし続けていきます。 s p e c i a l i n t e r v i e w

10 -四季通じて根強い日本を代表する観光地・京都にス モールラグジュアリーホテルを開業されました。御社の ブランドによる誘客力は京都観光の新たな力となりま す。始めに「THE HIRAMATSU 京都」の概要を お聞かせください。 古都・京都の中心、室町通三条に建てた全 29 室の ホテルです。全室 54㎡以上の空間に上質な設えを施し、 客室でゆったりとしたひとときをお過ごしいただけるよう造 り上げました。京町家の意匠をまといつつ現代の快適さ を重ね持つ特別な設えは、名工・中村外二工務店の 監修によるものです。高級数寄屋建築の料理店の数々 を手掛け、日本を代表する現代の数寄屋建築の巨匠で す。当社はこれまで、賢島、熱海、箱根、沖縄と、リゾー ト地でオーベルジュ型のホテルを展開してきました。そん なリゾートの空間や雰囲気とは異なり、精巧な宮大工の 技と思いが注がれた空間は、ピシーッとした空気を感じ るとともに、日本人としてどこか落ち着くような雰囲気を醸 し出しています。手掛けた宮大工の方に“造って半分、 育てて半分”というお言葉をいただきました。まさにひら まつが目指しているマインドと同じで、どんなに素晴らし い空間でも皆で育て、進化していかなければ宝の持ち 腐れとなってしまいます。ひらまつは元々、フランス料理 の文化を日本で発信していきたいという創業者の思いか ら、レストラン事業を展開してきました。ホテルは、それ につづく事業であり、レストラン事業で培ってきたマインド、 “レストランは家族である”というスタンスを基本に、一 人一人のお客さまに向き合いつつも深入りはしない、ほ 2020年3月18日、京都の中心地・中京区の室町にひらまつ初の都市型スモールラグジュアリーホテルが開業した。古都・ 京都で育まれ、今もなお継承されている文化や街並み、割烹や和菓子やなど、 地域に根付くさまざまなものとの共生を図り、ひらまつそのもののブランドをより一層高めていく。 そこで今回はホテル事業部長を務める大下淑典氏に京都の施設概要とともに 消費会員14万人を誇るひらまつマインドをお聞きした。 造って半分、育てて半分 ほど良い距離感とチームワーク、 情報共有により 常に成長・進化し続けること 大下 淑典氏 THE HIRAMATSU京都ホテル営業部部長 次世代のホテリエ達 あの憧れのホテルにとまってみたい!スタッフクローズアップ

JARC LIVE 11 ど良い距離感を持って接することを大切にしています。 京都においても、そのマインドは受け継がれています。 ―ほど良い距離感はとても心地よいですね。落ち着き があり、明るさ、華やかさ、陽気さも持ち合わせた京 言葉の代表的な“はんなり”に近いものを感じます。 レストランにいらっしゃるお客さまの目的は多様です。 食を楽しみに訪れる方、記念日のお祝いで訪れる方、 ビジネスで接待を行なう方などさまざまです。お客さまに ご納得いただける料理をご提供することはもちろんのこ と、2 時間半という短時間でお一人2万円、3 万円とい うお支払いをしていただくわけですから、その対価に見 合う、調和のとれた空間、料理、接客をチームワークで 作り上げていくことが大切です。例えば清掃会社の窓拭 きが行き届いていない箇所があったら、スタッフが率先 してピカピカになるまで磨き上げています。大切な時間 を過ごしていただくため、そして対価としてご納得いた だける高いレベルのサービスをご提供できるように、チー ムワークで取り組んでいるのです。 そのような考えから、ひらまつではお客さまからのお誘 いはお断りしています。それは私のお客さまではなくひら まつのお客さまだからです。接客する者一人の力では ないのです。2時間半という短時間、短距離ですが、チー ムワークでお客さまに向き合うことにより、結果的にひらま つのファンとなっていただき、長距離を走り続けることが できるのだと思います。 ―それは素晴らしい考えです。どうしても“私のお客” と囲い込んでしまいがちです。 そのためには、お客さまの情報はどんなに細かなこと でも共有しています。気づいたことをメモで書き留めて おき、お客さま情報として発信しています。例えば“〇〇 様は左利き”などサービスの現場でなければ分からない 情報を皆、まめに記録しています。また顧客情報には ご来店された日時が記録されておりますので、そのとき に何を召し上がりになったか瞬時に分かります。例えば、 ご来店までの期間が短い場合は、今と同じコース料理 を召し上がっている可能性が高いため、別のメニュー をご案内したりしています。現在、ご来店されたお客さ まによる会員数は 14 万人いらっしゃいます。そのうち約 10 万人の方にはひらまつの最新情報をお届けできてい ます。 ―レストラン利用の顧客情報とホテル情報の連携はい かがですか。 宿泊施設に向けたホテルシステムは導入したのです が、現状においてはレストラン顧客情報との連携が構築 されていません。テクノロジーを活用して、より一層の価 値をどのように高めていくべきかという課題は、常に議論 されています。情報連携がとれることができれば、ご宿 泊されたお客さまにこれを機にレストランに足を運んでい ただいたときなど、より詳細な顧客情報を共有することが できます。また、その情報を元に、お客さまにも居心地 の良い時間を過ごしていただけるのだと思います。 京都では、ひらまつホテルズ初の割烹料理レストラン を設け、眼前に松の庭を望むカウンター席をご用意しま した。また、京都を中心に厳選された旬の食材を活か したイタリア料理店も併設し、和・洋併 せて 15 名の調 理スタッフにて対応しています。朝食はご宿泊者限定の ご提供で、和食または洋食からお選びいただけます。 夜は館内で割烹かイタリア料理をご利用いただいても結 構ですし、京都の街でのお食事を楽しんでいただいて も結構です。京都を思う存分、お楽しみいただければ と思います。 ディナータイムは宿泊者以外の方にもレストランをご利 用いただけます。ご宿泊者以外にも開放することで、 京都にお住まいの方や観光で訪れた方にもひらまつのレ ストラン、そしてホテルの認知度を高め、ずっと家族のよ うにつながっていけるきっかけになればと思います。その 意味でも大切な顧客情報をテクノロジーを用いて生かし ていくことは欠かせないことであり、喫緊の課題としてと らえています。 ―最後に今後の展開をお聞かせください。 来春 3 月16日には軽井沢御代田に滞在型リゾートホ テルが開業予定です。御代田は縄文土器が発掘され るなど、太古の歴史の宝庫です。浅間山麓、南向きの 広大な斜面約5万㎡の敷地に、28 の客室と9棟のヴィラ を予定しております。満天の夜空の星、清流、ふくよか な大地から収穫される野菜など、自然を大いに楽しんで いただければと思います。これからもこれまで通りにチー ム力を大切に、お客さまの大切な時間を遮らないほど良 い間合いを大切に、ホテル運営に臨んでいきたいと考え ております。レストランと双方で相乗効果を高め、唯一 無二のブランド醸成を高めていきます。 S T A F F C L O S E U P THE HIRAMATSU 京都 京都市中京区室町通三条上る 役行者町 361 URL:ttps://www.hiramatsuhotels.com

12 激しい「山」から自然の宝庫「森」に転身 ―屋久島は鹿児島・大隅半島から約 60 キロにあり、 豊かで美しい自然が残されています。島の 90%が森林 で樹齢 1000 年を越える屋久杉など、まさに自然の恵 みの宝庫です。始めに大木さんのプロフィールをお聞 かせください。 登山が大好きで信州大学の山岳会に入部し、アラス カや南米アンデス山脈、ヨーロッパアルプスからヒマラヤ の高峰まで、数々の山を登ってきましたが、山を登るほ どに激しい登山よりも森の中にいる方が好きなことに気づ いていました。これまでの経験を生かし2012 年に屋久 島への移住を決意しました。妻と初めて来島し、屋久 島の登山ガイドとしての暮らしが始まりました。屋久島の 森は想像以上の世界でした。屋久島は森だけではなく、 日本の繊細で変化に富んだ多種多様な自然が凝縮され た、まさに日本の宝、世界の遺産であることに感動し、 永住の地としました。 サンカラホテルとの出会いは 2 年前です。登山ガイ ドから「登山ガイド&バトラー」へと転身しました。こ れまでの屋久島での経験と知識をバトラー全員と共有 し、勉強会を開き、全てのお客さまの滞在が最高のス テイになるよう、現地のプロとしてのご提案をバトラー全 員でできるようになりました。山、森、水、里、あらゆる Activityをご案内できるのが自慢です。 プロの登山ガイドとお客さまのために尽くすバトラー、 異色のサービス業が手を組み、最高のサービスをしたい という熱意があったからこそ、理想的なチームワークが 生まれたのだと思います。 ―お話を聞いているだけでもとても生き生きとしている感 今年開業 10 周年を迎える「sankara hotel&spa 屋久島」。 真のホスピタリティサービスと世界遺産・屋久島への貢献を経営理念に掲げ、 オーベルジュ型リゾートホテルの座を築いている。 コロナ禍においても 29 室のヴィラのうち一日平均 20 室の販売実績を得るなど、支持率の高さを裏付ける結果を得た。 今回は登山ガイド&バトラーとして屋久島の自然とホテルをこよなく愛している大木信介氏に ホテルの魅力と今後の取り組みをお聞きした。 旅前のヒアリングから始まるバトラーサービス、 お客様に最上の滞在をご提案 ~屋久島を深く知る登山ガイドが バトラーという新しい舞台に立つ~ 大木 信介氏 sankara hotel&spa 屋久島 Activity Manager 次世代のホテリエ達 あの憧れのホテルにとまってみたい!スタッフクローズアップ

JARC LIVE 13 覚が伝わってきます。リピート率も高いとお聞きしています。 はい。これほどに支持をいただけるのは徹底した予約 チームによる旅行前のヒアリングと滞在中の情報収集に 徹するとともに、得た情報をスタッフで共有し、遊び心を 持って楽しんでいただける演出やサービスを行なってい るからだと思います。 事前のヒアリングを徹底する背景には、何をされたい のかを聞くことでご希望に対する最上のご案内をするた めです。必要な予約をとり、準備を整えて余裕をもって お客さまをお迎えします。旅前に 8 割方、滞在中の過 ごし方が明確になりますので、お客さまも安心してお越 しいただくことができます。またお客さま1組に対して旅 前からバトラーがつきますので、最後までお客さまのため に尽くしている姿勢がリピート率につながっているのだと 思います。 リピーター情報はヒストリーとしてホテルシステムに残 し、前回どのように過ごされたか、お好みなどの情報を 活かしながら次の滞在のご提案をしたり、サプライズを ご用意いたしています。おかげさまでコロナ禍において も夏休み期間中はお盆の時期をピークに、平均 20ヴィ ラの予約をいただいておりました。20 代からご年配の方 まで、幅広い客層にご利用いただけました。 ―大木さんもバトラーの1人として活躍されていらっしゃ るのですね。 ホテルで屋久島のガイドができるのは現状、私1人で すが、登山のご案内だけではなくバトラーとしても務めて います。お客さまを山にご案内すると、丸々一日ご一緒 することもあります。登山を通して絆も生まれ、お客さま とたくさんお話することができ、その情報が新たなるサー ビスへと繋がっていきます。山での体のダメージをセラピ ストと共有し、施術に活かしたり、下山中に膝を痛めた と聞けばバトラーは氷嚢を用意してお待ちしたり、新しく 得た情報でそれぞれが動いていきます。山登りを終えた お客さまに対しては、登山口から到着時間を伝え、山 から戻ったら直ぐにちょうどよい湯加減のお風呂に入れる ようにするのもバトラーサービスの一つです。 また、長くご一緒すれば、“滞在中にピクニックランチ をしてみたい”という声をキャッチすることもあり、すぐに Chef に連絡し、ご用意をしたり、ヘビーリピーターの誕 生日祝いをしたいけど、ただのプレゼントでは面白くない …、自分で海に潜ってとびきりおいしい貝をとり、Chef に特別なバースディメニューをご用意してもらったり、ハ ウスキーピングチームにユニークなターンダウンをお願い したり、アイデアは尽きません。その起点になれるバトラー という仕事は最高の喜びです。 ―素晴らしい連携ですね。情報はどのように共有され ているのですか。 インカムやアプリなどを使って何かをキャッチしたら情 報を共有するようにしています。急いでいるときには厨房 に駆けつけて相談したりもします。とんかく、情報が命、 皆でいち早く共有することを心掛けています。もともとエ ントランスゲートには車が通る際に情報が入るようになっ ていますので、チェックインのお客さまの場合はバトラー たちでお出迎えし、滞在中のお客さまがお戻りの場合は 担当バトラーを中心にお客さまの次の動きを想像し、先 手を打ち、お客さまをお待たせせずにスムーズな対応が できるようにしています。お客さまを見守るためのシステ ムを常に見直しています。 ―より一層の連携プレイですね。またホテルのお客さま に限らず、屋久島への貢献ということでさまざまな取り 組みもされていらっしゃいます。 SDGs の取り組みとして「Zero Waste sankara」チー ムを結成し、環境保護と「脱プラ」活動として、毎月 海岸の清掃作業を行なっています。また「サンカラ基金」 もオープン当初より行なっています。この基金は世界自 然遺産「屋久島」の環境保護を目的として設立された ものです。ホテルにご宿泊のお客さまより1回のご滞在 につき500 円を頂戴し、集まった寄付金を自然保護のた めに使用しています。千年単位のときの流れを描き続け られる島を維持していくためにも、お客さまにご理解とご 協力をいただきながら活動を行なっています。 ―素晴らしいことです。最後に今後の取り組みについ てお聞かせください。 「プロ登山ガイド&バトラー」をあと数名、増強したい と考えています。山が好き、人が好き、そしてちょっとスマー トでカッコいい、ロビーに立っているのが似合う人材を求 めています。無口、寡黙な山男とお客さまに寄り添うバト ラーとはまったく異なるものですが、ぜひ、お客さまのた めに遊び心を持ち、そしてチームワークを大切にできる 方がいらっしゃればと思います。 これからもこよなく屋久島とサンカラホテルを愛し、何 度でも足を運んでいただけるようなホテル、そして1人の 山男&バトラーとして務めていきます。 S T A F F C L O S E U P sankara hotel&spa 屋久島 鹿児島県熊毛郡屋久島町麦生字荻野上 533 URL:https://www.sankarahotel-spa.com

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