JARCLIVE8

60 ―はじめに東京會舘を代表する料理の一品である「ソー ルボンファム」が誕生した経緯をお聞かせください。 「舌平目の洋酒蒸」という料理は 1922 年創業わずか 2 週間後の結婚披露宴の献立に登場しています。「ソールボ ンファム」という名称で提供されたのは 1934 年、当時の調 理長・田中徳三郎のときでした。130年ほど前、パリにムッシュ・ プルニエという魚屋がいました。店の隣に開業した「レスト ラン・プルニエ」は、もともとあまり魚を食べなかったパリの人々 を虜にしました。プルニエという言葉は魚料理の代名詞に なったほどです。田中徳三郎はパリのプルニエで一年間修 業し、その後ホテルリッツでも研鑽を積み帰国後に完成させ たのが「ソールボンファム」だったのです。ソールは舌平目、 ボンファムは貴婦人という意味があり、とても気品ある上品さ を表現しています。 田中徳三郎の努力により東京會舘の「プルニエ」の名 は上がり、伊勢海老のテルミドールやブイヤベース、甘鯛の パピヨット、旬の鮑など、プルニエを代表する看板メニュー の数々を作り上げていったのです。 ―ところで「ソールボンファム」はどのようなお料理ですか。 バターを塗った鍋に舌平目を並べて塩・胡椒をし、シャン ピニオン(西洋マッシュルーム)の薄切り・エシャロット・パ セリのみじん切りを振り入れ、白ワインと魚のだし汁を入れて 蒸します。魚に火が通ったら鍋に残った煮汁を煮詰め、魚 のブルテを加えてよく溶く。最後にたっぷりのバターとオラン デーズソースを更に加えよく混ぜ、魚にかけてオーブンで焼 き色をつけたものです。おそらく濃厚なオランデーズソース は 1964 年に仏政府による3カ月間限定のレストラン「イル・ド・ フランス」が開業した際に来日した料理の魔術師の異名を 持つレイモン・オリヴェ氏のアドバイスを受け、改良されたも のかと思います。当時の調理長はのちに“現代の名工”と して表彰された二代目中川三郎です。食材を毎日空輸する こだわりで来賓をもてなす姿は今日の東京會舘の厨房の姿 勢でもあります。「ソールボンファム」も作り置きは一切行わず、 舌平目もその日のうちに下ろすなど鮮度にこだわっています。 ―舌平目は細かな骨が多くあり、1匹1匹下ろすには高い 技術が必要です。 生き物ですから鮮度の高いうちに素早く処理しなければ 劣化します。届けられた舌平目をすぐに下ろします。以前 は厨房に入ってすぐに舌平目を下ろすことはさせてもらえず、 5,6 年は鍋を洗うという修業期間がありましたが、今では労 代々のシェフが味を積み重ねて 生き続けている「ソールボンファム」 “社会が平和と協調を保ち、市民の幸福を増すためには何よりも健全な社交の場がなければならない”という初代会長・藤 山雷太氏らの熱い思いの元、1922(大正11)年創業したのが東京會舘だ。西洋文化の波が街中に広まり始めたころであった。 1934(昭和 9)年、フランス・パリのプルニエで1年間修行した当時の調理長、田中徳三郎氏が独自の味を作り出したのが、 「舌平目の洋酒蒸」ソールボンファムだ。少しずつ表現を変えながらもフランス料理の神髄であり、本場パリのプルニエよ りおいしいと評判を得たというまさに伝統の一品だ。 スペシャリテな一皿だからできる! 伝統の逸品

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