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46 世界的に広がった新型コロナ感染症によりホテル業界を取り巻く環境は一変した。宿泊・宴会・料飲ともにホテル運営を支 えている部門の低迷、感染症予防対策として求められる非接触。これまで対面サービスを重視していた中、今後どのように 対応していくべきか、明確な回答がないまま各ホテル手探りで対策に挑んでいる。『これからの宿泊業界が目指す現状と課題』 をテーマに帝国ホテル勤続 28 年の経歴を持つ、情報システム部長 花井伸二氏が登壇され、テクノロジーを下支えとした エモーショナルエンゲージメント必要性を提唱した。 プを直接従業員がいただくことをやめて、売り上げの 10%を 奉仕料としていったん会社が集め、それを全従業員に再配 分しようということになったのです。今では売り上げに対する 10%、15%のサービス料はホテル業界では当たり前となりま したが、その始まりは帝国ホテルだったのです。 ホテルウエディングも帝国ホテルが発祥です。開業当初より、 ホテル内の広い食堂の有効的な使い方として結婚披露パー ティが行なわれており、挙式は自宅や神社仏閣などで行われ ていました。1923 年、関東大震災で周辺の神社が倒壊 消失してしまったため、彦根市多賀大社の御分霊を帝国ホ テル内に安置して神殿を設え、披露宴とともに挙式も行なう ようになったのです。同時に写真館と美容室を作り、ホテル 内ですべて一貫して行なえるようにしたのが、いわゆるホテル ウエディングの始まりです。このように帝国ホテルは常に新し い取り組みを行なっていたのです。 新しいバイキングスタイルの提案 私は1992(平成4)年に帝国ホテルに入社し、あと2 年で勤続 30 年となります。在職 28 年中、13セクションを 経験しました。今は情報システムにかかわる業務を行なって います。 皆さんもご存じの通り、新型コロナウイルス感染症により ホテル業界を取り巻く環境は一転しました。帝国ホテルで人 気のある「インペリアルバイキングサール」は7月まで休業し、 8月1日に営業を再開しました。感染防止のために3 密にな らないオペレーションを行なうためにテクノロジーを活用し、着 席したままタブレットでオーダーし、出来立ての料理をお席に お届けするほか、一人用の小皿に分けるなど工夫しました。 結果、新しいバイキングスタイルはコロナ前よりも魅力が増 し進化したと思います。 帝国ホテルは基本、サービスをホテルスタッフがお客さま に提供することを旨としていましたが、コロナの影響により、 人がサービスしない方が好まれる場面も出てきました。サービ スというのは不変ではないということを改めて実感し、サービ スの在り方も見直していかなければなりません。 旅館業法改正により変化した宿泊業界 さて、皆さんはこれからの未来を知ることができますか? 一律のサービス料は帝国ホテルにはじまり はじめに帝国ホテルの歴史についてお話します。 帝国ホテルは1890 年(明治 23 年)に近代国家を目指 す日本の迎賓館の役割を担って、政財界らの働きかけによっ て、最高のおもてなしを提供するという志のもと、日比谷の 地に開業いたしました。今年で開業 130 周年を迎えます。 東京のほかに大阪と上高地にあり、総勢約 2500 人のスタッ フが勤めています。 帝国ホテルはサービス料を1946(昭和 21)年にスター トしました。それ以前は、アメリカ同様にチップ制を導入して いました。ところがチップは部署による不均衡・不平等があっ たのです。サービススタッフは事務系スタッフの倍以上の月 収となることもありました。基本給が低い分、チップをお客さ まから直接いただくことで生計をたてることができたのですが、 お客さまと直接対面しない部署はチップをいただけませんでし た。 そこで当時、チップ制度の改革を行ない、お客さまからチッ 花井 伸二氏 帝国ホテル 情報システム部長 ~お客さま、スタッフが喜ぶための テクノロジーの伴走と下支え~ データ化に基づいたエモーショナルエンゲージメント、心地よさの醸成 【日本工学院ホテルコース特別講義】2020 年 9月10日 これからの宿泊施設が目指す現状と課題【シティホテル編】

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