JARCLIVE8

JARC LIVE 49 いかに大変かがわかると思います。 ホテルのエコノミクス 宿泊部門はホテルの床面積の大半を占めるため、工事費 の負担が大きいですが、売上における運営利益率が高いです。 部門別利益率は60%程度見込めると思います。 宴会部門は立地する地域に十分な需要があり、競合に対 し優位性があるならば、投資効果は高く、宴会は重要な収益 源となります。部門別利益率は40%程度見込めると思います。 料飲部門は利益率が低く収益性には貢献度が低い例が多い ようです。部門別利益率は20%程度となることが多いと思い ます。 付帯施設で収益性が高いものはあまりないようです。例えば プールは水道光熱費が大きく収益性は極めて低くなります。海 外では多くの場合、宿泊者は無料ですが、日本では利用料金 を徴収する場合があります。スパトリートメントはセラピストの人 件費が負担となり一般に収益性は低いようです。 部門別利益から共通経費(約 20%とする)を除くと各部門の 利益は、宿泊部門:40%、宴会部門:20%、料飲部門:0% という試算になります。 宴会部門は需要も重要ですが、ブランド力や営業力で差が 出るためリスクが大きくなります。料飲部門は一般に収益性は 低ので、立地(宴会需要)とブランド力によほどの強みがなけ れば最小限の料飲施設を備える宿泊特化型ホテルとする例が 多くなっています。 一般的なシティホテルは200 室程度までは固定費が規模 に対し変化が少ないため、需要があれば 200 室までは室数 が多いほうが、収益性は高いと言われています。言い方を変 えると、規模が小さくなると、固定費の比率が高くなり利益を 圧縮することになります。 一方、200 室を超えると、空室を減らすために団体客を取 り込む必要が生じ、客単価の低下につながり易くなると言われ ています。 客室数はマーケットサイズや競合との関係をよく考えて設定 しなくてはいけないですし、運営方針にも大きく関わるということ になります。 一見ラグジュアリーホテルはエコノミーホテルより儲かると考え られるかと思いますが、必ずしもそうならないようです。ラグジュ アリーホテルは建設工事単価がエコノミーホテルよりはるかに 高いことに加え、付帯施設が多く総工事費は想像以上に大き くなります。一方、収益における利益率は低く、投資効率は 良くありません。マーケットもエコノミーホテルが大きく、ラグジュ アリーホテルに有利なのは競合が少ないことくらいでしょうか? ただし、ラグジュアリーホテルはブランド力に魅力があり、オフィ スビルとの複合のケースでは、オフィステナント誘致などに有効 となる例もあります。 コンセプトとはキャッチフレーズにあらず さて今回の本題のデザインコンセプトについてです。 まずコンセプトとはキャッチフレーズではありません。デザインコ ンセプトを決めるにあたってはまず始めに事業コンセプトを議論 していかなければなりません。事業コンセプトは「どのようなお 客さまをターゲットとして、どのようなサービスを提供していくのか」 です。事業コンセプトが定まった上で、「デザインによりターゲッ トとするお客さまに対してどのように感じていただけるか、どのよ うなきもちにさせるか。そしてどのように事業の目的に合わせ実 現するか」がデザインコンセプトです。 最近はライフスタイルホテルが注目されています。これまでの ように客室アメニティや設備、館内の施設がすべてそろってい る豪華さを売りにするのではなく、ターゲットとなる客さまが必要 とする、また喜んでいただけるアメニティや設備を厳選し、また 例えば文化や歴史を感じさせる知的な要素が垣間見えるデザ イン、サービスにおいても丁寧なものよりカジュアルに感じさせ るものやそれに見合った人材やユニフォームスタイルなど、ター ゲット層を軸にコーディネイトしています。 先日、山梨県にある「ふふ 河口湖」へ行ってみたのです が、駐車場には高級車のベンツがずらりと並んでいました。1 泊2人で10 万円ほどですが 20 ~ 30 代の生活に余裕のあ る若者のハートをきちんととらえています。ある海外のライフスタ イルホテルではアメニティ類が少なくティッシュもなくフロントに問 い合わせたところ調達できたのですが、ティッシュは販売用とし て用意されているなど、私自身は不便と感じるホテルでした。 このように不便と感じる人、快適と感じる人など開業当初は それぞれとらえ方が異なりますが、もともとターゲットとしていた 層にきちんとリーチできれば、例え客室が狭くても満足度は高く、 その印象や感じ方はSNSなどを通してクチコミで広がり、新 規顧客の獲得やリピーターをつかむことができるのです。ライフ スタイルホテルはまさにマズローの人間の欲求の法則でいれば 自己実現の層に匹敵するとともに、ホテル経営においても確 実に顧客の囲い込みができる運営手法ということになります。 実は、従来にもターゲット層を絞ったホテルはありました。い わゆるデザインホテル、オーベルジュ、テーマパークのホテル などです。これらは、広義に捉えればライフスタイルホテルと考 えて良いと思います。今後は日本市場においてもこのようなラ イフスタイルホテルは新しい流れとして注目されることでしょう。 宿泊者の五感を想像し、また押しつけではないホテルでの過ご し方を提案するためにも、まずはデザインありきではなく事業コ ンセプト、そしてデザインコンセプトの明確化が不可欠なことな のです。

RkJQdWJsaXNoZXIy NDU4ODgz