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4 祝 辞 衆議院議員自由民主党幹事長 全国旅行業協会会長 二階 俊博 日本政府観光局 総括理事 志村 務 日本観光振興協会 理事長 久保 成人 ご挨拶 特別企画 宿泊施設関連協会理事長 株式会社タップ代表取締役会長 林 悦男 宿泊施設関連協会最高顧問 元参議院議員 流通経済大学教授 藤野 公孝 協会の趣旨 アドバイザリーボード デービッドアトキンソン アドバイザリーボード 井門 隆夫 プレスボード 積田 朋子 プレスボード 阿部 貞三 連載 識者の目線 日本のホテル企業にとって、EU一般データ保護規制とは? 吉崎夏来 伊藤泰斗のロジロジロジック 研修は必要か不要か(1) 世界のホテル市場(総論) 北村 剛史 観光立国における宿泊産業の役割 ~観光視点による地域創生の核となるために~ サプライヤー探訪 第 1 回 メトロエンジン株式会社 旅行法律コラム 1 なにが旅館業法にあたるのか 田上 嘉一 庭の考察 北山 ひとみ [ TRAVELER'S VIOCE ]第 1 回 アーリーチェックインはどこまでできる? 橋賀 秀紀 ホテルニュース 組織図、ボードメンバー 会員一覧、入会案内 13 14 15 16 20 21 22 24 28 31 32 34 35 37 38 5 8 9 10 11 JARC LIVE は宿泊施設関連の 企業・団体・個人などが、 さまざまな情報や課題を共有し、 ともに未来の扉を開いていくた めのコミュニケーション誌です。 4

当協会の目指すこと 宿泊施設関連協会は、観光立国の中枢である宿泊施設とともに、刻々と変化する宿泊業界 がさらに発展していけるよう、宿泊施設に携わる同じ想いをもった企業が集まる協会です。 訪れたお客さまへ、よりストレスフリーな環境を提供することにより、それぞれの地域 が活性化していくことを目的とします。 また、先々の時代の変化にしなやかに対応していくため、品質向上や経営の効率化を宿 泊施設とともに考え、お互いに「稼ぐ力」を引き出し合っていきます。 では、何をしていくのか ●宿泊施設が抱えている人材不足、生産性向上、IT 革新などの課題に対して、宿泊施設を はじめ会員相互で話し合い、「新しい技術」「新しい商品」「新しい手法」などの解決方法 を探っていきます。 ●これからの宿泊業界のニーズを知り、業界の変化に対応するため、宿泊施設と勉強会を 開催して、先々の時代の変化に備えていきます。 ●日本の宿泊施設が必要な「日本らしさ」とは何かを、宿泊施設とともに当協会は勉強し ていきます。今後、「日本の宿泊施設」が輸出産業を目指す下支えとなれるように。 宿泊施設 設備・ 施設 人材 IT 交通・航空・運輸 建築・設計 ・デザイン 教育関連・ 教育機関 投資家・銀行 ・保険 マスコミ・ 広告 テナント・ ショップ スパ・ エステ 旅行業 宴会・婚礼 客室・フロント レストラン・ バー イベント・ プロモーション コンサル タント 厨房・調理 ・衛生 協 会 の 趣 旨 5

2020年までの目標 ~地域における宿泊施設の役割~ 観光地域づくりのため、それぞれの地域にある「宿泊施設」が中心となり推進していけ るよう、様々な宿泊事業関連企業とのアライアンス役になれることを目標に実績を積んで いきます。 2022年までの目標 ~宿泊施設を支える施策として~ 海外進出 海外で働く134万人の日本人に心の安らぎを与える場所を提供するために、日本の宿泊施 設が輸出産業になり、日本の文化の発信はもとより海外に劣らない経営・運営手法や品質 向上のための方法を模索していきます。またその土地に住む外国人の人々に、その土地に ある日本の宿泊施設を通して日本を体験してもらい、日本を訪れてもらえることを宿泊施 設とともに目指していきます。 ラストリゾート 国内外の日本の宿泊施設が、有事の際にその土地の人々の避難所や緊急病院となり、人々 の安全が確保される場所に宿泊施設がなれるようともに歩んでいきます。 宿泊業の地位向上 宿泊業に携わる人々の意識を高めていくとともに、宿泊業に必要なスキルが向上できる ようともに学んでいきます。 6

会員・サポーター・他協会有志の勉強会 「安心」「安全」「清潔」「環境(エコ)」「利便性(コンビニエンス)」を主眼に ● IT革新(AI・セキュリティ・ビッグデータ・チャツトボット・認証システムなど) ● ロボティクス、自動化(キャッシュレス・自動チェックイン機・自動精算機・IoTなど) ● 新サービス・新商品(日本文化・HACCP・事前決済・高齢者・身障者向けなど) ● マーケティング(インバウンド・DMO・リピーター・品質認証など) ● 労働(外国人労働・働き方改革・生産性向上・個人情報・規制・制度など) 時代の変化や旬の課題に対応する勉強会を随時設置していきます。 7

祝 辞 このたびは、一般社団法人宿泊施設関連協会の設立、誠におめ でとうございます。林会長はじめ、会員の皆様におかれましては、 日頃より観光・宿泊業界の発展、また観光立国推進のためご尽力 されており、敬意を表すとともに深く感謝申し上げます。 観光は経済波及効果の大きな分野で、ご存じの通り安倍政権に おいても重要政策に位置づけられています。2020年東京五輪とい う追い風もある中で、2017年の訪日外国人旅行者数は2800万人を 突破、20年には4000万人、更に30年には6000万人が目標とされて おり、現実的に達成可能な目標と認識されつつあります。 思い起こせば、小渕第二次改造内閣において運輸大臣を拝命し、 観光振興の旗振り役として「観光立国宣言」を提唱しました。当 時400万人にとどまっていた訪日外国人旅行者を倍増する、800万 人構想を唱えていたことも隔世の感があります。ここにきて、今 一度手綱を引き締め、国や地方、業界が一丸となり発展繁栄の道 を邁進せねばなりません。 観光は夢のある産業であり、その地方の歴史と伝統と文化その ものでもあります。国民一人一人にゆとりと充実感を与える奥の 深い産業でもあります。ゆえに、観光が我が国の基幹産業として 発展することは、異なる国や地域の人々との触れ合いを通して「新 たな日本の再発見」なくしてはありえません。 そのためにも重要なのは、観光・宿泊業界をはじめ周辺・関連業 界をも交えた横断的な情報交換、相互交流であります。宿泊業が 観光立国の一翼であることは間違いありませんが、一方で周辺業 界の皆の存在は欠かすことは出来ません。観光立国の屋台骨を支 えているといっても過言ではなく、相互の連携は不可欠でありま す。 この記念すべき契機を節目として活発な活動を展開され、宿泊 業界、関連業界のみならず観光産業全体を牽引いただきますよう お願い申し上げます。世界の旅人を温かい気持ちで迎え、内外の より多くの人々に、旅行、観光に深い関心と興味を寄せていただ けるよう、ともに手をつないで、前進していこうではありませんか。 最後に、一般社団法人宿泊施設関連協会の益々のご発展と、会 員の皆様方のご健勝とご多幸を祈念いたしまして、お祝いの言葉 とさせていただきます。 衆議院議員 自由民主党幹事長 全国旅行業協会 会長 二階 俊博 8

祝 辞 この度は、一般社団法人宿泊施設関連協会の設立、おめで とうございます。本法人は、観光・宿泊産業が関連異業種と の交流を通じ、発展することを目的として設立されたと聞い ております。宿泊施設のみならず関連する業界が一丸となり 宿泊業界を支え、観光振興に寄与するプラットフォームとし ての役割を期待しております。 多くの宿泊施設に関する団体、協会がある中で、宿泊施設 を支える周辺業界の組織、しかも全国規模の団体設立は私の 知る限りでは初の試みと思われます。全国組織ということで、 各地に支部を設けることになろうかと存じますが、観光に関 わる組織においては横断的な全国組織の形成は殊に重要であ ります。 観光振興の波を地方へ波及させようとする時に、観光の基 盤である宿泊施設はもとより、貴会を通じて関連する業界が 各地域において交流、情報共有などの活動を実践していくこ とは、地域の観光振興に大いに役立つことであると考えるか らです。 重要な問題とされる宿泊施設が抱える人材不足をはじめ、 生産性向上、IT技術革新など新たな課題に対して、新しい技術、 商品、手法といった解決方法を探っていくためにも、宿泊施 設はもとより関連する業界が繋がりを持つことは大変重要で す。貴会は生まれるべくして生まれた組織ともいえます。 貴会は、宿泊施設を支える周辺業界組織ということで、業 者間の交流はもちろんのこと、観光事業者間との連絡・協調 など、様々な場面で存在感は増していくものと思われます。 更には、宿泊施設の人材育成、サービス向上、施設設備の改 善などの分野で、宿泊施設の方々との関係で大きな役割を担 うことにもなるでしょう。貴会ならではの、観光事業に関す る調査や研究、提言なども期待しております。 最後になりましたが、貴会の益々のご発展と、会員の皆様 方のご健勝とご多幸を祈念いたしまして、祝辞の言葉とさせ ていただきます。 日本政府観光局 総括理事 志村 務 9

祝 辞 一般社団法人宿泊施設関連協会の設立、誠におめでとうござ います。「宿泊業に関連する業界団体」ということで、このた びの設立は、まさに時宜にかなうものであり、今後の発展を大 変期待しております。 宿泊業に関連する業界と一言では表せないほどその内容は多 岐に亘ります。人々が滞在する場所を提供するということから も、宿泊業に関連する業種は、一般生活に必要とされる様々な モノやサービス同様ともいえるでしょう。それゆえに、様々な 関連事業者の方々の協力なくして宿泊業は成立しません。従い まして、関連業界が団結する組織は生まれるべくして生まれた ともいえるでしょう。 いま、宿泊業界は大きな変化の渦中にあります。伝統的なス タイルの宿泊業態に加え、簡便に利用できる形態も注目を集め ており、利用者のニーズは益々多様化しております。そのよう な中で、宿泊業界のニーズを知り、変化を敏感に感じ取ること が関連業界には求められています。 一方、日本の宿泊施設に「日本らしさ」を求める声も根強く あります。貴協会は単に目先のニーズやブームばかりに囚われ ず、全国各地の様々な宿泊施設の皆様と共に観光振興とは何か という問いを持ち続けていただくことも必要かと存じます。 そして宿泊業の地位向上のため、宿泊業に携わる人々の意 識の高まりを喚起していくと共に、宿泊関連の事業者の方々 が宿泊業界と協同する場面でのアライアンスを応援する役目 にも期待しております。また、ITを活用し、宿泊施設や関連 事業者の方々の生産性を向上していく務めもあるかと思いま す。 最後に、一般社団法人宿泊施設関連協会の益々のご発展と、 会員の皆様のご健勝、ご多幸を祈念いたしまして、ご挨拶とさ せていただきます。 日本観光振興協会 理事長 久保 成人 10

11 ご 挨 拶 観光立国を目指し、わが国のリーディング産業として期待が 高まる観光産業の中核「宿泊産業」を、産官業とりわけ関連異 業種との交流拡大を通じて発展させることを目的として当協会 が設立されました。私も最高顧問として微力を捧げる所存でご ざいます。 理事長である林さんは、人格・識見ともに宿泊業界の至宝的 存在です。多くの業界関係者の皆さまのご参加・ご協力を頂戴 いたしまして、林理事長を中核とした宿泊業界の大同団結がこ こに実現することを切に望んで止みません。 宿泊施設関連協会 最高顧問 元参議院議員 流通経済大学教授 藤野 公孝 ご 挨 拶 日本が観光立国となるには、宿泊事業およびそれを支える関 連企業が時代の変化にしなやかに対応し、外国人のお客さまに とっても訪れたくなる日本にならなくてはなりません。 当協会へご賛同いただける皆さまとともに、日本人のみなら ず訪日外国人旅行者も安心・快適に旅先へ滞在できるよう、宿 泊施設のストレスフリーな滞在環境の整備を考え、すべての旅 行者の満足度を高めていくことで、宿泊事業発展の一助となる ことを目指してまいります。そしてこの実現には、宿泊事業を 「総合文化事業」として捉え、さらなる発展を目指していく必 要があります。 この想いのもとに2018年11月、宿泊施設に寄り添う幅広い業 界や業種の関係者の皆さまが垣根を越えて集うプラットフォー ムとして当協会を設立いたしました。 当協会へのご理解、ご協力を賜りますようお願い申し上げま す。 宿泊施設関連協会 理事長 株式会社タップ 代表取締役会長 林 悦男

13 これからの日本は今までどこの先進国も経験 したことのない人口激減時代に入っていきま す。2015年から2060年までの間に3264万人の生 産年齢(15-64歳)の日本人が減少すると予想 されています。それは世界経済では第5位の英 国を支えている労働者3221万人を上回る規模で す。労働者が減り、人手不足の問題が深刻化す るだけでなく、消費者、とりわけ消費活動が最 も活発な年代の日本人が激減する時代に差しか かっているのです。 政府はそれを先見して、減少していく日本人 観光客に代わり、訪日外国人の増加を目指して、 新しい需要源を開拓しています。それには当然 反対の声はありますが、内需だけで成立してい た時代が終わりつつある中で、訪日外国人を受 け入れたくないという考え方は短絡的過ぎて、 賛同できません。避けて通れない訪日観光戦略 と賢く共存し、どのように実現していくかが課 題だと思います。 当然ながら、訪日外国人戦略を実践する上で 最も重要なのは宿泊施設です。観光予算の約 49%が宿泊と食で占めているというデータがあ りますので、国内観光戦略以上に重要です。 また、観光戦略は「多様性」がキーワードで す。旅館、ビジネスホテル、民泊、5つ星、4つ 星など、すべてが揃って初めて日本の素晴らし い観光産業の潜在能力が掘り起こされます。 当然ながら、海外からの観光客は日本人以上 に時間とお金を投資して日本に来てくれます。 言葉や情報、楽しみ方もホテルに依存すること が多いのです。海外では良いホテルは良いハー ド面であるのは当然ですが、決定的な違いは宿 泊客にどこまで臨機応変に対応できるかという ことです。 そもそも外国人観光客は「(いい意味での) 暇な人」。宿泊施設はその暇つぶしのお付き合 いをサービスするという考えで、館内にいる時 間のみならず、館外へ出かけている時間もまた 楽しんでもらうことに対して、いかに貢献が出 来るか、どこまで対応することによって稼げる か、に大きなビジネスチャンスがあります。 これまでの観光業以上に、利益に繋げられる チャンスが目の前にあります。ビジネスモデル を調整して、新しいニーズを探り、それに応え ることによって、業界のさらなる発展に大きく 期待しております。 アドバイザリーボード 株式会社 小西美術工藝社代表取締役社長 デービッドアトキンソン

14 地球上から人の流れが消滅しない限り宿泊業 は存在し続け、地方創生においても地方経済の ハブとして宿泊業の存在価値や重要性は年々増 していくことでしょう。 しかし、10年間で国内旅行消費が約30%減少 し、なんとか訪日外国人の需要で一息ついてい るのが地方観光の現状です。この間、地方旅館 業の軒数も約30%減少しました。今後一層政策 の重要性が高まってくることになります。 例えば、今、宿泊業の労働生産性向上が叫ば れています。生産人口が減少する時代にGDPを 維持するためには、生産性向上が必須であり、 人口増加時代とは違った発想とやり方を進めて いかねばなりません。 また、宿泊業の生産性を考える際に、稼働率 の高い都市部のホテルや旅館と、稼働率の低い 地方の小規模旅館は分けて考えるべきです。生 産性が低いのは、2万軒以上に及ぶ地方の小規 模旅館業のためです。従業員の確保も難しくな り、家族経営の旅館は休業日を増やさなくては ならなくなっています。しかし、これまでの政 策は都市型のホテルや旅館にばかり向いていな かったでしょうか。 一方、地方の中山間地に目を向ければ、5千 人にも及ぶ地域おこし協力隊の一部の皆さん が、空き民家を改修して小さな宿泊業を開業し ています。宿泊業だけでは収入が不足するため、 二足の草鞋を履き、地方の魅力を発信していま す。こうした状況で、自治体は空き民家を紹介 するのではなく、後継者のいない宿泊業の事業 承継に結び付けていくことはできないでしょう か。事業者が個人事業主であれば、法人成りを し、事業譲渡とすれば不動産売買に比べて節税 にもなります。 地方創生のため、「地方から宿泊業の灯を消 さない」ことを目指し、小規模旅館業にも政策 が及ぶことを期待していたいと思います。 アドバイザリーボード 公立大学法人 高崎経済大学地域政策学部准教授 株式会社 井門観光研究所取締役 井門 隆夫

15 観光産業を日本の成長エンジンと位置づける 国策、「観光立国」推進のため、2008年10月に 国土交通省の外局として観光庁が設立されまし た。あれから9年半が経過。今までは、「観光= 遊び」と捉えられ、他産業よりも一段低く見ら れていた観光産業が、日本のリーディング産業 へとめざましい変貌を遂げつつあります。 特にインバウンドの分野では、2007年に835 万人だった訪日外国人旅行者数が、2017年には 2869万人となり、2020年目標の4000万人も達成 が確実視されるなど活況を呈しています。 一方、宿泊産業の現場では、人手不足、設備・ 施設の老朽化、多言語対応、バリアフリー対応 など解決しなければならない課題が山積してい ます。 観光経済新聞は、1950年に旅館新聞として創 刊し、68年間にわたり、日本の宿泊産業と共に 歩んでまいりました。 「日本の宿泊事業が世界に誇れる品質とサー ビスを兼ね備えた魅力ある産業となるようサ ポートし、地方創生の礎ともなるよう振興に努 め、また、宿泊施設を『地域文化交流』の拠点 として日本文化を世界に向けて発信し、日本の 国際競争力向上に寄与できるよう宿泊業界の発 展を目指す」という貴会の設立趣旨に深く賛同 し、弊社もプレスボードとして応援をさせてい ただきます。 貴会は、その名の通り宿泊施設“関連”協会 ということで、まさにいま誕生すべくして設立 された団体といえます。強靱なる全国的な組織 形成という横断的試みは、果ては地域経済への 大きな波及も期待させるものです。 今後の具体的な活動内容に期待しておりま す。 プレスボード 株式会社 観光経済新聞社 代表取締役社長 積田 朋子

16 2020年の東京五輪を目前に控え、ホテルの開 業ラッシュ、ホテルと旅館のリニューアルラッ シュに拍車がかかってきた。アウトバウンド 1700万人に対して、訪日外国人3000万人もクリ アする勢いが日本の観光を産業化しつつある。 そしてこのうねりが日本の都市部のみならず、 地方も活性化する起爆剤となり得る可能性が強 くでてきた。つまり、「観光」が地域を前進さ せるエネルギーを秘めているのだ。この躍動感 を支えているひとつが、人間相手のサービス産 業、おもてなし産業の代表選手でもあるホテル・ 旅館だ。 そしてこの宿泊施設は様々な協会、団体、組 合を結成して互いに連携し、精神的、情報的、 地域的なつながりを作り上げてきた歴史があ る。しかし、この宿泊施設と併走するサポーター 達や関連メーカーのつながりはか細く、弱い。 それを解消すべく、彼等の情報ネットワークを 少しでも有機的にし、宿泊マーケットにより動 きのある形で寄与しようとしたのが「JARC」 だろう。 言うまでもなく、観光産業は宿泊施設を軸に、 交通事業のインフラや多彩な関連メーカー、そ してメディアなどを包摂したものだ。それを受 けてこの「JARC」は企業力、商品力、情報力、 そして人間的なエネルギーなどをあざないなが ら、ホテル・旅館市場に貢献していこうという 高い志を有するものであると信じたい。 変化のスピードが加速する市場にあって、時 に挑み、時に補完し合いながら、宿泊施設の発 展や底上げに、そして観光産業のダイナミズム に役立つ「JARC」であってほしいものだ。 プレスボード 株式会社柴田書店 取締役 編集部部長 取締役 企画部部長 阿部 貞三 株式会社 柴田書店 2018年創刊55年を迎えた「月刊ホテル旅館」を軸に、 「月刊食堂」「月刊専門料理」の各月刊誌もすでに創刊 50周年を経ている。 「宿泊・外食・料理」の3ジャンルをおさえた雑誌と 書籍の刊行を続け、『皆様方の商売のお役立ち』を出版 事業の使命としている。 そして、柴田書店は東京五輪の2020年には創業70周 年を迎えることになる。

識者の目線 20 5月25日より、EU一般データ保護規則(GDPR: General Data Protection Regulation)が実施施 行されている。一般データ保護規則(GDPR)は、 欧州連合(EU)内のすべての個人に対するデー タ保護を強化し、統一することを目的とした新 しい欧州連合の規則である。1995年から施行さ れている旧法(指令95/46/EC)に代わり、今 回施行された。新しいGDPRは、個人データの 処理と自由なデータ移転における個人データの 保護を目的としている。また、GDPRは、企業 が個人データについてアクセス、取得、利用、 共有、保管する方法及び個人に対してアクセス を提供する方法を変更させることを意図してい る。 このGDPRは、個人データの範囲を拡張し、 「個人を直接的又は間接的に識別することがで きるすべての収集されたデータ」と再定義して いる。 EU圏内の規則だからと言って、国内のホテ ル企業にとって対岸の火事であると看過するこ とは全くできない。ホテル企業が自社公式ホー ムページにて、多言語で宿泊予約する機能を 保持している場合、仮にEU圏内からの予約受 注が可能である場合、GDPRを順守する義務が 発生する。順守義務に違反した場合には、最大 2000万ユーロ、または当該企業の年間売り上げ の4%のいずれか高い方の罰則金が科せられる ことになる。 ホテルでの宿泊予約においては、ゲスト氏名、 生年月日、公的機関が生成する個人識別符号(特 にパスポート番号、電話番号、民間クレジット カード番号、メールアドレスや予約番号もこれ らに準じる)を履歴として保存すれば該当する ことになる。また日本の国内法においては単独 で個人情報とみなしていない情報も保護の対象 としているため、ホテル企業がホームページ上 でアクセス者のCookie情報を取得するだけで も、GDPRの適用対象となる可能性が考えられ る。よって、ホテル企業の予約ページでは、か ならず予約の際の個人データ取得の承認をゲス トに確認させるステップ(オプト・イン表示) を多言語で用意することが求められる。オプト・ イン表示のステップがなされていない場合、そ の更新作業が終了するまではEU圏内からの予 約ページへの表示を遮断することをお勧めした い。 日本のホテル企業にとって、 EU一般データ保護規則とは? 吉崎 夏来 吉崎 夏来 Qooco Japan Chief Commercial Officer (CCO) SilverRail Sales & Marketing Advisor OTA Insight Distributor, Japan 連 載

21 以前、日本版エグゼクティブ教育研究会にて JALF理事でもある伊藤邦雄先生から「日本の 企業は社員に対する研修費が総売上の1%に満 たない。他国の多国籍企業では5%になる企業 さえもある。このままでは日本の企業からプロ フェッショナルは育たない。」という耳を疑う お話がありました。さらに「日本の企業は研究 開発費が総売上の1%に満たない。他国の多国 籍企業だと5%になる企業さえもある。このま までは日本の企業から新技術が育たない。」と も続けられました。この悲惨な実態がグローバ ル視点で見た日本の姿なのです。 研究開発やプロフェショナル育成などは異世 界の話で他人事であると考えている宿泊施設経 営者がいらっしゃるとすれば、これはなかなか 厳しいご認識だと言わざるを得ません。業種を 問わず人材需給が年々逼迫する中で、3Kとラ ベリングされている最不人気業界に明るい兆し が差し込むことはありません。辞めた者の代わ りに莫大な費用をかけて採用活動を行なうと共 に、雇用を継続させなければと唐突に「研修」 をはじめても、最終的には「効果が感じられな い」「ノウハウを抱えて転職された」という結 論になってしまうことは多くあります。 「研修」は必要です。しかし、研修の本質が 理解されず、研修だけがひとり歩きしているよ うに思える状況にあります。 JALF理事でもある星野リゾート代表の星野 佳路氏も、事業を引き継いだ当時、最も苦労し たことが人材の採用と継続だったと話されてい ます。リゾートや日本旅館の多くの職場は地方 にあり、今以上に地方で働くことに対するネガ ティブ意識が強い時代だったため、「どうした ら入社していただき継続して働いてもらえるの かが最重要課題であった。」と。しかし、その 課題に直面することにより、組織のあり方を考 えるチャンスにめぐり合え、今の星野リゾート の組織文化が構築されたのです。 「私たちが気づいたのは、仕事が楽しくなけ れば人は来てくれない、単に必要な仕事をお願 いするばかりでは、社員はいずれ辞めていって しまうという単純な原理です。」 雇用主が求めているのは、決められた手順を そつなくこなして指示に従うだけでなく、それ 以上の貢献ができるタイプです。つまり、自ら 学習し、問題を解決し、鋭い疑問を投げかける 意欲のある人材です。彼らはモチベーションを 高く持ち、自発的に考えて行動し、自分たち がやりたいことを実現するまで粘り強く取り組 み、あきらめません。 そんな人材の宝庫を作る方法は次回!(続く) 伊藤泰斗:JALF財団法人宿泊施設活性化機構事務局長 伊藤泰斗のロジロジロジック 研修は必要か不必要か(1) 伊藤 泰斗

22 ホテル市場の主たるファンダメンタルは、 人口及び所得水準である。世界人口は現在 約74億人、成長率は徐々に低下するものの 増加傾向で推移し、2030年では85億人が予 想されている(国連資料)。では経済成長 についてはどうだろう。PwCによる調査レ ポート「2050年の世界」によると、世界経 済が2014年から2050年までに年平均+3%強 のペースで成長し、経済規模が2037年まで に倍増、2050年までには3倍近くになると予 想している。つまり人口及び所得水準とも 堅調な推移が予想される中、今後も国際観 光市場は一層活性化が期待されるものと言 える。以下では、昨今の世界におけるホテ ルトレンドを整理してみたいと思う。 インターネット環境も劇的に変化してお り、個々の顧客が自身の嗜好にあったホテ ルを自由に選択できるようになった。つま り益々ホテル市場は成熟化の一途をたどっ ているのである。そのような環境にあって、 顧客ターゲットの間口が広いクラシック型 ホテルから、一層ターゲットを明確化し、 個別ニーズに高次元で対応するライフスタ イル型あるいはディスティンクティブ型ホ テルが多く見られるようになってきた。 以下では、世界の著名ホテルチェーンが 用意しているホテルブランドについて、縦 軸に料金グレード、横軸にクラシック型か らディスティンクティブ型の2軸を取って主 要な海外ホテルブランドを仮に整理すると 以下のようなブランド・ポジショニングが 見られる(日本に未進出ホテルについては、 ホームページ等より推定)。 成熟化が進むホテル市場において、ホテ ル側から明確なブランドメッセージ、ブ ランドコンセプトの表明がなされることで ターゲット顧客の抱え込みが進み、その結 果、既存ホテルチェーンでは、ブランド階 層の複雑化が顕著な傾向であると言える。 この背後には、個人の嗜好を強く主張する ミレニアム世代向けホテルブランド(ディ スティンクティブ型ホテル)とアクティブ シニア向けホテルブランド(クラシック型 ホテルブランド)それぞれが求められてい る結果であるとも考えられる。 世界のホテル市場(総論) 北村 剛史 ウォルドルフ・アストリア マンダリンオリエンタル パークハイアット コンラッド ザ・ペニンシュラ シャングリ・ラ ザ・リッツカールトン セントレジス ホテル&リゾート JW マリオット フェアモント フォーシーズンズ ホテル ハイアットリージェンシー グランドハイアット マリオット・ホテル ウェスティン ラッフルズ ハイアット ヒルトン エンバシー・スイーツ・ホテルズ シェラトン アンダーズ The Unbound Collection by Hyatt ランガム ランガムプレイス キンプトン ホテルズ&レストランツ インターコンチネンタル ホテルズ&リゾーツ イーブンホテルズ ソフィテルレジェンド ダブルツリー バイ ヒルトン ヒルトングランド バケーション ホームウッド・スイーツ バイヒルトン ヒルトン・ガーデン・イン フォーポイント バイシェラトン デルタ・ホテル マリオット バケーションクラブ トゥルーバイヒルトン ハンプトン・ホテルズ スプリングヒル・スイート バイ マリオット プロテアホテル ホーム2スイーツ バイ ヒルトン イビスバジェット ホテルF1 トレダースホテル ホテル・ジェン ルメリディアン ホリデイ・イン ホテル ホリデイ・イン リゾート ホリデイ・イン エクスプレスホテル ホリデイ・イン クラブバケーションズ ステイブリッジ スイーツ キャンドルブリッジ スイーツ ノボテル イビス メルキュール ハイアットハウス ハイアットプレイス ホテル インディゴ クラウンプラザ ホテルズ&リゾーツ ケリーホテルズ コルディス イートン ソフィテル リクソスホテルズ スイスホテル アダージョ・プレミアム グランドメルキュール The ママ・シェルター アダージョ イビススタイルズ アダージョアクセス ダーワ アンサナ ルネッサンス・ホテル モクシー エレメントホテル アロフトホテル ゲイロード・ホテル Sabel エースホテル キャノピー キューリオ プルマン ワンファインステイ ハイアットセントリック ザ・リッツカールトン・リザーブ ブルガリ・ホテル&リゾート エディッション・ホテル オートグラフコレクション・ホテル ラグジュアリーコレクション バイヤンツリー アマン Wホテルズワールドワイド マンダリンオリエンタル ヒルトン ハイアット シャングリ・ラ ランガム マリオット スターウッド インターコンチネンタル アコー バイヤンツリー フォーシーズンズ アマンリゾーツ CLASSIC DISTINCVTIVE LUXURY ECONOMY コートヤード バイ マリオット フェアフィールド・イン &スイートバイ マリオット タウンプレース・スイート バイ マリオット レジデンス・イン バイ マリオット HUALUXE(華邑) ホテルズ&リゾーツ ソフィテル SO Mギャラリーbyソフィテル 25hoursホテル ACホテル バイ マリオット 香港&上海ホテルズ JO&JOE アンサナ トリビュート ポートフォリオ 北村 剛史 株式会社 日本ホテルアプレイザル 取締役 一般社団法人観光品質認証協会 統括理事 不動産鑑定士,MAI,FRICS,CRE

24 日本の目指すべき観光立国のあり方(姿)とは 玉井 観光立国という流れの中で数字的な目標 値は明示されていますが、どのような観光立国 を目指していくべきか。お二人の忌憚なきお考 えをお話しいただければと思います。 久保 数字が決まっているというのはインバウ ンドの数字だと思いますが、日本人の国内観光 は横ばい状況になっています。これもまだまだ 数字的には伸びる余地があると思います。イン バウンドだけではなく、国内観光も日本人の海 外旅行もやはり伸びていく状況を作っていくこ とが必要だと思います。 玉井 村山さんは実際インバウンドビジネスを されていますが、インバウンドの位置づけにつ いてはどのようにお考えでしょうか? 村山 インバウンドは今後伸びていく大きな マーケットです。まだ4兆円を超えた程度で2020 年に4000万人の8兆円、40年に6000万人で15兆円 超えを目指す高い目標を日本政府も掲げていま す。観光立国の流れをみますと、インバウンド という観念自体、 今後薄れていくと 思います。つまり、 外国人観光客が来 ること自体が自然 になり、その中で 地域や施設側とし て、「誰をターゲッ トにするのか?」この点をクリアにしていくこ とが不可欠です。富裕層を狙う施設であれば、 世界からそのグレードの施設に宿泊できるだけ の余裕のある見込み客を集める、つまり、日本人、 外国人を分けて考える必要はないのです。 特別企画 観光立国における宿泊産業の役割 ~観光視点による地域創生の核となるために~ 前 観光庁長官 公益社団法人 日本観光振興協会 理事長 久保 成人 ファシリテーター 大妻女子大学特任教授 一般社団法人 宿泊施設関連協会 顧 問 玉井 和博 株式会社 やまとごころ代表取締役 一般社団法人 宿泊施設関連協会 理 事 村山 慶輔

25 玉井 観光とは基本的に平和産業。平和である ことが大前提のビジネスだと思いますが、こう した中で2013年の様なカントリーリスクという 点については、ある程度受け身でしか対処出来 ないという事になるでしょうか? 久保 相手国の事情によって、日本へ来るお客 様が大変影響を受けるという意味のカントリー リスクは常にあるということです。双方向の交 流を大きくしていくことが、お互いの国と国の 緩和材料になるだろうと思います。色々な国や 地域、階層の方に日本に来ていただくというこ とがやはり大事だろうと思います。 村山 カントリーリスクの大きい国に依存しす ぎない事が大切です。また、インバウンドにお けるカントリーリスクは団体旅行・個人旅行で 違います。団体旅行の方がすぐに影響を受ける ため、バランスも重要です。 宿泊産業における生産性の本質と 技術革新の捉え方とは 玉井 多国籍かつ様々な方がいらっしゃる中で の対応としてIT・AIが話題になっていますが、 グローバル化という視点からはいかがでしょう か? 村山 IT・AIとはいえ、やはり人材はとても 重要だと思います。宿泊施設もそうですが人材 がトータルのレベルを決めます。グローバル化 を考える上で、人材のグローバル化が不可欠で す。海外や外資系に勤めることもいいですが、 特に重要なのはマーケティング力を身につける こと。 久保 日本の他の地域、あるいは外国に対して どう売っていくのかというマーケティングの人 材が不足している というのが実情で す。特にDMOが、 今後地域において 重要な役割を果 たしていく上で、 マーケティング人 材の充実が課題で す。 玉井 マーケティングの視点や手法という点か ら、新たなポイントの様なものはありますで しょうか? 村山 マーケティングを突き詰めていくと、究 極はワントゥワンですね。そのためには顧客の データを一元管理し、適切なタイミングで適切 なものを案内していく。宿泊施設では日本人向 けには顧客管理ができていても、インバウンド においては何もしていないところが多いのが現 状ではないでしょうか。 久保 ビッグデータ、ビッグデータというけれ ど、それだけでは限界があると感じています。 村山 ビックデータの使い方として、やはり誰 がその切り口でデータをみるかは大切です。そ して現場感は殊に重要でしょう。 玉井 この話はすごく重要で、現場から上がって くる報告を受けても、実際の状況は現場じゃない と分からない。そのリアルさをどうやって捉えて いくかが難しい。問題はそこのところをITがど

26 こまで精査できるかという話になりますね。 宿泊施設の多様化と民泊の課題 玉井 次に民泊についてお話を伺えればと思い ます。エアービーを始めとする新たなビジネス モデルの登場は、旅館業法はもとより、泊まる という概念までガラリと変えてしまう。この辺 についてはいかがでしょうか? 久保 民泊といっても、人それぞれ異なるイ メージがあると思うのですが、日本人の家庭が 空いている部屋を使って、日本人あるいは異文 化のお客さんを迎え、その地域を体験してもら うというのは典型的です。空室利用、空室対策 というか、不動産管理的な発想というのもある。 みなさんの頭の整理をした上で議論していく必 要があると思います。 村山 大きく捉えると観光客に対して選択肢が 増えるっていうのは良いと思っています。地域 によって5スターのホテルもあれば、ビジネス ホテル、民泊もあるというように多様性が地域 の魅力になると考えます。 玉井 個人的には地域性モデルと考えていま す。ただ、各地域社会の経済性や社会特性とい う面からも、やるのかやらないのかは地域に任 せる、国が全てをコントロールするというのは 不可能だと思います。 久保 その地域がどういう人をウェルカムだと 思うのかどうかということですね。やはり地域 のご判断だと思うんです。ただホームステイ型 民泊や農泊みたいな、ある意味で望ましい、やっ た方がいいのではという形態があまり抑制され るのもどうかと思います。スタート時点におい てあまりにもヤミ民泊等が多かったがゆえに、 地域の人に警戒されてこのようなスタートに なってしまったのではないかと思います。ホー ムステイ型民泊だとか、農泊だとかそういった ものを推進する形になっていくことは、地域に とってもプラスになると思います。 村山 選択肢が増えるのは基本的に良いと思い ますが、大手不動産会社等の参入で過剰供給に なると価格破壊含め様々な問題が発生します。 当然、地域や住民とのバランスも必要です。久 保さんのおっしゃるように民泊には農泊含め 色々あり、それぞれの良さを理解することが重 要。地域にとっても民泊は遊休資産に人を外か ら呼び込みお金に替えることができる。それが 地域の活性化に繋がる可能性もある。究極的に は地域や住民にとってその地域をどうしたいか に尽きるのではないでしょうか。 玉井 マーケティングということですね? で はどうやって切り分けていくのか? 久保 地域側でどう考えるのかということが大 切だと思います。全てを拒否してフェイドアウ トしてもいいという話ならそうした選択もある

27 のでしょう。観光地の経営主体がどっちへいく のだ、これはやめるのだ、こっちを進めるのだ と判断していくことが必要かと思います。 日本におけるインバウンドビジネスの 可能性と課題 玉井 インバウンドは数字に現れやすいです が、インバウンドを持続可能なビジネスとして 捉える時のポイントはどの様な点でしょうか? 久保 訪日観光客数もそうですが、やはり消費 額を指標としていくことが、観光産業持続可能 性を考えるときに 重要です。経済効 果や消費額の向上 という観点に切り 替えていくことが 必要でしょう。人 数が増えるのはい ずれ厳しい状況に なっても消費額は工夫によって更に増やしてい く可能性はあると思います。 玉井 着地型観光という視点では、地域を限定 したDMO中心の活動がなかなか難しい現状の 様です。価格が安い、規模が小さいという課題 はあると思うのですが。実際どのように対応し ていくのか。これについて村山さんはどう思わ れますか? 村山 DMOの話でいえば、ちゃんと稼げる、 収支がまわっている所は少ないと思います。そ の中で着地型のツアーをつくるというのは、も ちろん1つの施策であると思います。とはいえ ツアーの造成単体だけで収益を出すのは難し い。複合的なところで出していかないとならな い。他方、宿が主体だと発想が違うんです。コ ンサルタントとか代理店の人が出向くとなれ ば、そこで稼がなきゃならないからちょっと無 理が生じる。 久保 宿泊施設が主体的活動をしないと上すべ りしていく感じがします。 玉井 そうした点からも、宿泊施設にかかわる 関連業界団体であるJARCの横断的組織として の役割が、益々大きく重要になっていかねばな りませんね。 (終わり)

28 ホテル向けのウェブサービスで知られるメト ロエンジン株式会社。レベニューマネジメント ツールで高い評価を得ている。これまでレベ ニューマネージャーが主導で行っていた市場調 査、価格の設定などでAIを活用で効率化、自動 化しているのも特徴だ。 レベニューマネジメントツールと同時に調査 ツールも提供している。市場、データ分析ツー ルとしては、日本全国約4万5千施設の単価情 報、プラン情報、口コミなどをすべて収集。需 要予測に必要な、例えばイベント情報、ホテル 開業予定情報といった供給部分の情報も集めて いる。 機械学習の面では様々なビッグデータを収 集。実績データから例えば「訪日旅行客数4000 万人は来るといっているけど本当にいくの か?」といった予測データを作っている。また、 「ホテルバンク」というデータを使ったメディ アという形で、ホテルに特化したメディアの運 営を行っている。 「口コミだけを提供している会社さん、競合 施設の情報だけ提供している会社さんなどホテ ルシステムの会社は多様ですが、それらのツー ルを網羅して提供させて頂くことで、いろんな ツールを契約する必要がそもそもなくなる」と 同社の代表取締役CEO田中良介氏はいう。 もう一つの基幹事業が「民泊ダッシュボード」 という民泊のPMS。民泊の管理者、運営代行業 者向けにツールを提供している。一括管理ツー ルがあって、予約状況なども簡単に把握するこ とができるようになっている。 ところで、ホテルは人、ヒューマンが大事だ と言われる。IT・AIと人によるおもてなしは 相反するという声は根強い。 一方で、データを扱う、データを見て判断す るというのは人の手、目だとどうしても処理で サプライヤー探訪 第1回 メトロエンジン株式会社

29 きない量になっている現代。その日の稼働率を 予測する場合にも、稼働率を構成する要素は大 量にある。 イベント・国内需要・海外需要・競合の価格・ 在庫・販売・客室プランなど、様々な要素が あってその日の稼働率と収益額が構成されてい る。確かに人の手、経験則で処理するのには限 界がある。例えばエクセルで処理しようとして もデータが大量だと、そもそもどのデータが自 分の施設にワークしているのか、していないの かも判断できないだろう。 田中CEOは語る。「サービス自体はアナログ だと思うんです。結局AIでサービスの質は上げ られないんですよね。朝食の質をよくするとか、 サービスの質をよくするとか、そのあたりとホ テルの競争力は直結しています。AIでここの競 争力は弱いですよという提示はできても、サー ビスそのものの質自体を上げることはできない んです」。 タブレットが置かれた無人の受付からオフィ スに至るまでシステマティック。まさにIT・ AIというイメージがピッタリのメトロエンジン。 でもそこには“ヒューマン”があふれていた。 会社名 メトロエンジン株式会社 設 立 2016年10月31日 代表者 代表取締役CEO 田中 良介

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