JARCLIVE1

32 庭園は人類の文化史において長い歴史を持 ち、民族や宗教観、世界観に基づいて世界各国 で様々な様式が作り出されてきた。ヴェルサイ ユ宮殿の庭園に代表される幾何学的な構成を追 求したフランス式庭園や、自然の景観を生かし たイギリス式庭園などはその代表的なものであ る。しかし、日本人にとっては「庭」とは単な る施設にとどまらない、ある特別な意味を持つ ものであった。 平安時代に著された『前栽秘抄(作庭記)』は、 まとまった庭園に関する書物としては世界最古 のものといわれている。それによれば、庭とは 自然の景観を人間の生活空間の中に再構成する ものとされているが、それは厳しい自然の景観 をそのまま再現するのではなく、「やハらげ」て、 すなわち自然を人間と調和するように再構成す るものであった。つまり、日本人にとって「庭」 とは、人間と自然が共生するための特別な装置 であり、意匠だったのである。また、『前栽秘 抄』の中には「山水をなして、石をたつる事ハ、 ふかきこゝろあるべし」という言葉も見られる。 庭はただその姿を眺めるだけではなく、それを 通じて人間の精神を表現し、顧みるための場所 でもあったのである。「竜安寺の石庭」として 著名な竜安寺の方丈庭園などからは、庭が人間 の内面へと深く向かわせる思索的な意匠であっ 庭の考察 北山 ひとみ

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