安全で楽しい登山を目指して

99 第9章 山の天気 図10 小蓮華山付近で6名が低体温症で亡くなった日 の天気図 図11 トムラウシ山で大量遭難が発生した日の天気図 これらをご覧いただくと、いずれのケースでも日本列 島の東や北に低気圧があり、遭難が発生した山の辺りで 等圧線が込み合っている。こうした状況のとき、日本海 側の山岳では北西や西よりの風が強まり、日本海からの 湿った空気が山地で上昇するため、日本海側の山岳で雲 が発達し、風雨の荒れた天気となる。10月の3連休や、 5月の大型連休の頃は中部山岳北部や北日本の標高の高 い山岳では吹雪になることがある。 このような気圧配置のとき、残念ながら、平地の天 気予報は風下側を中心に良くなることが多く、山頂の天 気と大きく異なることが多い。特に風下側の山麓の天気 を利用することは絶対にやってはならないことである。 低体温症による気象遭難を防ぐには、登山前に予想天 気図を見ることがもっとも重要だ。低体温症による遭難 が発生した日の天気図と同じような気圧配置のとき、日 本海側や標高の高い山の縦走は非常にリスクが高い。 (2) 登山中における気象判断 低体温症による事故は、天候悪化を予想できなくても、 引き返すべき場所で登山を中止して引き返せば無事に下 山できたケースがほとんどである。ここで言う引き返す べき場所(以下、ターニングポイント)とは、「ここから 先、進んでしまうと、天候が悪化したときに進退窮まる 可能性がある場所」のことである。 ターニングポイントとして設定すべき場所は 1. 森林限界を越えるところ、森林のない開けた場所に 図10 小蓮華山付近で6名が低体温症で 亡くなった日の天気図 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 第9章 山の天気 亡くなった日 た日の天気図 これらをご覧いただくと、いずれのケースでも日本列 島の東や北に低気圧があり、遭難が発生した山の辺りで 等圧線が込み合っている。こうした状況のとき、日本海 側の山岳では北西や西よりの風が強まり、日本海からの 湿った空気が山地で上昇するため、日本海側の山岳で雲 が発達し、風雨の荒れた天気となる。10月の3連休や、 5月の大型連休の頃は中部山岳北部や北日本の標高の高 い山岳では吹雪になることがある。 このような気圧配置のとき、残念ながら、平地の天 気予報は風下側を中心に良くなることが多く、山頂の天 気と大きく異なることが多い。特に風下側の山麓の天気 を利用することは絶対にやってはならないことである。 低体温症による気象遭難を防ぐには、登山前に予想天 気図を見ることがもっとも重要だ。低体温症による遭難 が発生した日の天気図と同じような気圧配置のとき、日 本海側や標高の高い山の縦走は非常にリスクが高い。 (2) 登山中における気象判断 低体温症による事故は、天候悪化を予想できなくても、 引き返すべき場所で登山を中止して引き返せば無事に下 山できたケースがほとんどである。ここで言う引き返す べき場所(以下、ターニングポイント)とは、「ここから 図11 トムラウシ山で大量遭難が 発生した日の天気図 これらをご覧いただくと,いずれのケースでも日本 列島の東や北に低気圧があり,遭難が発生した山の辺 りで等圧線が込み合っている。こうした状況のとき, 日本海側の山岳では北西や西よりの風が強まり,日本 海からの湿った空気が山地で上昇するため,日本海側 の山岳で雲が発達し,風雨の荒れた天気となる。10 月の3連休や,5月の大型連休の頃は中部山岳北部や 北日本の標高の高い山岳では吹雪になることがある。 このような気圧配置のとき,残念ながら,平地の天 気予報は風下側を中心に良くなることが多く,山頂の 天気と大きく異なることが多い。特に風下側の山麓の 予報を利用することは絶対にやってはならないことで ある。 低体温症による気象遭難を防ぐには,登山前に予想 天気図を見ることがもっとも重要だ。遭難が発生した 日の天気図と同じような気圧配置のとき,日本海側や 標高の高い山における行動は非常にリスクが高い。 (3)登山中における気象判断 低体温症による事故は,天候悪化を予想できなくて も,引き返すべき場所で登山を中止して引き返せば無 事に下山できたケースがほとんどである。ここで言う 引き返すべき場所(以下,ターニングポイント)とは, 「ここから先,進んでしまうと,天候が悪化したとき に進退窮まる可能性がある場所」のことである。 ターニングポイントとして設定すべき場所は 1.森林限界を越えるところ,森林のない開けた場所 に出るところ 2.エスケープルートとの合流,分岐点 3.支尾根に出るところ 4.主尾根(稜線)に出るところ 5.岩稜帯や岩場に入る手前 の5つである。7) ターニングポイントは,登山ルートによっては終始, 樹林帯の中で全くない場所もあれば,5つも6つも出 てくるルートもある。ポイント数が多いルートはその 都度,前進するか引き返すか,一時停滞して天候回復 をその場で待つか,エスケープルートを選択するか, その近くでビバーク(不時露営)するかを決めなけれ ばならない。その際には,今後の気象状況,この先の ルート状況(冬季は積雪状況も),途中で避難小屋な ど悪天を確実に退避できる場所があるかどうかや,そ の場所までに要した時間と想定していた時間とのず れ,メンバーの体調,スピード,体力,経験,技術, 目的地までの距離などを総合的に考えてもっともリス クが少ない方法を選択する。 また,荒天時に,森林限界に近づいてきたときは, ゴーゴーという風の音や木々が大きく揺さぶられる光 景を目にする。その場合,リーダーが尾根上や森林限 界より上部に偵察に行って,進退の判断の材料のひと つとしたり,進むと判断したときは,風の影響が小さ い樹林帯や尾根の風下側で防寒,防風対策を万全に した後,メンバー全員の体調や着衣を含めた装備を チェックして出発することが重要だ。 また,低体温症による気象遭難は,出発時に青空が 広がり,ターニングポイントを越えてから天候が急激 に悪化する状況でよく起きている。これを防ぐには, 登山前に天気図から天候の悪化を予想することと,現 場において天候悪化の予兆となる雲や風の変化を見て いくことが大切である。

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