安全で楽しい登山を目指して

100 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 8 気象遭難事例2 ~落雷,大雨による沢の増水~ 積乱雲の発達による落雷や,局地的な大雨,短時間 の大雨は予想が難しい。しかしながら,これらのリス クが特に高い気圧配置は2種類あるので,これを覚え て登山前に予想天気図を確認し,なおかつ,登山中に 雲や風,気温の変化から,積乱雲の接近や天候の急激 な変化を早めに察知することが,気象遭難のリスクを 下げるうえで効果的である。 (1)落雷や局地的な豪雨をもたらす気圧配置 過去に実際,落雷や短時間の豪雨による気象遭難が 発生した気圧配置を2つ紹介する。 1つ目は前線を持たない小さな低気圧が発生すると きだ。このような低気圧を寒冷低気圧と言い,この低 気圧の周辺では上空に強い寒気があるため,大気が不 安定になり,積乱雲が発生しやすい。特に,低気圧の 東から南東側にかけては,地上付近で暖かく湿った空 気が入るため,大気が非常に不安定になり,落雷や局 地的な豪雨に警戒が必要である。 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 第9章 山の天気 よっては終始、 つも6つも出て ートはその都度、 候回復をその場 か、その近くで ればならない。 ルート状況(冬 天を確実に退避 までに要した時 ーの体調、スピ 距離などを総合 を選択する。 きたときは、ゴ ぶられる光景を や森林限界より のひとつとした 小さい樹林帯や した後、メンバ ックして出発す 発時に青空が広 天候が急激に悪 ぐには、登山前 と、現場におい 見ていくことが る沢の増水~ 大雨、短時間の れらのリスクが れを覚えて登山 山中に雲や風、 急激な変化を早 を下げるうえで (1) 落雷や局地的な豪雨をもたらす気圧配置 過去に実際、落雷や短時間の豪雨による気象遭難が発 生した気圧配置を2つ紹介する。 1つ目は前線を持たない小さな低気圧が発生するとき だ。このような低気圧を寒冷低気圧と言い、この低気圧 の周辺では上空に強い寒気があるため、大気が不安定に なり、積乱雲が発生しやすい。特に、低気圧の東から南 東側にかけては、地上付近で暖かく湿った空気が入るた め、大気が非常に不安定になり、落雷や局地的な豪雨に 警戒が必要である。 ※図12 尾瀬で落雷事故が発生した日の天気図=上層 に寒気を伴った低気圧が日本海にあり、この南東側で積 乱雲が発達した。 (2) 日本海から前線が南下する気圧配置 2つ目は、日本海から前線が南下する形である。盛夏 期には太平洋高気圧と呼ばれる、日本の東や南海上に中 心をもつ高気圧に覆われて、前線はサハリンや中国大陸 に北上することが多いが、年によっては日本付近まで南 下することがある。 この前線の南側では太平洋高気圧の縁に沿って暖かく 湿った空気が流れ込み、大気が非常に不安定となる。特 に前線の南側300km以内では積乱雲が発達しやすい。前 線による積乱雲は局地的なものというより、広い範囲で 発達するため、どの山でも警戒が必要であるが、数日前 から予想天気図で現れることが多いので、このタイプの 図12 尾瀬で落雷事故が発生した日の天気図= 上層に寒気を伴った低気圧が日本海にあり, この南東側で積乱雲が発達した。 (2)日本海から前線が南下する気圧配置 2つ目は,日本海から前線が南下する形である。盛 夏期には太平洋高気圧と呼ばれる,日本の東や南海上 に中心をもつ高気圧に覆われて,前線はサハリンや中 国大陸に北上することが多いが,年によっては日本付 近まで南下することがある。 この前線の南側では太平洋高気圧の縁に沿って暖か く湿った空気が流れ込み,大気が非常に不安定とな る。特に前線の南側 300㎞以内では積乱雲が発達しや すい。前線による積乱雲は局地的なものというより, 広い範囲で発達するため,どの山でも警戒が必要であ るが,数日前から予想天気図で現れることが多いので, このタイプの荒天は予想がしやすい。前線の接近が予 想されるときは,沢沿いや沢の渡渉があるコース,岩 稜帯など落雷のリスクが高いコースを避けるようにし たい。 第3編 荒天は予想がしやすい。前線の接近が予想されるとき は、沢沿いや沢の渡渉があるコース、岩稜帯など落雷の リスクが高いコースを避けるようにしたい。 ※図13 白馬大雪渓で土砂崩落により2名が不明とな った日の天気図。日本海から前線が南下し、この南側で 雷を伴った非常に激しい雨が降る。 また、2014年のお盆の時期のように、前線が日本 付近に停滞し、前線上を低気圧が次々と通過するときは 大雨が続き、沢の増水や土砂崩落、落石が起こりやすい。 このような気圧配置になったときも、落雷や沢の増水、 土砂崩落、鉄砲水などに警戒が必要だ。 図14 北アルプス・蒲田川の支流を渡渉していた登山 者3名が濁流に流され、死亡した日の天気図 (3) 突発的に発生する積乱雲 上記の2つの気圧配置は、事前に予想がしやすいタイ プであり、時間帯に関係なく、低気圧や前線が接近して きたときに積乱雲が発達する。 しかしながら、こうした気圧配置ではないときにも積 乱雲が急に発達することがある。この予想は難しいが、 日射によって地面が温められる午後から夕方にかけて、 平地や盆地に接した山で発生しやすい。 また、5.「雲が成長する仕組み」で説明したように、 上空高い所に寒気が入るときは、大気が不安定になり、 平地から離れた山を くなる。上空の寒気 下旬)においては、 ス6℃以下である。 穂高岳独標付近にお 面でマイナス6℃以 生した。さらに、地 暖かく湿った空気が 状態となる。 図15 中部山岳で 温予想図 (山の天気予報 専 https://i.yamate (4) 観天望気 落雷や短時間の豪 (積雲 写真2-1 間から山の上に、こ が不安定なことが多 である。特に、写真 していくときは要注 いく(写真2-3) いく。そのようなと からすぐに遠ざかり 難しよう。 ※写真2-1、2- ※図16 落雷の危 ※図17 土砂降り また、雷がすぐ近 うな姿勢を取るよう は、一人一人の間隔 メートル以上空ける また、朝、起きた い。いつもより、じ 大気中の水蒸気が多 に注意したい。 図13 白馬大雪渓で土砂崩落により2名が不明と なった日の天気図。日本海から前線が南下し, この南側で雷を伴った非常に激しい雨が降る。 また,2014年のお盆の時期のように,前線が日本 付近に停滞し,前線上を低気圧が次々と通過するとき は大雨が続き,沢の増水や土砂崩落,落石が起こりや すい。このような気圧配置になったときも,落雷や沢 の増水,土砂崩落,鉄砲水などに警戒が必要だ。 図14 北アルプス・蒲田川の支流を渡渉していた 登山者3名が濁流に流され,死亡した日の天気図 (図 3,9,10,11,12,13,14 の天気図は全て気象庁ホームページより)

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