安全で楽しい登山を目指して

95 第9章 山の天気 想するうえで大切になる。 雲は,空気中にある水蒸気が冷やされて凝結し,そ れが水滴になることでできる。この水滴が無数に集 まったものが雲である。したがって,雲は水蒸気をあ る程度含んだ空気が上昇することによって発生する。 水蒸気は,低気圧や前線の南側や高気圧の縁で多く なる傾向がある。また,海の上の空気は水分が絶えず 蒸発しているため,水蒸気が多くなっており,山では 海から風が吹くと天気が崩れやすい。 3 山と平地(山麓)の天気の違い 「平地や山麓では晴れていたのに,山に登っていっ たら風雨が強くなった。」あるいは,「平地や山麓の予 報は晴れだったのに,山の上は荒れた天気だった。」 登山経験が長い人はこうした経験をお持ちだろう。こ のように,平地では天気が崩れなくても,山では天候 が悪化することがある。こうしたときに気象遭難は起 こりやすい。それではどうして山と平地とで天候が異 なるのだろうか? 平地では,低気圧や台風,前線が接近するときに天 気が崩れる。それは,これらの周辺では水蒸気が多 く,広い範囲で上昇気流が起きるからだ。それに対し て,山ではこうしたものがなくても簡単に上昇気流が 発生する。それは風が吹くと,山の斜面に沿って空気 が上昇していくからだ(図1)。そして,水蒸気が多 い海から風が吹くと,水分を多く含んだ空気が山にぶ つかって上昇し,風上側から山頂付近にかけて雲が発 生する。つまり,海から風が吹くとき,山では天気が 崩れる傾向がある。これは山の天気を考えるうえでの 大原則である。天気予報に反して山の上で天候が悪化 しているときは,このようなときである。したがって, 登山前には海側から風が吹くかどうかを必ずチェック しておこう。 図1 平地と山での天気の違い 4 風向きと風の強さの予想 海側から風が吹くかどうかを調べるためには, 1.登ろうとする山と海との位置関係を地図から調べ る 2.天気図から風の強さと向きを調べる の2点が必要となる。 (1)海との位置関係を地図から調べる 1については,25,000 分の 1 や 50,000 分の 1 など の狭い範囲の地図ではなく,日本海から太平洋まで含ま れる広範囲の地図を使用する。そこでは,海からの湿っ た空気がどの方角から入ってきやすいのかを確認して おこう。そのために,海との位置関係や周囲の山の高さ, 谷の向きなどを調べることが大切になる。3) 図2 海と山との位置関係 (2)風の強さ,向きを天気図から調べる 風の強さは,天気図で等圧線の間隔から調べる。等 圧線の間隔が狭いほど,風は強く吹くと覚えておこう。 低体温症による死亡事故は平均風速が15m/s以上の ときに多発している。また,平均風速が15m/s前後 に達すると,バランスを崩したりして転滑落のリスク が大きくなる。したがって,15m/sより強い風にな るかどうかが,登山における気象リスクを考えるうえ で重要になる。そこで,以下の目安をあげておく。 a)等圧線の間隔が東京/名古屋間の距離より狭いと きは平均風速が 10 ~ 15m/s 以上の強風となる恐れが ある ・・・森林限界を越える尾根上や稜線上の歩行や幕営 はリスクが高い ・・・樹林のない開けた尾根上や稜線上の歩行や幕営 はリスクが高い b)等圧線の間隔が大阪/名古屋より狭いとき平均風 速が 20 ~ 25m/s 以上の暴風となるおそれがある ・・・森林限界を越えること自体が大きなリスクにな る 白馬岳の場合は西や北に海が位置している。その ため西風から北風のときに,天気が崩れやすい

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