安全で楽しい登山を目指して

94 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう ・登山における気象リスク ・登山前に天気図等から気象リスクを想定する ・登山中には雲や風の変化などから天候変化の前兆を察知する ・引き返しポイントやエスケープルート,タイムリミットを決める 1 山の天気を学ぶ理由 登山におけるリスクのひとつに,気象リスクがある。 低体温症,落雷,大雨による沢の増水,突風による転 滑落などがその代表的なものだ。天候が主要な原因で 起こる遭難を気象遭難と呼ぶが,過去に起きたほとん どの気象遭難は,事前に天候悪化を予想し,現場で適 切な判断ができていれば防げたものである。事故の当 事者が天気予報を入手していなかったかというとそう いうことでもない。それではどうすれば気象遭難を防 ぐことができるのだろうか。 (1)登山における気象リスク 登山における気象リスクに関しては,森林限界を越 える山と,それを越えない山(樹林帯の山)とで分け て考える必要がある。それは,前者と後者では想定さ れるリスクが全く異なるからだ。 森林限界を越える山では,風雨や風雪時の行動によ る低体温症,落雷,強風による転滑落やテントの倒壊 についてまず考えなければならない。また,樹林帯の 中を歩く登山においては,熱中症,沢の増水,崩壊地 やガレ場を通る際には大雨による土砂崩落や落石など のリスクを考えなければならないだろう。 いずれにしても,登山ルートによって想定されるリ スクは全く異なる。そのため,登山計画を作成する段 階で地形図等から,そのルートにおいて考えられるリ スクを列挙しておき,そうしたリスクが高まる気象条 件になるのかどうかを予想天気図などから想定してお くことが必要になる。1) (2)気象遭難を防ぐ方法 気象遭難を防ぐためには,以下のことをおこなう必 要がある。 1.登山活動をおこなう前に,気象リスクを想定する 2.登山活動中に,雲や風,気温などの変化から天候 の変化を察知する 1に関しては,テレビやインターネットなどの天気 予報を利用してリスクを想定する人が多いだろう。 近年,スマートフォンのアプリやインターネットを 使った気象情報の利用が当たり前となり,情報の種類 も非常に多くなっている。それらの中には,山頂の天 気予報を配信しているものもある。しかし,「山の気 象情報」と謳っていても実際は山麓の予報を提供して いるサービスもあり,また,山頂の予報であっても単 に数値予報を自動的に変換しているだけで,山の複雑 な地形による影響や,水蒸気の移流,大気の安定度に よる山麓と山頂の天気の違いなどが反映されていない 予報も多い。 そして,気象遭難が発生しているのは,山麓と山頂 の天気が異なるとき,あるいは天気予報が外れるとき だ。 2009年7月のトムラウシ山で起きた大量遭難事故 においても,登山リーダーが参考にした天気予報はト ムラウシの山頂ではなく,山麓の天気予報であった。 予報によると事故当日は,天候が回復するということ であったが,実際には平均20m/s前後の暴風雨が続 くことになる。 このように,気象情報は溢れているが,発表する会 社によって大きな違いがあり,それぞれの特性を知っ て利用することが大切である。 また,どんなに精度が高い天気予報であっても外れ ることはあるので,最低限の気象の知識を持ち,天気 図等から「予報ではこう言っているけど,低気圧がも う少し早く接近すれば,予想より悪くなりそうだな。」 と最悪のケースを想定して対策を講じていかなければ ならない。 2に関しては,現場で雲や風の変化などから,天候 の変化を察知する方法である。天気を崩すときの雲, 風が強まるときに現れる雲,落雷や大雨をもたらす雲, 風の変化が天気に与える影響など,こちらも最低限の 知識が必要になる。2) 2 雲ができる仕組み 天気が崩れる理由は,1.雲ができる 2.雲が成 長する(発達する)ことによる。雲ができなければ好 天となるが,雲が発生し,それが発達すれば大雨や大 雪,落雷などのリスクが出てくる。したがって,雲が 発生し,成長していくのかを予測することが天気を予 第9章 山の天気

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