安全で楽しい登山を目指して

83 第7章 登山の医学 1. 死因は,窒息,外傷,低体温症。 2. 心肺蘇生は,必ず人工呼吸と胸骨圧迫,両方行う。 3. 1時間以上の埋没では,低体温症による生存の可能性がある。 (1)雪崩埋没時の死因 雪崩埋没時の死因は,その割合に違いはあるものの, 国際的にも本邦でも順位は変わらない。 1位 窒息(75〜90%台) 2位 外傷(1〜25%) 3位 低体温症(1%程度) (2)生存率と埋没時間 埋没から 10 分,18 分で低下し,35 分で著しく低下 する。 しかし,低体温症になると,60分以上経過しても 生存している場合もあり,救命を諦めない。 (3)引き出した後の対応 ア 呼吸をしているか? 声をかけながら,胸の上がる呼吸をしているか確 認する。 イ 反応がなく,明らかな呼吸がなければ,すぐに 心肺蘇生を開始する。 ▶指導のポイント 心肺蘇生は必ず人工呼吸から 窒息をしているので,必ず人工呼吸を2回行って から胸骨圧迫を開始する。 ▶確認するポイント 口と鼻に雪が詰まっているか 口と鼻が完全に雪でパックされているかどうか, 確認する。パックされていない場合は,急性の窒息 を免れて,救命できる場合がある。 (4)その後の対応 ア 外傷の確認 3SABCDE を実施し,外傷を確認する。 イ 低体温症 低体温症での死亡は少ないが,60分以上の埋没 では,低体温症にかかっている可能性が高い。「隔離」 「保温」「加温」を行う。 ◉事例から学ぶ! 3月晴れ,雪洞泊で4名で登山。広い雪面をト ラバース。十分な間隔を開けて1人ずつ急いで 通過したが3人目が渡っている途中で雪崩発生, 3人目が雪崩に埋没した。3名は安全を確認し, 雪崩トランシーバー(ビーコン)とプローブで 位置を同定,埋没から 12 分後に 30㎝の深さから 掘り出した。掘り出すと,呼びかけても反応せず, 口の中に雪は無かった。呼吸をしているかわか らない。脈をとったが触れなかったので,直ちに 人工呼吸を2回すると,息を吹き返した。すぐに, 意識もハッキリし,3SABCDE で明らかな外傷も なかった。十分歩くこともできたので,当日は, 予定通り雪洞を作成し体を休めた。 ワンポイントアドバイス 掘り出した後,A気道(雪が口と鼻に詰まっ ているか)を確認,B 呼吸の確認をしている。こ こで,呼吸がなければ,C の脈にうつらず,人工 呼吸を開始する。 ひとたび窒息した人は,その後呼吸不全を起こ すことがあるので,意識が戻ってもその日のうち に病院に行く。 イラスト:佐藤こずえ,フリー素材 (大城和恵) 5 雪崩埋没 ※第3編第7章「登山の医学」について,この章の掲載内容に改変等を加えて新たな資料等を作成することは,医学知識の間違った解釈を生む恐れがあるため禁止します。

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