安全で楽しい登山を目指して

82 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう ▶「加温」の指導ポイント 最優先加温部位 余剰加温部位 加温禁止部位 折畳式水筒に熱湯を入れる. • 接触面積を広くとることがポイント • 胸にあてる • やけどを予防するため、衣類の上から 又はタオル等で包んでからあてる (北海道警察山岳遭難救助隊) 村上式湯たんぽ 山で作る湯たんぽ 「加温」の指導ポイント 非常に有効!!! 予防から是非使おう お湯の温度は高くする 腕や足は温めない、 むしろ体温を下げる 原因になる。 とにかく胸!体幹! 内臓を温めるイメージ! ペットボトルなら四角柱 のものを数本使用するとよい 現場で「加温」を取り入れてから,低体温症は劇的 に予防と改善に効果が出ている。やけど予防には,湯 たんぽの温度を下げるのでなく,衣類などで包むよう にする。 (4)重症度を判断できるようにする ア 「震え」は低体温症の最初の警告 健康な人の深部体温(内臓の温度)は 37.5 〜 38℃。 深部体温が35℃以下になると低体温症だが,「震え」 は37℃で始まる。人の体は,低体温症にならないよ う早めに震えを起こして,筋肉が熱を産生する。「震え」 は,体温が下がり始めた危険なサイン,と認識する。 ▶表の指導ポイント 低体温症:野外での対応 参考体温 (℃) 震え 意識 脈・呼吸 重症度 対応・処置 35-32 あり 正常 良好 軽度 Ⅰ カロリー補給 水分補給 温まれば運動可 通信手段確保 隔離 保温 加温 (体幹湯たんぽ) 32-28 低下 /なし 異常 /低下 低下 中度 Ⅱ 安静・水平 救助要請 病院搬送 気道管理 心肺蘇生※ 28-24 なし なし さらに 低下 高度 Ⅲ 24-15 なし なし 呼吸なしand 脈触れず 重度 Ⅳ ポイント:震えが低下、あるいは意識が正常でない⇒中度以上(一気に悪化することがある) 致命的外傷があるか胸が硬く凍り付いている場合のみ、死亡として矛盾しない 心肺蘇生 救助者が安全で、搬送を遅らせない場合に行う 蘇生限界まで体温が下がらないように、隔離保温加温を必ず行う 加温: 胸(体幹)を優先して加温する 接触面積を大きくして熱源をあてる Swiss staging によるICAR( 国際山岳救助協議会)勧告(2003, 2013), 2015 ERC Guidelines for Resuscitation American Heart Association 2015 Guideline State of Alaska, Cold injuries Guideline2003(revised2005), Auerbach Danzl 2012 Accidental Hypothermia 2012 NEJM Wilderness Medical Society practice guideline Hypothernia (2014update) Brown DJA.Hypothermia. Tintinalli Emergency Meicine 8th ed. 編集:UKDIMM,FAWM 大城和恵 多様 28> Ver.2017.1 表の指導ポイント (循環不安定者は 救命センターへ) 個人差があり 参考程度 重要な観察ポイント 回復してから 歩かせる 体温は多様である 全員に行う 命のリスクの 境界線! 震えが活発, 意識が正常, が軽度のポイント ここを境に 対応が変わる. イ 軽度と中度が生命リスクの境界線 中度以上は自力回復が困難になり,生命のリスクに 直結する境界線であり,対応方法が異なる。 中度以上は緊急事態であると認識する。 (5)中度以上は突然悪化する 中度以上では,内臓の温度が下がり始めているため, 脳も心臓も働きが弱くなっている。わずかな刺激にも 敏感になり,着替えや,移動などで体を動かした際に, 突然意識を失うことがある。できるだけ丁寧に扱い, 水平な姿勢で安静にする。 (6)救助要請はいつするか? ・「中度」以上 命のリスクが高まった状態だから ・「軽度」でも「食べる」「隔離」「保温」「加温」が できない場合 ◉発生事例!(処置編) 4月下旬,13 時,標高 1,500m,男性生徒 T 君 が汗で濡れたまま行動。霧に濡れ,風と低温に 曝され,判断力が低下した。 処置の流れをアドバイス 判断力の低下は,意識障害であり,中度の低体 温症。こういう場合は,すぐに移動させず,その 場で回復を図る。数名にテントを張らせ,その間 にT君に以下を行う。「食べる」むせないようで あれば,温かいお汁粉を作って飲ませる。「加温」 テルモスのお湯があれば折畳式水筒などに移しす ぐに胸にあてがう。あるいはお湯を沸かして湯た んぽを作る。この段階では濡れた服の上からで良 い。テントが設営できたら,「隔離」低体温症の 生徒をまず入れ,濡れた服を切って脱がす(ある いは,丁寧に脱がす)。「保温」濡れていない衣類 を着せる。帽子,ネックウォーマーもする。その後, 繰り返し炭水化物を食べさせ(カップラーメンな ど),湯たんぽの温度が下がれば温め直す。その 他のメンバーも低体温症のリスクがある。テント に入り,全員濡れたものを着替え,十分に食べ, 予防する。現在地点と通信手段を確認。処置を開 始して1時間以内に改善がなければ救助要請。(日 没近ければすぐに要請する)次回からは予防でき るようこの事例のリスクを理解する。 (大城和恵)

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