安全で楽しい登山を目指して

70 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 雪崩に遭遇した際の危急時対策として,セルフレスキュー,コンパニオンレスキュー,組織レスキューがあげ られる。この中で,雪崩発生直後に同行者等により行われるコンパニオンレスキューは,埋没者の救命率を上げ るために重要な方法で,雪崩トランシーバー(ビーコン)の使用法等その技術を習得しておくことが望ましい。 3 雪崩発生時の危急時対策 (1)はじめに 雪崩事故における死因の多くは窒息であり,ついで 外傷が続く。低体温症が死因になることは少ない。(第 3編第7章「登山の医学」 参照)。また,雪崩に完全 埋没(頭部,胸部が埋没)した場合は,部分埋没した 場合より生存率が顕著に低下する。以上より,雪崩に 巻き込まれた場合は,埋没しないこと,埋没しても表 層に留まることが重要となる。また,雪崩埋没後の生 存率を見ると,埋没してから10分,18分で低下し, 35 分で著しく低下している。(第3編第7章「登山の 医学」 参照)。したがって,雪崩による埋没者は18 分以内に掘り出し呼吸を確保することが救助における 目標となる。 (2)レスキューの種類 雪崩事故における遭難者のレスキューには以下の3 段階が考えられる。 ①セルフレスキュー:雪崩遭遇者自身による生存のた めの自助努力。 ②コンパニオンレスキュー:同行者等による現場での 救助。 ③組織レスキュー:プロの救助隊,ボランティア等に より構成された組織による救助。 このうち,埋没者が生存している時間内に雪から迅 速に掘り出し救助するコンパニオンレスキューが特に 重要となると考えられる。 (3)セルフレスキュー 雪崩発生時の行動として,遭遇時のエスケープルー トを考えることが大切である。雪崩に遭遇した場合は, 大声やホイッスルで雪崩の発生を周囲に知らせるこ と,スキー等の場合は安全地帯に向かって斜め45 度 に直線的に高速で滑って逃げること,ストック等の装 備を離すこと,等が重要である。 雪崩の流れの中での行動として,表層に留まるため に,泳ぐ,蹴る,転がる,雪崩の流れの端へと向かう, 樹木の枝などをつかむ等の努力が重要である。 雪崩の停止前後の行動として,停止して密度が急増 する前に口,鼻の前に空間(エアポケット)を作る, 手足を雪面に突き出す等の努力が重要となる。 また,雪崩停止後は,部分埋没であれば自分で脱出 を試み,完全埋没であれば,自分を掘り出す,声を出 す,雪をたたく,雪面に出ている身体の一部を動かす, 無駄に酸素を消費しないようにリラックスして動かず にレスキューを待つ等の行動が求められる。 (4)コンパニオンレスキュー コンパニオンレスキューは,雪崩事故の救命で最も 重要であり,生存率が高い時間内に遭難者を発見,救 出し,組織レスキューに引き継ぐ役割を果たす。コン パニオンレスキューにはいくつか方法があるが,ここ では,国立登山研修所の研修会で実施している方法を 紹介する。 図1にコンパニオンレスキューの流れを示す。また, 各段階におけるレスキューの流れと留意点を以下と図 2に示す。 図1 コンパニオンレスキューの流れ 図2 雪崩の起きた斜面でのコンパニオンレスキューの流れ 1 䠊≧ἣศᯒ 䠎䠊䝥䝷䜲䝬䝸䞊䝃䞊䝏 䠏䠊䝉䜹䞁䝎䝸䞊䝃䞊䝏 䠐䠊䝣䜯䜲䝘䝹䝃䞊䝏 䠑䠊ᇙἐ⪅䛾᥀䜚ฟ䛧䛸ᛂᛴᡭᙜ ↑ 斜面の上側

RkJQdWJsaXNoZXIy NDU4ODgz