安全で楽しい登山を目指して

67 第5章 危急時対策 遭難者への悪影響を減らしながら自分たちで搬送を行うことは難しい。 どこで救助隊に引き継ぐことが良いのか,病院到着までの時間が一番短い戦略を立てよう。 (7)搬送の判断 ア 搬送の考え方 救助隊は,隊員のリスクを減らし,遭難者の命をつ なぎ,できるだけ後遺症がないように,また,早く社 会復帰できるような救助方法を日々研究して実践して いる。 遭難者の搬送目的は何か。運ぶ以外に救助する方法 は無いのか。何が遭難者にとって最善の救助なのかを 考えることが重要である。 イ 搬送(移動)が必要な場合 滑落して停止した場所や,落石に遭い倒れた場所な どに,そのまま留まることで更に命の危険が及ぶ場合 には,一刻も早くその場所から搬送(移動)する。そ の際の搬送方法は,その場で咄嗟に取り得る手段で構 わないが,搬送(移動)距離は,危険を避けられる必 要最小限度にする。 それ以上の搬送を実施する前に,止血等の必要な処 置,しっかりとした固定,保温,加温等の準備を行い, 救助隊にどう引き継ぐかの計画が,まず必要である。 ウ 搬送に必要な時間 一般的に,救助隊は,徒歩かヘリコプターで現場に 到着する。徒歩での出動は,登山口までの移動時間に 加え遭難現場までの移動時間がかかる。ヘリコプター は,天候の影響を受けるが遭難現場までの直線距離を 時速約 200 キロ以上で飛ぶため,早期に到着が可能で ある。しかし,日没後はヘリコプター搬送はできない。 徒歩による搬送とヘリコプターによる搬送では,発 生時刻と場所によって,迅速性,確実性が異なる。い ずれであっても,遭難者を迅速に医療機関へ引き継ぐ 為に,どのような方法,時間構築が良いかを判断する 必要がある。 エ 搬送によるリスク (ア)搬送者や搬送チーム自体のリスクが高まる (イ)搬送による体動は遭難者の状態に悪影響を及 ぼす (ウ)運びながらの応急処置はできない (エ)遭難者の容態変化に気付きづらい (オ)搬送コースや時間によってはヘリコプターに 引き継げなくなる オ 搬送の判断 (ア)搬送以外に救助手段は無いか (イ)搬送チーム自体に生じるリスクは低いか (ウ)救助隊との接触は可能か (エ)医療機関へ迅速に引き継げるか 以上を総合的に判断して決定する必要がある。 1 搬送の考え方 救助隊は、隊員のリスクを減らし、遭難者の 命をつなぎ、できるだけ後遺症がないよう に、また、早く社会復帰できるような救助方 法を日々研究して実践している。 遭難者の搬送目的は何か。運ぶ以外に救助する 方法は無いのか。何が遭難者にとって最善の救 助なのかを考えることが重要である。 2 搬送(移動)が必要な場合 滑落して停止した場所や、落石に遭い倒れた場 所などに、そのまま留まることで更に命の危険 が及ぶ場合には、一刻も早くその場所から搬送 (移動)する。その際の搬送方法は、その場で 咄嗟に取り得る手段で構わないが、搬送(移動) 距離は、危険を避けられる必要最小限度にする。 それ以上の搬送を実施する前に、止血等の必要 な処置、しっかりとした固定、保温、加温等の 準備を行い、救助隊にどう引き継ぐかの計画が、 まず必要である。 3 搬送に必要な時間 一般的に、救助隊は、徒歩かヘリコプターで現 場に到着する。徒歩での出動は、登山口までの 移動時間に加え遭難現場までの移動時間がか かる。ヘリコプターは、天候の影響を受けるが 遭難現場までの直線距離を時速約200キロ以上 で飛ぶため、早期に到着が可能である。しかし、 日没後はヘリコプター搬送はできない。 徒歩による搬送とヘリコプターによる搬送で は、発生時刻と場所によって、迅速性、確実性 が異なる。いずれであっても、遭難者を迅速に 医療機関へ引き継ぐ為に、どのような方法、時 間構築が良いかを判断する必要がある。 4 搬送によるリスク (1) 搬送者や搬送チーム自体のリスクが高まる (2) 搬送による体動は遭難者の状態に悪影響を及 ぼす (3) 運びながらの応急処置はできない (4) 遭難者の容態変化に気付きづらい (5) 搬送コースや時間によってはヘリコプターに 引き継げなくなる 5 搬送の判断 (1) 搬送以外に救助手段は無いか (2) 搬送チーム自体に生じるリスクは低いか (3) 救助隊との接触は可能か (4) 医療機関へ迅速に引き継げるか 以上を総合的に判断して決定する必要がある。 [ワンポイントアドバイス] 病院到着までの時間が一番短い戦略を立てよう! 目の前に具合悪い人がいると、背負って搬送し なければならない、と考えるかもしれません。し かし、大人数名では、成人一人を運ぶことは非常 に困難です。 (1)大ごとになるのが心配で、途中まで自分たち で運んでみて、ダメだったら救助を呼ぼう、など と運び始めたものの力尽き、救助要請をしたら日 没でヘリコプターが来れなくなり、結局翌日の救 助を待つことになった、なんてこともあり得るの です。 (2)頑張って自分達で運び、病院に到着したら骨 がずれて悪化していたなんてこともあり得るの です。 「運ぶこと」を目的にしてはいけません。 ワンポイントアドバイス 病院到着までの時間が一番短い戦略を立てよう ! 目の前に具合悪い人がいると,背負って搬送し なければならない,と考えるかもしれない。しか し,大人数名では,成人一人を運ぶことは非常に 困難である。 ① 大ごとになるのが心配で,途中まで自分たち で運んでみて,ダメだったら救助を呼ぼう,な どと運び始めたものの力尽き,救助要請をした ら日没でヘリコプターが来れなくなり,結局翌 日の救助を待つことになった,なんてこともあ り得る。 ② 頑張って自分達で運び,病院に到着したら骨 がずれて悪化していたなんてこともあり得る。 「運ぶこと」を目的にしてはいけない。 (大城和恵)

RkJQdWJsaXNoZXIy NDU4ODgz