安全で楽しい登山を目指して

63 第5章 危急時対策 1.ファーストエイドキットは必須ではないが,現場で傷病発生時のリスクを減らすことができ得る。 荷物の量と危機対策のバランスを考慮し,山行に応じて取捨選択する。 2.自分用,グループ用,環境に応じて適宜用意するもの,に分けて準備しよう。 3.医薬品を用いる目的は下山までの応急処置。薬を使いながら山行を継続しない。 4.薬によるアレルギーや障害を回避するため,薬は自分に用意したものを適切に自分に使う。 但し,エピペンⓇに限り生徒に処方されているものを教職員がその生徒に投与して良い。 (4)ファーストエイドキット ア 自分用に用意したいもの (ア)アナフィラキシー補助治療剤 エピペンⓇ注射液0.3㎎ 製品(エピペンⓇ注射液)0.3㎎ ハチに刺される可能性のある場所に行く場合は, アレルギーの既往がなくても処方を受けることがで きる。近年は運動誘発性のアナフィラキシー(食後 に運動することでアナフィラキシーを起こす)も増 加している。エピペンⓇは,アナフィラキシーショッ クを疑う場合,症状の進行を一時的に緩和し,病院 搬送までの補助薬である(根本的な治療ではない)。 教員や生徒個人が処方を受けておく必要がある。ア ナフィラキシーショックは,急激な過程をとり,現 場での救命は難しい。(医薬品の中で,エピペンⓇ に限り,処方された患者の教職員がその患者への使 用が可能。) (イ)経口補水液(パウダー類) 脱水に効果的。自作も可能(登山の 医学のページを参照) (ウ)虫刺され予防スプレー・液 虫刺されで問題となるのは,強いアレルギー反応 (アナフィラキシー)と媒介する感染症の発生や流 行情報がある場合である。虫除け剤(忌避剤)の中 では,DEETは効果の高い市販製剤として知られ, 何種類もの虫に有効である一方,「石油類」に分類 され粘膜刺激性も強い。2016年より厚労省で認可 されたイカリジンは効果と安全性が高いとされ,子 供にも使用が可能であり,既に市販されている。 (エ)虫刺され薬 痒みや腫れが強い場合は,掻きむしって細菌によ る感染を起こすこともある。市販の外用薬(抗ヒス タミン剤やステロイド剤)が有効。 (注意)解熱鎮痛剤 風邪や発熱,痛み止めと汎用性のある 薬だが,いくつかの注意点がある。 ①熱中症には使ってはいけな い。(解熱剤では熱中症は改善 しない。さらに副作用が出やす くなる) ②脱水が明らかな場合に内服す ると腎障害などの副作用が出や すくなる。止むを得ず内服する場合は1ℓ以上の水 分と共に内服する。 ③高山病の頭痛に内服すると症状が隠れる為,高山 病の重症度を適切に判断できない。 ④飲みつけない薬を飲むと,アレルギー反応が起き たり,副作用が出ることがある。飲み慣れた薬,あ るいは,病院で処方された薬を使用する。 ワンポイントアドバイス 私が登山者に最もよく使うのは「経口補水液」, 次に「カットバン」です。エピペンⓇは必ず携行 しています。山で薬を使用することは殆どありま せん。

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