安全で楽しい登山を目指して

59 第4章 読図とナヴィゲーション に読み取ることができる。これを読み取ることでルー ト維持が可能になる。 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 第4章「読図とナヴィゲーション」 巻き道(等高線に平行についている道)、尾根・谷を結 んでいる等高線を横切る4パタンしかない。しかも道と 地形との関係(尾根筋、谷筋、等高線と平行、等高線を 横切る)は、地図と風景の両方から確実に読みとること ができる。これを読みとることでルート維持が可能にな る。 【図10地形との関係】 日本では尾根・谷の地形が明瞭かつ連続的なので、地形との関係 でルートは(a)尾根線、(b)谷線、(c)巻き道、(d)斜面方向の道のい ずれかに分類できる。ルート維持上利用価値が高いのは(a)~(c)で ある。 ③その他のルート維持のテクニック 間近にはっきり分かる特徴がなくても、尾根のスカイ ラインを見ることでめざすべき鞍部やピークが分かれば、 ルート維持に役立つ。雪山や藪山では「高い方に登る」 という単純な方法でもルート維持が可能になる場合があ る。 2)ルートファインディング ルートファインディングはルート維持と同じ意味で使 われることもあるが、本書では「地図から読み取れる情 報を利用して正しいルートを進むことをルート維持」、 「地図からは読み取れない情報を利用して正しいルート を進むことをルートファインディング」と区別する。 沢を渡る部分や踏み跡のつきにくい高山帯、複線化し てしまった登山道で地形が曖昧だと、地図だけで進むべ きルートを見つけることが難しいので、ルートフィンデ ィングが必要となる。どこを歩いたら効率よく進めるか、 やぶの濃い場所でどこが通りやすいか、あるいはトレー スが薄くなっている場所でどの方向に進めばいいか、そ の場その場の問題を解決しながら全体として進むべき方 向や地形を外さないように注意しながら進む。そのため には遠くを見ながら歩くことが有効だ。 指導のポイント:ルート維持のためには進む方向と地形 との関係を意識しよう。 ヒヤリハット:2003 年、房総半島の低山で中高年30 人 の遭難騒ぎがあった。翌日無事発見された彼らは、低山 の複雑な尾根で正しい道を進み損ね、間違った尾根道か ら沢に降りて動けなくなったのだ。方向を使ってルート 維持をすれば、このミスは最小限に防げただろう。 【演習7】 図11(p.*)のコースでルート維持にどのような情 報が使えるかを考えてみよう。回答例はp.* 7 ナヴィゲーションの実践 不確実な自然に対応するナヴィゲーション技術 1)迷ったら 「何かがおかしい」という感覚は、道迷いへの入り口 であるとともに、道迷いからあなたを救い出す警鐘でも ある。警鐘に謙虚に耳を傾け、適切な対処をすることで、 道迷いや遭難を防いだり最低限のダメージに抑えたりで きる。 一般的に、「道に迷った時には、最後に確認できたと ころまで戻れ」、と言われている。記憶が確実で、わか りにくい道がなければ、それが最善の方法であろう。も しそうでなければ、戻る途中でさらに深みに陥る危険性 がある。また、自分の現在地がはっきりしていないと、 「正しい道にいるかもしれない」と考え、引き返す決断 を下しにくい。真っ先にすべきことは、自分の現在地が どこかを再把握することである。 まず、立ち止まり落ち着く。その上で、地図と周囲を じっくりと観察し、特徴的な地形や山頂、人工物が見え ないかを探す。それを利用して現在地の再把握を行う。 現在地の再把握で重要なことは、今までルート上で見て きたもの、今見ているもの等、利用可能な情報を最大限 に利用し、総合的かつ論理的にどこにいるかを判断する ことだ。これをリロケーション(relocation=再び現在 地を把握する)と呼ぶ。 指導のポイント:うまくいかない時にこそナヴィゲーシ ョン技術の真価が問われる。時には意図的にルートを外 図10 地形との関係 日本では尾根・谷の地形が明瞭かつ連続的なので,地形との関係で ルートは(a)尾根線,(b)谷線,(c)巻き道,(d)斜面方向の道 のいずれかに分類できる。ルート維持上利用価値が高いのは(a) ~(c)である。 ウ その他のルート維持のテクニック 間近にはっきり分かる特徴がなくても,尾根のスカ イラインを見ることで目指すべき鞍部やピークが分か れば,ルート維持に役立つ。雪山や藪山では「高い方 に登る」という単純な方法でもルート維持が可能にな る場合がある。 (2)ルートファインディング ルートファインディングはルート維持と同じ意味で 使われることもあるが,本書では「地図から読み取れ る情報を利用して正しいルートを進むことをルート維 持」,「地図からは読み取れない情報を利用して正しい ルートを進むことをルートファインディング」と区別 する。 沢を渡る部分や踏み跡のつきにくい高山帯,複線化 してしまった登山道で地形が曖昧だと,地図だけで進 むべきルートを見つけることが難しいので,ルート ファンディングが必要となる。どこを歩いたら効率よ く進めるか,やぶの濃い場所でどこが通りやすいか, あるいはトレースが薄くなっている場所でどの方向に 進めばいいか,その場その場の問題を解決しながら全 体として進むべき方向や地形を外さないように注意し ながら進む。そのためには遠くを見ながら歩くことが 有効だ。 ▶指導のポイント ルート維持のためには進む方向と地形との関係を 意識しよう。 ◉ヒヤリハット事例! 2003 年,房総半島の低山で中高年 30 人の遭難騒 ぎがあった。翌日無事発見された彼らは,低山 の複雑な尾根で正しい道を進み損ね,間違った 尾根道から沢に降りて動けなくなったのだ。方 向を使ってルート維持をすれば,このミスは最 小限に防げただろう。 【演習問題6】 図 11(p.60)のコースでルート維持にどのような情 報が使えるかを考えてみよう。 7 ナヴィゲーションの実践 不確実な自然に対応するナヴィゲーション技術 (1)迷ったら 「何かがおかしい」という感覚は,道迷いへの入り 口であるとともに,道迷いからあなたを救い出す警鐘 でもある。警鐘に謙虚に耳を傾け,適切な対処をする ことで,道迷いや遭難を防いだり最低限のダメージに 抑えたりできる。 一般的に,「道に迷った時には,最後に確認できた ところまで戻れ」,と言われている。記憶が確実で, わかりにくい道がなければ,それが最善の方法であろ う。もしそうでなければ,戻る途中でさらに深みに陥 る危険性がある。また,自分の現在地がはっきりして いないと,「正しい道にいるかもしれない」と考え, 引き返す決断を下しにくい。真っ先にすべきことは, 自分の現在地がどこかを再把握することである。 まず,立ち止まり落ち着く。その上で,地図と周囲 をじっくりと観察し,特徴的な地形や山頂,人工物が 見えないかを探す。それを利用して現在地の再把握を 行う。現在地の再把握で重要なことは,今までルー ト上で見てきたもの,今見ているもの等,利用可能 な情報を最大限に利用し,総合的かつ論理的にどこ にいるかを判断することだ。これをリロケーション (relocation =再び現在地を把握する)と呼ぶ。 ▶指導のポイント うまくいかない時にこそナヴィゲーション技術の 真価が問われる。時には意図的にルートを外れ,現 在地を把握する練習をすることが,ナヴィゲーショ ンの総合力を高める。

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