安全で楽しい登山を目指して

58 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう (4)GPS 受信機を使う GPS(グローバル・ポジショニング・システム)は, 人工衛星からの電波を利用して自分の位置を知るシス テムである。本来GPSはアメリカのシステムを指す 固有名詞である。近年ロシアや中国,日本などでナヴィ ゲーションのための人工衛星が稼働している現在,総 称してGNSS(Global Navigation Satellite System) と呼ばれる。 GPS受信機は,現在地を知りたいと思った瞬間に 現在地を知ることができるので,もしもの場合の危機 管理の道具として有用である。また,地点(ウェイポ イント)を登録したり,これまで歩いてきた道筋の記 録を残したり(ログ,またはトラックと呼ぶ),ウェ イポイントへ誘導する機能もある。 ただし,カーナヴィゲーションのように分岐点で「こ ちらに進め」と言ってくれるわけではないといった限 界を踏まえた利用が必要である。 初歩的だが,実用的なGPS受信機の利用方法とし て,ログの活用がある。ほとんどの機種で,これまで 歩いたルート(ログと呼ぶ)を地図上に表示する機能 がある。登山と下山路が同じ場合,往路のログが下山 すべきルートを表すことになる。復路では常にログの 上にいるはずだから,ログから大きくずれ始めたら, 間違った道に入り込んだ可能性がある。これにより道 間違いのダメージを最小限にできる。 (5)高度計を使う 標高が高くなると気圧が低くなる。高度計はこれを 利用して標高を知る道具である。標高の変化の大きい 登山道では,現在地を知るための補助用具として利用 価値が高い。単調に登り続ける尾根筋を進んでいるな ら,高度を知ることで現在地を推定できる。傾斜の急 な斜面上の登山道上では,ほぼピンポイントで現在地 が分かる。 高度計は,天候による気圧の変化の影響を受ける。 また気温によっても誤差が生じ,その値は 0.00366 × 気温×高度である。できるだけ頻繁に地図や標識など の情報を使って高度を補正する必要がある。 【演習問題5】 図11のルートを野田沢峠から西又峠に向けて移動 する時,現在地が確実に把握できる場所とそのために 利用できるのはどのような情報だろうか。解答例は p.60参照。 ▶指導のポイント 常に現在地を意識させ,また「なぜそう判断する のか?」を意識させよう。 6 ルート維持 (1)ルート維持とは 地図上でルートをたどることは容易だが,実際の登 山道には道標のない分岐があったり,やぶや川の徒渉 で道が分かりにくくなっていることがある。これらの 場所ではルート維持の努力が必要になる。さらには道 のないやぶこぎや雪山では積極的にルート維持の技術 を使わないと動くことさえできない。移動する時には, 自分はどのようなルート維持のための情報を使ってい るかを意識することが肝心だ。 ルート維持には基本的に二つの情報が使える。ひと つは方向,もうひとつは地形との関係である。 ア 方向によるルート維持 地図から読み取ったルートの方向を,コンパスを 使うことで維持する方法である。日本のように地形が 明瞭に発達している場所では,尾根・谷等の地形との 関係と組み合わせることでベースプレートなしでも十 分な精度を発揮できる。 方向を使ったルート維持には3つの方法がある。 (ア)地図からルートの方向を読み取りルート維持 する 道や尾根といったはっきりした線状の特徴に沿って ルートが進む時には,地図からその方向を8方位また は16方位で読み取り,コンパスでその方向であるこ とを確認して進むことでルート維持ができる。 (イ)整置でルート維持する (ア)の方法では,細かい方向を読み取るのが難し い。また読み取った方向を頭に憶えておかなければな らない。線状の特徴物に沿って進む時には,整置(p.56) を使うと,地図上の方向と実際の方向が一致するので, 簡便にルート維持ができる。 (ウ)ベースプレートコンパスを使う 線状特徴物がないなど,より精度が必要なルート維 持の場合は,ベースプレートコンパスによる直進(4.4) を使う。 イ 地形とルートの関係によるルート維持 登山道は闇雲についている訳ではなく,尾根道,谷 道,巻き道(等高線に平行についている道),尾根・ 谷を結んでいる等高線を横切る4パターンしかない。 しかも道と地形との関係(尾根筋,谷筋,等高線と平 行,等高線を横切る)は,地図と風景の両方から確実

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