安全で楽しい登山を目指して

56 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう (2)様々なタイプのコンパス コンパスには,大別してベースプレートコンパスと プレートのないコンパスがある。ベースプレートに よって,目標のない森の中を長い距離決められた方向 に進む「直進」(シルバ社ではこれを 1-2-3 システムと 呼んでいる)という技術が可能になるので,アウトド ア用として推奨されている。しかし,「直進」は元々 目標の少ない北欧の広野や森を確実にナヴィゲーショ ンするための方法であり,地形的にも植生的にも直進 することが難しい日本では一般的な登山ではオーバー スペックと言える。まずは,磁針を使った方向維持を 確実にできるようにすることがコンパス利用の第一歩 である。 (3)整置をする ルート維持や現在地の把握のいずれでも,地図と周 囲の特徴を対応させることが必要である。対応のため にはcのように地図の方向と実際の方向を一致させ る。これを整置と呼ぶ。地図を整置すると,地図上の 方向と実際の方向が一致するので,確実で素早い地図 /風景の対応が可能になる。図6の図を参考に,身近 な地図を使って整置をし,地図と実際の方向が一致す ることを確かめよう。 図6 整置の考え方とメリット 図の風景に対して整置されているのは図の abc のうち c である。c のように整置されていると,風景と地図を対照させるのが容易にな る。 (4)プレートコンパスによる直進 プレートがあると進路を維持する効率と精度が格段 に高まる。これがコンパスによる直進である。特にバ リエーションルートを歩く際には必須の技術である。 具体的な方法については参考図書を参照されたい。 ▶指導のポイント コンパスはルート維持の道具だけでなく,方向に よって現在地を絞り込むためにも使えることを実感 させよう。 5 現在地を把握する 現在地把握には以下のような情報が利用できる。 (1)現在地を把握する方法 ①近くの特徴物を使う(図7a) ②離れた場所に見える特徴を使う(図7b) ③移動の履歴を使う:推測航法(図7c) ④ベースプレートコンパスを使ったクロスベアリング 図7 現在地把握の方法 a:はっきりした特徴物(この場合山小屋)がそばにあれば,現在 地はすぐ分かる。b:特徴的な場所(この場合X山)が北からみ て 30 度東にある場合,破線上にいると分かる。一般的にはこの破 線上のどこにいるか分からないが,もしある尾根上にいることが 分かっていればb点と決まる,c:aから例えば8分進んだので約 500m 進んだと推測できる。 (2)風景を読む 現在地を把握するためには,地図と風景の対応が必 要なので,地図に加えて風景を読み取る必要がある。 読み取るべき風景の鍵は,①地図に記載されているこ と,②ユニーク(唯一)であること,である。 もうひとつの留意点は,地図の内容は常に変化する 可能性があるということである。林道は目印になりや すいが,地図に記載されているよりはるか先に林道が 伸びていることはよくある。植生状態も,畑や水田が 放置されて森に変わってしまうことは珍しくない。風 景読みにあたってはより変化しにくいものに着目する ことが肝心である。

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