安全で楽しい登山を目指して

52 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 山岳遭難のうち,道迷いは40%と最多を占めている。ナヴィゲーション技術とは,明確な目印の少ない自 然の中で,確実に目的地に到達するための技術であり,道迷い遭難を防止する。その作業は出発前のプランニ ング,動き出してからの先読み,ルート維持,現在地の把握からなる。地図や地図記号の基礎的な知識の上に, これらの作業を確実に遂行できるスキルを身に付けることが道迷いを防ぐ。論理的に考える力と同時に,風景 を読み取る観る力,地図やコンパスを適切に扱う動く力も道迷いを防ぐ上で欠かせない。 1 ナヴィゲーションとは? (1)ナヴィゲーションサイクル (ナヴィゲーションの3つのステップ) ナヴィゲーションでは,①目的地とそこへのルート を地図から読み取る,②地図から決めたルートを維持 する,③決めた通りの場所に来たかを確認する,必要 がある。①を先読み,②をルート維持,③を現在地の 把握と呼ぶ。これら3つのステップは図1に示すよう に,ナヴィゲーションの間,循環して行われている。 これがナヴィゲーションサイクルである。ナヴィゲー ションサイクルは,実は一種の PDCA である。 先読み,ルート維持,現在地の把握のどれをしてい るかを意識することで,効率的かつ効果的に読図が行 える。先読みではルート維持や確認すべき地点の情報 を地図から読み取る。これは地図上で完結した作業で ある。一方,ルート維持では,進路の特徴を読み取り, それに対応した場所(進路)を現地の中に見つけ出す 必要がある。また,現在地の把握では,予め読み取っ た特徴を現地の中に探す場合と,現地の中で見つけた 特徴的なものを地図の中に見つける場合があるが,い ずれも周囲の風景をよく見て,風景と地図を対応する ことが欠かせない。 (2)観る力,考える力,動く力 ナヴィゲーション技術というと,地図から情報を読 み取り判断する,という「考える」側面が強く意識さ れるが,地図から重要な情報を素早く見抜いたり,風 景の中で重要な特徴に気付く「観る力」,地図やコン パスをスムースに使う「動く力」も必要である。 とりわけ風景を観る力は,周囲のリスクに対する敏 感さにもつながる。「登山中,何が観えているか」「そ こから自分は何を考えているか」という観点で,自分 の登山を振り返ってみたい。 ▶指導のポイント 読図では,①先読み,②ルート維持,③現在地の 把握を意識し,考える力だけでなく,観る力,動く 力を養おう。 2 ナヴィゲーションのための読図の基礎 (1)登山に使われる地図の種類 登山に使われる地図には,地形図と登山用 地図がある。現在,国土地理院が発行する1: 25,000 地形図で全国が覆われている。平成 25 年からは多色刷の地形図が刊行され,見やすさ という点で格段に進化した。一方,登山にとっ て最も重要な徒歩道は,地形図では不正確なこ とが依然少なくない。 登山地図は地形表現が地形図ほど精緻ではな いが,山小屋やコースタイムなど,山登りに欠 かせない情報が記載されている。両者をうまく 活用することが,地図を最大限に生かすことに つながる。 (2)地形図の入手法 地形図は書店等での購入の他に,日本地図セ ンターの Web ページ(http://www.jmc.or.jp/) でも通販している。また,最近では地形図相当 のデータが様々な方法で入手できるので活用し 第4章 読図とナヴィゲーション 図1 ナヴィゲーションサイクル ナヴィゲーションを成功させるためには,移動中の先読み→ルート維持→現在 地の把握が欠かせない。これがナヴィゲーションサイクルである。それに加えて, 移動前のプランニングもコースの把握やリスク管理につながる。

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