安全で楽しい登山を目指して

5 第1章 登山の楽しさと厳しさを教えよう (1)山岳部の指導者は部員から信頼される登山者で ありたい 高等学校の山岳部の活動は日常の活動(トレーニング や学習会・準備会等)が基礎になり,その上で実際の登 山活動が行われるべきである。山へ行くときにだけ顧問, 生徒達が顔を見合わせるということでは,本当の意味で の教育活動としての部活動にはならない。部活動は,顧 問教師の指導の下に,生徒同志がお互いに協力し合い, 困苦を共にした日頃の努力と友情で一緒に学び,お互い に人格を磨きあっていくところに,部活動の得がたい成 果があるのである。 山岳部の指導者(顧問等)はその意味でも日頃から 山岳部の生徒を把握し,部員とのコミュニケーション を図るとともに,部員相互のコミュニケーションにも 配慮し,日常の活動にも積極的に関わることが大切で ある。そのためには,指導者は教師であると同時に, 山岳部員から信頼される登山者でありたい。 (2)指導者としての日常の関わり 山岳部の日常の活動は,トレーニングと学習会・準 備会である。トレーニングは一緒に行うことができれ ば最良であるが校務の都合でなかなか難しいのが現状 であろう。しかしながら,来るべき登山計画のために トレーニングの処方を指導することや各部員の能力に 応じたアドバイスをすることは大切である。その活動 は,登山計画書を作成するに当たって大変役に立つこ とである。 学習会・準備会は登山計画に関係することなので, 指導者として必ず立ち会うべきである。登山は事前の 学習や準備がきちんとできたかどうかで,安全に楽し く行われることが決まると言っても言い過ぎではな い。 学習会・準備会を通して部員全員が何処の山をどの ような日程,装備,食糧等を準備して登山するかをき ちんと共通認識することができる。この過程を通して, 危険を予知し回避することができ登山の安全性を高め ることができる。適切な指導が顧問への信頼につなが ることは言うまでもない。 (3)生涯現役 山岳部の指導者(顧問等)は,他の部活動とは異な り,生徒と一緒に活動しなければその役目を果たせな い。他の運動部の場合は,フィールド(コート)の中 で選手が活動し指導者はフィールド(コート)の外か 山岳部の指導者(顧問等)は,山岳部の生徒達と一緒に登山計画を立案し,生徒の安全を管理しながら登 山を行い,大自然の中で感動を共有し,次の登山への夢を語り合うことのできる生涯現役のやり甲斐のある 役割で教師冥利に尽きるものである。 ら指導助言することしかできない。山岳部の指導者は, 大自然の山というフィールドの中で生徒達と一緒に活 動できるところに大きな教育的意義がある。これほど 素晴らしい教育実践はなかなか無いであろう。また, 登山は自然の中での活動であり当然自然には不確実で 予測の難しい危険性がある。生徒の安全を管理するた めには,指導者は危険を予知し回避しなければならな い義務を負っている。そのためには,生徒達の活動状 況をいつも観察している必要がある。そして顧問自身 が指導者としての登山に関する体力,知識,技術,経 験,判断力を身に付けていなければならない。その意 味で山岳部の指導者は生徒と共に登山活動ができる生 涯現役の登山者であると言える。したがって山岳部の 登山活動は,生徒の安全管理を前提に,その学校の部 の現状と指導者の現役としての力量で目指すべき活動 の方向性や実際の登山計画が決定されることになる。 (4)指導者としてのやり甲斐 山岳部の指導者(顧問等)として「教師冥利」に尽 きることは,生徒一人一人が山岳部の活動を通して人 間として大きく成長していく過程に関われることであ る。生徒達の山での活動を通しての,頂上に達したと きの純粋な喜び,歯を食いしばって重荷を背負い続け た体力と精神力,風雨にたたかれながらもお互いに助 け合う仲間意識,可憐に咲く高山植物に感動する素直 な心,先輩後輩の秩序ある人間関係,自然に対す畏敬 の念,森の野鳥の鳴き声に耳を傾ける優しさ,幕営地 での山の歌の合唱による連帯感など,人間としての成 長のための糧が山岳部の活動にはたくさん内在してい る。このような活動の指導者として生徒達と関わる喜 びはこの上ないものである。 登山指導者の責務として「安全確保義務」が問題に される。すなわち,危険を予見する義務をどれだけ果 たしていたか,危険を回避する義務をどれだけ果たし ていたかの 2 点である。これらの安全確保義務を念頭 において,安全登山の指導者として生涯現役で活動す ることが大切である。 多くの山岳部の卒業生は,「山岳部で活動して良かっ た」と口にする。山の友情と師弟関係は永続する心の 宝,人生の糧になるものである。 (渡邉雄二) 3 山岳部の指導者は生涯現役

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