安全で楽しい登山を目指して

46 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 登山は荷物を背負って変化に富んだ山道を長時間歩かなければなりません。安全で楽しい登山を行うため に必要な歩行技術を身に付けよう。 1 無雪期の歩行技術 山岳部の顧問が,他の運動部の顧問と決定的に違 うところは,自分自身も生徒と一緒に荷物を背負っ て山を歩かなければならない点である。経験の浅い 生徒は,がむしゃらに登ろうとして,無駄に体力を 消耗し,心も疲労しやすい。それに比べて顧問は, 無理な体力消耗を抑える歩行リズムや適切なペース配 分という技術と経験がある。必要なのは,一歩一歩着 実に,持続的に歩けるだけの体力と楽しむ気持ちであ る。 ここでは15~20㎏ぐらいの荷物を背負って2~3 泊の縦走をする時の歩行技術について考えてみよう。 (1)一歩は小さく確実に 登山道は当然のように滑りやすかったり,石が転 がっていたりする。一歩一歩は小さめにして確実に歩 くようにする。特に下りでは確実に登山靴の足裏の全 パターンが接地している感覚で歩きたいものである。 よく「静荷重 ・ 静移動」などと言われるが,体のバ ランスを崩さぬように歩くのが基本である。 (2)ペースはゆっくり 荷物を背負って山を歩き続ける時は,焦って急ぐと 後でばてて事故につながる可能性があるので,ゆっく りとしたペースで歩くべきである。山はゆっくり登っ ても止まらなければ確実に頂上にたどり着ける。計画 段階で行動時間を十分に検討すべきである。 海外の高所登山ガイドは客に「ゆっくりゆっくり」 と声を掛けながら登る。キリマンジャロ登山では「ポ レポレ」,ヒマラヤ登山では「ビスタール」という言 葉が使われる。 生徒を引率する時はゆっくり歩くように声をかける 必要がある。 (3)弱い生徒のペースを見て 部員の中には,特に一年生などは体力がなく遅れが ちな生徒が必ずいる。歩くのが遅い者はどんどんと隊 から離れていってしまう。歩くのが遅い者を隊の先頭 にして歩こう。「ゆっくりでいいから絶対に歩みを止 めるな。」などと声をかけ励ましながら登ろう。荷物 を背負ってじりじりと歩くのは肩や腰に負担がかかり 疲れるが,そこは辛抱である。生徒も顧問も励まし合っ て登る,これも山岳部の良さである。 (4)様子を見て,一枚脱ぐ休憩を入れよう 夏山でも,少し涼しかったり寒かったりすると何枚 か重ね着をしている生徒がいる。適切な重ね着は,山 登りでは大変有効である。歩き始めて30 分くらいで, 体が温まってくる。その時に短い休憩を取って,重ね 着の一枚を脱ぎ,水分も補給する。過剰の発汗は衣類 を濡らして体温を奪い,体内の脱水も進むので,こま めに声をかけて調整することを忘れないようにしよう。 (5)基本は 1 ピッチ(約 50 分)歩いて 10 分休憩 場所や天候にもよるが,2本目からの休憩の目安は 50 分歩いたら 10 分休むといったペースで,休憩時に は水分補給,行動食を食べる。記録などやるべきこと がいろいろある。地図で現在地の確認も必ずしよう。 また歩いているときは暑くても,休んでいるとすぐに 体が冷えてくる。雨具を羽織るなどしてまめに保温を しよう。生徒はこうしたことを面倒くさがって,特に 体力のない者は休憩時に座り込んでしまうだけで何も せず,余計に状況悪化させてしまうものである。 (6)休憩の適地 1ピッチ歩いたら10分ほどの休憩を入れるのが基 本であるが,休憩に適した場所がない場合は歩き続け, 逆にきっちり50分たたなくても適地があれば休むほ うがいい。 適地は,たとえば分岐点や道の広いところ,安全な 川原などである。登りや下りの途中で休むときは,メ ンバーのうち必ず数名は上を見て休むこと。上部の登 山道等に注意を払い,落石などがないか見ていること。 (7)危険箇所の通過 計画したルートに頻繁に落石がある箇所があった り,上級者コースなどとガイドブックに書かれている ルートは生徒引率の場合は控えるべきである。もし一 歩レベルの高いルートを引率しようと思うのであれ ば,必ずルートの下見をし実際に生徒が歩けることを 確信してから入山すること。 そのようなルートでなくとも,山には岩場の通過や 沢の徒渉など不安定でやや困難,一歩間違うと事故に 第3章 歩行技術

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