安全で楽しい登山を目指して

42 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 石となって雪渓に落下してくる。雪は音を吸収する性 質があるので,これらの落石が雪渓上に衝突しても大 きな音は発生しない。転がってくる大きな石も音もな く自動車のようなスピードで襲ってくる。雨天で,上 部で崩れたものが落ちてくる場合には極めて危険であ る。雪渓に激しく石や岩が落ちても,その音はほとん ど吸収されて聞こえない。もし上部の雪渓で落石が あって,それが勢いよく転がってきたとしても,気付 いた時には落石を避けにくく,重大な障害を受けるリ スクが高まる。雪渓に入ったら,音無き落石がないか 上部を常に監視を続けながら歩く必要がある。 エ 落石への注意 夏の終わりになると,雪渓もかなり融けて,雪渓の 橋(スノーブリッジ)も表れてくる。雪渓の下層部に は流水が入り込んで,浸食が進み,かなり薄くなって いる。この頃の雪渓は硬くて脆い。午前中に渡れたス ノーブリッジが昼には崩壊することもある。もし落ち ると致命的な障害を受けることも予想される。遠くか ら見て,雪渓の下層部が開口している場合には,その 上の歩行を避け,別のルートを探すべきである。 崩壊が予想される雪渓の横断は避けた方が良い。前 夜の雨,周辺の雪渓の状況などを良く観察すること。 大きな岩の周りや岩壁の近くなどにも落とし穴が多 い。危険を感じたらすぐに引き返し,より安全なルー トを探す必要がある。 3 注意すべき動植物 人が山で動植物から被害を受けないようにするに は,それらの動物の生息域,ハチの巣,植生域に不用 意に近づかないことが基本である。 クマ・イノシシ・サル・毒蛇などの野生動物が生息 している領域やスズメバチなどの巣には近づかないこ とが基本である。攻撃性の高い昆虫の生息している場 所へ不用意に踏み込むことを避ける。 ここでは,それぞれの特性と注意点を述べる。 (1)植物 ウルシやハゼのうちで,ツタウルシは特に毒性が強 く,触れてから1~2日後に,激しいかゆみを伴うア レルギー性の連なった発疹を生じ,皮膚が熱をもつ。 掻いた手で触った箇所にも症状が現れる。ツタウルシ はツル性で木や岩に付いて,ツルの途中に縁の葉が3 枚ずつ,ツルから離れるように出ている。 ヌルデは里山にも広く自生しヌルデの葉の表面には 小さなイボが散在し,葉の中軸には幅の狭いヒレ状の 葉がついている。それぞれ,致命的ではないが,下山 して皮膚科で症状に応じた適切な処置をしてもらう。 (2)動物 クマ,イノシシ,サルなどは,それぞれが複数の縄 張りを持っており,餌を求めて,それらの間を移動し ている。このうちクマは国内最大の強力な陸上動物と して十分に注意すべきである。これらの生息域に不用 意に立ち入ってはならない。そのためにクマの出没情 報などを収集する必要がある。もし見かけたら,他の パーティーにも速やかに伝え,お互いに注意を促す。 やむを得ず通過する時には,急に遭遇して動物を驚 かせないように,クマ鈴などで人間が近くにいること を早めに知らせる。クマやサルが出やすい場所での野 営はできるだけ避ける。 マムシ(広く全国),ヤマカガシ(北海道にはいない), ハブ(沖縄県)などの毒蛇は,草むらや水辺に潜んで いて,不意に出遭うと咬まれる。棒やストックなどを 草むらへ先行させて,蛇が逃げるように仕向けながら, 慎重に進む。水場で水を汲むとき,夜間にトイレに行 くために野外を歩く時には特に注意する。毒蛇に咬ま れた疑いがある場合には,救助要請する。(平成 29 年 度 登山部報 No.61, p.131) ヒルは命に関わることはないが,傷口の血液が凝固 しにくく,傷跡は長く治らなく,不快が続く。生息域 は拡大している。 図5a ツタウルシ 図5b ヌルデ

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