安全で楽しい登山を目指して

41 第1章 山の特徴 2 火山や雪渓などのリスク (1)火山のリスク 日本列島には111の活火山がある。(活火山の定義 については,火山噴火予知連絡会で幾度か見直された 結果,「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在 活発な噴気活動のある山」が選定されている。) 図 4 に日本各地域における活火山の数を示す。これ らのうち50の山は「火山防災のための監視・観測体 制の充実などが必要な火山」とされた。これは御嶽山 (3,067m) が 2014 年(平成 24 年)9 月 27 日に噴火し た災害以降に設置され,これらの活火山には24時間 の観測・監視体制が敷かれている。 北海道 20山 本州および南西諸島 61山 九州および沖縄方面 19山 北方領土 11山 図4 日本各地における活火山の数 図4 日本各地における活火山の数 日本百名山のうち32の山が活火山で,多くの登山 者が訪れている。これらを登山しようとする場合には, 気象庁から出される噴火警報・予報に注意することは 言うまでもない。たとえ警戒レベルが低くても,火山 活動が急に始まり,その災害に巻き込まれるリスクが あることを常に意識する必要がある。御嶽山の例では, 行楽シーズンの 9 月 24 日(晴天),11 時 52 分に突然 噴火が始まり,多数の登山者が噴火災害に巻き込まれ ている。ここでは巨大な噴石と大量の火山灰が降り注 ぎ,高温の火山ガスも大量に吹き出ている。多くの登 山者が致命的なリスクにさらされた。 ヘルメットなどの装備があれば,少しは安心である が,安全に登山できると判断するのは危険である。大 きな噴石に当たるリスクをヘルメットでは防げない。 さらに,登山客が集中する時には,それだけでリスク が高まっていると認識すべきである。たとえ噴石除け のシェルターがあっても,その収容人数を越えたら シェルターの中に避難できない。混乱とパニックに騒 然とする中,混雑する登山道を速やかに下ることも難 しい。このように登山者が集中している状況に遭遇し たら,強烈な悪天と同様に考え,すぐに別の登山計画 に切り替えられる用意をしておくべきである。 (2)雪渓におけるリスク 夏の雪渓は登山のルートとしてよく利用される。尾 根上の起伏にとんだルートに比べて,雪渓は起伏が少 ないから,短時間で移動でき,結果として体力の消耗 を抑えられることが期待されるからである。しかし, 雪渓には,滑落・低温・崩落・落石などのリスクがあ るので以下のように防止する。 ア 滑落防止 雪温が0℃近くで崩れやすく軟らかい場合には,そ のまま歩くこともできる。雪温が低く,硬い場合には, アイゼンやピッケルと技術が必要である。 雪渓に入る前に平らな安定した安全な場所でアイゼ ンを靴に装着する。いよいよ滑落が心配される場面に なってからアイゼンを装着していては遅い。不安定な 場所で安全にアイゼンを着けることは難しく,危険な 行為である。アイゼン歩行の基本は,アイゼンの全て の爪を斜面に効かせて,踏み締めるように体重を全て の爪の先に伝え,ゆっくり体重を移動することである。 焦らないために時間に余裕をもって,この箇所を通過 できるように計画し,行動管理すべきである。 キックステップは,アイゼン歩行より難しい技術で ある。この技術で安全かつ自在に,圧密した雪の斜面 を登り・降り・横切るためには,相当の練習が要る。 アイゼンを装着していない靴を傾斜面に置けば,容易 に滑って滑落しやすい。そこで,雪の斜面を靴でけり 込んで(キックして),足を安定して置くための水平 な段(ステップ)を作りながら慎重に歩行する(第3 編第3章「歩行技術」を参照)。 イ 低体温症の予防 雪渓に長時間滞在すると,低体温症のリスクが高ま る。雨が予想される場合には,雪渓に入るべきではな い。それでも万一の雨や強風に備えて,防寒着やウー ルの手袋などを携行しているか,体調に問題はないか などを,雪渓に踏み込む前に必ず確認してほしい。行 動中に震えが起き,唇の色が悪くなってきたら,すで に低体温症が始まっていることを疑って,雪渓のない 安全地帯へ早急に移動させる必要がある(第3編第7 章「登山の医学」4「低体温症」を参照)。 (補足 好天時には雪盲に注意が必要である。雪面か らの反射する紫外線は太陽から直接届くものと同等の 強さがあるから注意が要る。サングラスを着用して防 ぐ。) ウ 崩壊の注意 雪渓の両岸は,雪や雨で削りとられた地形であり, 切り立った崖や急峻な崩土で構成されている。それら に露出した不安定な石や岩は崩れやすく,しばしば落

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