安全で楽しい登山を目指して

40 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 気温 10℃の時に風速 10m/s の風に吹かれれば,体感 気温は 0℃になる。外気温 0℃では,同じ風速 10m/s で も体感気温は-15℃に下がる。-10℃の外気温では, 風速10m/sに対して体感気温は約20℃低下している。 これは気温が下がれば,空気の密度が上がり,多くの 熱が伝達されやすくなるからである。 暑い時に風に吹かれれば,体感温度が下がる。これ は風冷効果(①流れる空気に体熱が移動する熱伝達+ ②体表からの水蒸気の蒸散)による。夏場に樹木の少 ない尾根上で強い日射かつ無風の日には,この風冷効 果が得にくいため,対外からの体内の産熱と放冷のバ ランスが崩れ,体温が上がりやすい。また,湿度が高 い日には,大気中の飽和水蒸気圧が高いために汗の蒸 散が進まず,体温を下げにくくなる条件となる。(第 3編 第7章「登山の医学」,2 「脱水と熱中症」を 参照) 図2 風速と体感気温の関係 風速(m/s) 外気温と体感温度(℃) -90 -80 -70 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 10 15 20 5 外気温 0 風冷効果 図2 風速と体感温度の関係 寒い季節でなくても日没や悪天による外気温が下 がってから,風に吹かれれば,体温の低下が促進され ることに注意がいる。体温維持には炭水化物を食べて 産熱に努め,さらに風による体温冷却を抑えるために 衣類,帽子,手袋,ツェルトなどを活用する。(第7 章「登山の医学」,4「低体温症」を参照) ▶指導のポイント ア 高温又は多湿時の風冷効果の低下 イ 低温時の風冷と防寒の必要性 【演習問題】 風速1m/sで1℃の体感温度の低下があるとする。 海抜 0m で 36℃の真夏に,標高 3,000m の山頂で風速 10m に吹かれたら,体感温度は何度になるか。 (解答 36℃- 6℃× 3 = 18℃,18℃- 10℃= 8℃) ここで,計算だけで終わりにせず,この8℃の意味 を実感させる。このシナリオに,日没や降雨を加え, 致命的な低体温症に陥るリスクが高くなることを想像 させる。さらに,定着地から短時間のピストン登山で も,体調不良による歩行速度低下や天気の急変による 降雨や強風に備えるため,雨具や防寒着,ヘッドライ トなどの携行が必要なことにも気付かせる。 (4 )緯度 日本は南北に長いため,同じ標高でも緯度の低い九 州方面と緯度の高い北海道とでは,山の気温が異なっ ている。森林限界を参考に同等の気温で比較してみる と図3のようになる。単に標高だけ(図1)から登ろ うとする山の気温を推測するのでなく,緯度の高い(よ り北の)山域で登山する場合には,防寒着,ツェルト, 食糧,燃料などの備えを万全にして,保温と産熱可能 な計画を立てる必要がある。また登山中には,特に天 気予報,現地の風力や天気の変化,日没なども注意し ながらリスクマネジメントに努めてほしい。 利尻島約500 m 大雪山・日高 約1000 - 1500 m 東北地方 約1600 m 中部山岳 2100-2600 m 上信越 1600-2000 m 1 図3 気温比較の推定になる森林限界の高さ ▶指導のポイント ア 緯度の高い山域での山の気温に注意させる。 イ そこでの日没や悪天,強風が重なる場合のリス ク(ダメージの程度と発生確率)の増加も加味し て考えさせる。 【演習問題】 普段は,四国(1,000 m級)の山で登山をしている高 校生たちが,夏の大雪山(1,000~1,500 m)に登る計 画を立てる場合,同じ程度の標高でも地域差によって, どのような登山のリスクが考えられるかを話し合う。 (解答例) 大雪山は中部山岳2,500mと同じくらいの 森林限界だから,防寒対策や悪天時の行動などについ て十分考えた計画を立てる必要があるなど。(発展学 習として,トムラウシ遭難事故のことを調べて,発表 させ,防寒対策の重要性について認識を深めさせる。)

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