安全で楽しい登山を目指して

39 第1章 山の特徴 「山で活動する上で安全管理上注意すべき山の特徴」 ①標高,風,緯度,季節による深刻な条件 ②火山や雪渓などのリスク ③注意すべき動植物 ④登山のマナー 1 標高,風,緯度,季節などによる深刻な条件 (1) 高所での低酸素 標高の高い場所では大気中の酸素分圧が低い。表1 に標高と酸素分圧の関係を示す。地上の気圧を1とす ると,富士山頂上で 2/3,標高 5,000m で 1/2,エベ レスト頂上では 1/3 である。 さらに注意すべきは,動脈血酸素分圧である。この 分圧を地上で1とすると,富士山頂上で1/2となる。 つまり富士山登山では運動に必要な動脈中の酸素が, 地上の半分しかないことになる。このように標高を上 げるほど,低酸素となり,そこでの登山するリスクが 高まる。(第 3 編第 8 章「登山の運動生理学とトレーニ ング」6「登山中に起こる疲労とその対策」5「低酸 素による疲労」を参照),(さらに高山病の判定に便利 なレイクルイーズスコアや高山病の分類と対処につい ては,平成 29 年度 登山月報 No.61, pp.126-128.参照) 表1 高所における低酸素状態 ⾑ ᘙᵏ ᭗৑ỆấẬỦ˯ᣠእཞ७ 0 760 159 1 47 149 40 100 95 1 3770 480 101 2/3 47 91 36 51 46 1/2 5200 380 80 1/2 47 70 30 37 32 1/3 8848 250 53 1/3 47 43 15 28 23 1/4 㧗ᗘ(䡉) ኱Ẽᅽ(torr) ኱Ẽ୰㓟⣲ศᅽ(torr) 37Υ㣬࿴Ỉ⵨Ẽᅽ ྾ධ㓟⣲ศᅽ䠄torr) ஧㓟໬Ⅳ⣲ศᅽ(torr) ⫵⬊䛾㓟⣲ศᅽ(torr)ື ⬦ 㓟⣲ศᅽ(torr) ᐩኈᒣ 䜶䝧䝺䝇䝖 ▶指導のポイント 標高が上がると酸素が減り,運動にとって過酷な 状態となり,体調不良になりやすい。 【演習問題】 1)富士山の頂上で大気中の酸素の割合は,地上に比 べて約何割か答えよ。 (解答 約 7 割) 2)富士山頂上で動脈中の酸素の割合は地上にいる時 に比べて約何割か答えよ。 (解答 約 5 割) (2)高所での気温低下 登山者が活動する地球の表面の高さ範囲は海洋から 約 1 ㎞以内と限られている。この範囲では太陽光が真 上から照り付けて効率良く地表(海洋)を温められて 高温が生じる。そこから離れて高い山に上がると次第 に寒冷になる。 図1に標高と大気の温度(気温)との関係を示す。 標高が上がれば,大気の温度は直線的に下がる。例え ば,標高差 1,000m 登ると 6℃気温が下がる。(地面の 影響がない気温減率の例:国際民間航空機関が定めた 国際標準大気による定義では,海面から高さ11㎞ま では 1,000m で 6.49℃下がる。) 図1 標高と気温の関係 大気の温度(℃) -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 0 4000 8000 標高(m) -42℃ -9℃ 15℃ 富士山 エベレスト 図1 標高と気温の関係 ▶指導のポイント ア 真夏でも標高が上がると寒くなる。 イ 夏でも防寒着が必要 ウ さらに雨,風の中,雪渓では,夏でも急速に低 体温症になる(例えば,8月の針ノ木雪渓や白馬 雪渓を登山中に寒冷前線が通過した場合)。 【演習問題】 海抜 0m で 32℃の時,3,000m 級の山頂では何度と 予想されるか答えよ。(解答 32℃-6℃×3=14℃) (3)風冷効果と体感気温 図 2 に風速と体感気温との関係を示す。例えば,外 第1章 山の特徴

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