安全で楽しい登山を目指して

34 第2編 登山を計画しよう (1)活動目標の明確化と共有化 高校山岳部は,4月に新入生を迎え,3月には卒業 生を送り出す。高校 3 年間とはいうが,実際の活動は, 通常長くて 2 年半である。しかし,体力も知力も伸び 盛りの生徒たちのこの 2 年数ヶ月の発達は目覚ましい ものがある。適切な支援やアドバイス,指導計画があ ればなおさらである。年度ごとの活動計画を明確にし て指導に当たりたい。年間の計画を立ててきちんと方 向性を示すということは,部活動を通して何を目指す のかを,顧問と生徒の間で共有することである。その 上で個別の山行については生徒と顧問で計画を練り上 げていく。 通常の運動部の活動においては,大会が一つの目標 となるが,山岳部の活動はそれとは多少なりとも趣を 異にする。一般的な山岳部の活動は,高体連主催のイ ンターハイを目指す競技登山的な側面とアルピニズム 的な側面の二面性を持っているが,両者は切り離され たものではなく,表裏一体の関係にあると考えるべき である。競技的な部分が安全登山に寄与し,アルピニ ズム的な部分も安全登山に裏打ちされたものでなけれ ばならない。その意味で,競技登山の目標である大会 とアルピニズムの目標である合宿や縦走は,いわば, 高校山岳部の活動における両輪である。 日本の山は,四季を持っているがゆえに美しい。し かし,四季を問わず自然を相手にする以上そこにはい つでも危険が潜んでいることを知るべきである。夏冬 問わず,危険を知ることで,安全の技術を高めること ができる。危険から目を背けてしまうのではなく,危 険を真正面から受け止め,そのリスクを知ったうえで, 安全登山を行うという安全教育の視点をもった活動を したい。 本来的な登山と競技登山は相いれないという考え方 もあるが,高体連の大会は単に体力や技術の優劣を競 うだけのものではない。全国高等学校登山大会成績評 価実施要領には,「この登山大会は,正しい高校登山 の在り方を求め,その着実な展開と研究を主目的とし て安全登山を推進するためのものである。この登山大 会の成績評価は,単に優勝を競い,順位を争うための ものではなく,大会の主旨を尊重し,登山の基礎的な 技術・態度を着実に実践できることを主眼とする。」 と書かれている。以上を踏まえたうえで,長期合宿(縦 走)と大会をメイン活動と位置付け,生徒の成長や3 年生の引退時期,それに伴うチームの新陳代謝などを 勘案して,年間を 4 タームに分けて目標設定をして活 動することを一つの例として提案したい。その際,新 入生が入部した年度当初と,冬山の活動前には特に丁 寧に対応することを心がけたい。 (2)年間活動計画の具体例 ア 第1ターム 4月に新入生を迎え,新たな活動がスタートする。 都道府県の登山大会は概ね 5 月下旬から 6 月上旬に行 われるが,第 1 タームはこの高体連の県大会を目標に 活動を展開する。新入生は登山の基本を学び,上級生 は大会入賞を目指して登山技術をさらに向上させる時 期となる。体力トレーニングに加え,読図力の強化や 生活技術(テント設営や炊事など),気象や救急の机 上学習や計画書作りなど多岐にわたる審査項目に対応 するための準備の日々を経て,県大会を迎える。大会 では,登山の総合的な力が審査され,自分たちの力が 客観的に評価されるが,単に大会での順位を競うので はなく,大会主旨にもある安全登山のスタンダードを 確認するための重要なステップとなる。ここを目標と してチーム作りをすることで安全登山の基礎技術が確 実に向上する。 イ 第2ターム 第 2 タームは,高校山岳部のメインイベントと位置 付けている「夏山合宿」を目標においての活動となる。 かつて高校山岳部の合宿は5泊,6泊ということもあっ たが,学校の多忙化の中でなかなか長期合宿を行うこ とは困難になってきている。3泊以上の登山を無雪期 における高校山岳部の目標として設定し,そのための, 体力,技術等を想定して大会後の2か月間を通して, トレーニングを行っていく。 ウ 第3ターム 夏合宿を終えると,文字通り新チームが始動する。 次年度に向けての第 3 タームの活動を始めることにな る。ここでは秋の連休を活用しての 2 泊 3 日の合宿や 新人大会を目標とする。3年生が実質的に引退した後 の,新メンバーでのチームワーク作りやモチベーショ ン作りが重要な要素となる。同時にクライミングや沢 登りなど,登山の様々な世界を知らしめ体験させたり, 技術について向上させたりする期間でもある。 部活動を通して何を目指すのかを,顧問と生徒の間で共有することが重要である。競技登山の目標である 大会とアルピニズムの目標である合宿や縦走は,いわば,高校山岳部の活動における両輪であり,両者をう まく融合させて,安全教育に軸足をおいた活動を行いたい。年間を4タームに分けて,目標を明確にした活 動を一つのモデルとして示したい。 2 年間の活動計画

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