安全で楽しい登山を目指して

31 第1章 PDCAサイクルで安全登山 (1)リスクマネジメント 入山前には体調の確認と忘れ物の確認が,リスクマ ネジメントの始まりである。登山靴の底のはがれなど は,かなり前に確認しておく。前夜までの睡眠不足, 体調不良,水分や栄養不足のままの入山は,すでにリ スクを負うことになる。宿泊や移動に差しさわりのあ る大切な装備を忘れていないか,共同装備や個人装備, 食糧など忘れ物がないかを詳細に確認する。入山後に 忘れ物に気づいたら,それを意識した行動に計画に修 正する必要も出てくる。 入山中は,天気,体調,ルートの様子などに注意し, 複数のリスクが重なって高まってくることを推し量 る。パーティーのリーダー(あるいは指導者(顧問等)) は,常にハザード(危険の源)を意識し,リスクの総 量を気にして,行動を続けるか止まるかを考え続ける。 (2)ダメージコントロール 道迷いは,一旦行動を停止して,これまでの行程 を振り返り,周囲の観察と併せて,現在地を推定す る。次に現れると予想される特徴物などの推定をして, 戻ってくるルールを決め,偵察には2名以上で行く。 あるいは安全な場所で待機やビバークの準備をする。 万一負傷や熱中症,低体温症等に気づいた場合には, まずパーティーの仲間の安全を確保してから,事故 者の応急に当たる。3SABCDE を活用し,緊急性を認 めた場合には,躊躇なく緊急連絡をとる。この時に支 援体制をもつ登山チームが機能的に働くことになる。 (第 3 編第 7 章「登山の医学」を参照) ▶指導のポイント ア リスクマネジメントでは,リスクをカウントし て,手に負える限度を越える前に,行動一時中止 し,その後の行動を検討しよう。 イ 発生した事故が致命的にならないように,ダ メージコントロールに努める。応急処置,緊急と 判断すれば,迷わず救助要請せよ。 4 Check(行動の評価) アクティブに登山中の Check,一日の登山後明日の 登山のために Check,帰宅(帰校)してから次の登山 のために山行を振り返って Check(評価)する。ヒヤ リハットも挙げると,相互に注意喚起になる。 (1 )登山中 休憩場所以外でも道の分岐,リスクの高い場所に踏 む込む手前の安全地帯で,ルート維持ができているか, 現在地の確認,メンバーの体調,天気の様子などに問 題がないか Check(評価)する。 本部との定時交信でも,状況を報告する。一旦勢い づいたパーティーは止めようにも簡単に止められな い。行動を一時停止し,行動をチェックする場所,時 間を事前に決めておくと,便利である。そこで集まっ て,行動が正しく,予定どおりに進んでいるかを評価 する。問題の有無を明確にする。 (2)一日の行動後 その日の行動が終わったら,登山記録を付けて,そ の日のうちに振り返っておく。翌日も予定通りの行動 で良いか,別の行動に切り替えるかを検討する材料に 順調か不調か,計画に無理がないかを Check(評価) する。 (3)山行後 帰りの電車の中での時間を利用して,反省点などを 挙げてもらう。これらは時間とともに薄れてしまう。 早めに人に話し,記録するのが良い。それらをもとに 報告書を作成する。報告書には,山行目的,メンバー 表,行動日(年月日),山行記録,全体のことと,個 人から自分のことやパーティーのことも報告する。お 世話になった関係機関,保護者などにも配布すること を考えて,内容を確認する。書式を決めて記載すれば, 保管もしやすく,将来に利用しやすい。 ▶指導のポイント 雨,風,気温の急変,雷,雪,雪崩,などへの注 意,個々の生徒の体調,落石や滑落などに対する注 意喚起など,指導や引率では油断はできない。熱中 症防止なども,定期的にコップなどで経口補水液を 摂ることや排尿の量など,具体的に注意しよう。 5 Act(改善) Check(評価)した結果,ナヴィゲーション中のルー ト維持のように,すぐに修正できることもあれば,報 告書にしてみて,複数の問題点が関係していて修正に 時間のかかること,大きな問題点で山岳部として話し 合ったほうが良いこと,など様々な課題が見つかる。 お互いに小さなことも大きなことも気が付くことを数 多く挙げて,アクティブラーニングも活用して,登山 前後の場面では以下の点に留意する。 (1)事前の準備でも,メンバーの体調や都合,ルー トや天候の状況が変わることもある。このように前提 条件が変わってしまったら,一旦決めたからと言って, そのまま無理に続けようとせず,状況に合わせて,準 備しておいたサブプランに切り替える。「自分たちは, 大丈夫だろう」「これくらいは問題ないだろう」と事 態を軽視せず,事実や現状を客観的に検討すべきであ る。自分に都合の良いように事実を曲げて解釈しては ならない。 (2)行動中においては,異変に気が付いたら,すぐ

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