安全で楽しい登山を目指して

30 第2編 登山を計画しよう (6)登山届と登山計画の違い ア 登山届と登山計画の役割 最近は登山届を義務化している山域があり,登山届 の遭難抑止力が啓発されているが,作成に当たっては 登山届が何を意味しているかを明確にし,その効能を きちんと把握しておきたい。 プランニングの成果をまとめたものが登山計画書で あり,それを警察(場合によっては所属する組織)に 届けたものが登山届である。登山届は遭難が起こった 事後に行政等組織として対応(救助)するためのもの であって,届そのものが登山の安全につながる訳では ない。あくまでも発生したダメージを最小限にするた めのものである。 一方で,安全で楽しい登山のためには事前に山域や ルートを把握し,計画を吟味することが欠かせない。 その成果が登山計画書である。従って,登山計画書は, 登山の安全を直接的に担保する。 登山届が義務化されているから出すのではなく,計 画的な登山によって自らの安全を確保するという自律 性を持ちたい。そうすることにより,登山計画書や登 山届の実効性が高まる。 イ 何のための登山計画書か? 登山計画書の目的は多様であるが,主たる目的は以 下のように整理できる。 (ア)コースの状態を把握し,リスクに備える。 計画書を書く以上,コースの長さや所要時間を把握 する必要が生じる。装備を吟味するためには,ルート の様子を把握する必要もあるだろう。(第3編第4章 「読図とナヴィゲーション」3「行程とリスクの把握」 (p.55)を参照) (イ)メンバー間の共有と意識づけ グループでの登山であれば,登山計画書を書くこと で登山の概要をメンバーで確実に共有することができ る。また装備の分担についても把握することで,確実 に装備を携帯することにつながる。経験の差の大きい 学校等の部活動での登山では,特にメンバー間の情報 と意識の共有の役割は大きい。 個人の山行であっても,計画書を作成することで, 注意点や必要な装備を確認し,それへの意識を高める ことができる。 (ウ)いざという時のためのダメージコントロール 登山計画書を家族・友人や組織に残すことで,いざ という時のダメージを最小限にできる。たとえば,単 独行で滑落し,移動困難になり,しかも携帯圏外であっ たとき(実際に事例がある),誰もあなたのことを探 すことができない。滑落後も生存していたとしても, 救助がなければ,いつか命がついえてしまうだろう。 もし登山計画書が出ており,残された人がどう行動す べきかを知っていれば,記載された行程によって捜索 活動が効率よく行われ,最悪の事態は防げるかもしれ ない。 ウ どう書くか 登山計画書や届に決まった様式はない。どんな項目 が不可欠で,どう書くべきかを考えてみることもアク ティブラーニングの一つとなりえるだろう。下級生に は帰ってきたばかりの山行を回顧しながら自分で登山 計画書を書かせてみることも,自立した登山者に向け てのよい机上練習となるだろう。 長野県の登山届では,メンバーの氏名,性別,年齢, 住所,携帯番号,緊急連絡先,入山日と下山予定,行 動予定(地点名と時刻),エスケープルートや非常時 の行動,装備品,所属団体,無線機携帯を記入するこ ととなっている。ウェブでの提出が可能な「compass」 でも,概ね同じような項目が要求されている。 これらのうち,行動予定については,地図やガイド ブックからの情報,自分たちの力量を元に記載するこ とになる。またエスケープルートや非常時の行動につ いても地図等の情報が必要となる。行程やルートの特 徴に応じて装備品が決まる。 ダメージコントロールのためには,他者に確実に自 分たちの山行の様子が伝わる必要がある。とりわけ重 要なのは行程が曖昧さなく伝わること,エスケープ ルートの有無である。また長期の縦走であれば下山予 定日や予備日の有無なども明記し,残されたものがど のタイミングで行動を起こせばよいかをはっきりさせ ておく必要がある。 ▶指導のポイント ア 登山の計画書は,安全に登山するための設計図 である。これを目安に行動可能かを考え,メンバー と留守本部とも共有する。 イ 登山計画書は,直接に登山の安全を担保する。 登山届は,遭難救助用に行政が必要とするもので, 安全登山にそのままつながらない。 (村越 真) 3 Do(登山中の行動) 登山の特異性から,パーティーが致命的なリスクを 負わないようにリーダー(あるいは指導者(顧問等)) はリスクマネジメントを行う。万一,事故が発生した ら,その事故が拡大,発展して致命的な危機に陥らな いように,最小限のダメージになるように,ダメージ コントールする。

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