安全で楽しい登山を目指して

21 第3章 山岳部の登山を支えるチームを作ろう 山岳部で安全に登山を楽しむためには,次の①~③が必要である。 ①自立した登山者(登山の特殊性を理解し,適切に対処できる自立した登山者になろう。) ②タフなパーティー(PDCA サイクルなどを活用して,万一に備えているタフな登山パーティーを作ろう。) ③登山チーム(本部や関係機関による機能的な支援体制のある登山チームを作ろう。) 1 登山の特異性と自立した登山者 登山は特殊な環境で行われる特異な運動である。こ れらに適応するには,まずこの特異性を理解し,そこ に内在するリスクに注意を払う必要がある。 (1)環境面 高い標高では低酸素や低温となり,強 い日射・風・雨・雪・雷などの天気は頻繁に変化す る。日本では四季の気温差や地域差も大きい。これ らは複合して人に影響を与える。 (2)運動面 重い装備や食糧を背負って長時間歩く のが基本である。登山道は不整地で登り下りがあり, テント泊を伴う登山もある。 これらの特異性は登山を構成する本質であるため, これらを全て避けたら,登山ではなくなる。また,登 山道や道標を整備しても,特異性に内在するリスクを 直接排除することはできない。 ▼ 指導のポイント このような特異性ゆえに,登山は観光旅行ではな く危険を内在した野外スポーツであることを普段か ら伝え,共有しよう。 2 タフなパーティー (1)単独登山より安全性が高いパーティー登山 平成29年の山岳遭難事故統計によれば,単独登山 の人の事故者で死亡・行方不明の割合は,複数登山に 比べて3倍近い。この傾向はここ数年続いている。パー ティーを組んでいれば,誰かが気づき,早く対処でき る。救命に関する複数登山の優位性が現れている。 リスクの多い登山では,①十分に話し合って,無理 のない計画を立て,②行動中には仲間の異変に気付き, ③小さい問題の時からお互いに助け合う。④その時の 状況判断は,登山して初めて学び合う貴重な場面であ る。この一連の流れが PDCA サイクルである。 ▼ 指導のポイント ア 仲間を気遣い,助け合うために,優れたリーダー (指導者(顧問等))とフォロワー(メンバー)相 互の信頼関係を日常的に養おう。 イ 登山を安全に成功させる初めの一歩は,ミー ティングです。参加者みんなに無理のない企画・ 計画を十分話し合おう。 ウ タフな登山パーティーになるには,普段からの ①話し合い②気づき合い③助け合い④学び合い! (2)登山中のリスクマネジメント 登山中,リーダーやメンバーは,お互いの様子の変 化,天気の変化,地形の変化などに常に注意しながら 行動すべきである。小さな異変も見逃さないことがリ スクマネジメントの基本である。 リスクの要因となる項目が重なってくると対処でき なくなる。リスクを数えて,ある数を越えたら,エス ケープや引き返すなどの行動に迷わず切り替える必要 がある。リスク項目の例を以下に示す。 第3章 山岳部の登山を支えるチームを作ろう ①登山≠観光旅行 ②危険を内在した 野外スポーツ 環境 運動 ①長時間持久運動 ②不整地(道・岩雪氷)上り下り ③荷物 ④酸素・水分・栄養の補給 変化する厳しい自然環境 1) 高度→低酸素,低温 2) 風、濡れ→低温 3)季節・地域差 4)気候変動・都市化 (都市でのサービスなし 土砂崩れ・雪崩 特異な環境と登山という運動 自助努力が基本) 登山道整備と情報提供だけでは 登山事故はなくせない! (豪雨・温暖化) (自然の脅威増加) 独特な運動 死者6.7% 行方不明0.4% 負傷者 42.2% 無事救出 50.8% 単独・複数登山者の遭難事故内訳(H29.警察庁) 複数登山 2042人 負傷者 32.5% 単独登山 1069人 無事救出 47.9% 死者16.7% 行方不明2.9% 19.6% 7.1% 2,042人 1,069人

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