安全で楽しい登山を目指して

163 第3章 上級演習 落雷を想定した引き返しポイント:薬師峠と雲ノ平の西北西側標高 2,380m 付近(傾斜が急激に変わっている 付近) 前述のように,落雷のリスクが高い場所と想定される場所は太郎平と雲ノ平になる。太郎平は出発してすぐの 地点であるので,引き返しポイントはその手前にある薬師峠を出発してすぐの地点と,雲ノ平に出る手前(森林 限界付近の傾斜が急激に変わる辺り)ということになる。 (4)③ ①は図1から2にかけて前線は明らかに南下しており,前線の動きが遅いとは言えないので誤り。18 時には 雲ノ平付近に前線が達する予想なので,遅くとも午後には前線の南側の強雨域に入る可能性が高い。 ②は,1 時間に 20㎜以上の降水でも沢が増水する恐れが高いので誤り。ただし,降水ナウキャストはその時 点での雨の強さであるので,一時的に強い雨雲がかかってもすぐに抜けていけば,雨量は少なく,沢が増水す るリスクは小さい。また,落雷は雨が弱くても(場合によっては降っていなくても)近くで積乱雲が発達して いれば起こり得るのでこれも誤り。 ④は,「前線が夕方には当該山域の南へ抜けていき,午後は天気が回復する」という所が誤り。図2から, 18 時頃,寒冷前線が当該山域に達する予想であるので,天気の回復は早くても夜に入ってから。 (5)雲の画像から雲底が非常に暗い雲が現場の近くまで接近している。また,下の画像で〇印で囲んだ中にあ る雲は巻雲で,対流圏のもっとも高い場所にできる雲である。これらのことから,積乱雲は対流圏の最上部に 達したことを示しており,非常に発達していることが分かる。非常に発達した積乱雲では落雷,強雨,突風な どの気象現象が発生しやすい。雲の距離が近いことから,今後数十分以内に天候が急変する可能性が高い。そ のため,薬師沢小屋に避難するという判断をすべきだ。 積乱雲が非常に高い高度 に達したことを示す巻雲 画像1 (猪熊隆之) Ⅲ ナヴィゲーション技術 指定された区間はほぼ尾根であり,双六岳まではほぼ南向き,双六岳からは南東向きの尾根を降りて尾根の傾 斜が変わる辺りから北東におり登山道にあたり,東南東にまっすぐ下ると双六小屋へ至る。天気がよければミス は起こりにくいが,視界が悪いとルート維持の失敗による道(尾根)間違いの危険がある。高山帯では,道迷い は深刻な事態になりかねないので,注意が必要である。 双六岳に向かう途中には 2,854m の 50m ほどの登り返しのあるピークがある。2,854m のピークから下る際には 尾根が広がっている。岩がちで登山道がわかりにくい場合には,東南東の尾根に下らないように尾根の方向に注 意する。双六岳山頂も下りはなだらかで,尾根が分岐している。山頂直下では,南西の尾根に降りないように, 方向を注意する。

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