安全で楽しい登山を目指して

154 第4編 リスクマネジメントに関する総合演習 寒冷前線に伴う強い雨は,前線が通過した後はやみ,太平洋側の山岳では急速に天気が回復する。日本海側の 山岳でも図4のように気圧の尾根周辺では一旦天気が回復することが多い。このため,出発時間を遅らせること で落雷(テントの中でも落雷のリスクはあるため,危険を感じるときは山小屋に避難)や強雨による濡れ,体温 低下を防ぐことができる。日没が早い時期なので,タイムリミットをしっかりと決め,何時までに出発できなけ れば,行程を短縮するなど事前に決めておく。今回は寒冷前線が予想図通りに朝のうちに抜ければ,午前中の早 い時間には行動が開始できると思われる。 (6)強風(による転滑落,低体温症など) 大滝ノ頭五合目の先から藪沢方面に入り,馬ノ背ヒュッテを経て馬ノ背の稜線に出る。帰路も同様。ただし, 稜線に出たところ(ターニングポイント)で強風によるリスクが大きいときは,そこで往路を引き返す。 図5を見ると,3日目は日本海に低気圧が残り,その南側にあたる仙丈ケ岳付近では等圧線が込み合っている。 また,日本海に低気圧があるときは,西寄りの風になり,南北に連なる山脈では摩擦が少なくなるため,風がもっ とも強まる風向きである。仙丈ケ岳付近も仙塩尾根が南北に連なっており,西風が強まりやすい。このため,当 日は強風が予想される。 尾根上のルートは風の影響を受けるため,沢沿いのルートに変更することが望ましい。強雨が想定される場合 はこのルートも沢の増水などのリスクがあるが,この日は前線や低気圧の影響がなく,西からの乾いた空気が入 る気圧配置のため,降雨のリスクは低いと考えられる。 (猪熊隆之) Ⅱ 医療 (1) ① 食事の摂取量,飮水量,排尿回数,体温,脈拍数,寒さや震えの有無,意識が正常か確認,LLSスコア聴取, 前夜よく眠れたか。 考えられるのは,脱水,急性高山病,低体温症である。 ② 症状が悪化して途中で行動不能となり,救助要請が必要になるリスクがある。 急性高山病であればこの後順応する可能性はあるが,水分を取れない状態で継続すると,脱水が悪化する。 図4 気圧の尾根 (図4は気象庁ホームページより)

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