安全で楽しい登山を目指して

147 第2章 中級演習 帰るのが大変になる。この日は,雷鳥沢での幕営にして,下山も継続も可能な場所に変更するプランも ある。 ・低体温症の回復後:体力は消耗しているので,目的地まで継続する以外に,内蔵助山荘に移動,あるい は稜線から離れるために雷鳥平に下りる,という選択肢もある。 (3) ① 3SABCDEの手順により頚椎をできるだけ動かないように支え,全身の観察を行う。致命的な怪我を見 落とさないようにする。 ② 鼻血の止血をし,左足の靴紐を緩めて左足首を固定する。雪渓付近は冷えること,また怪我をした後は動 けないので,低体温症予防のため,ザックの上に座らせて防寒着を着せてツェルトを被せて外気から隔離す る。 (大城和恵) Ⅳ 食糧と燃料に関するリスクマネジメント ビバークや危機的な待機状態にパーティーが陥った時に,食糧と燃料を合理的に節約する必要が生じる。 (1)炊事や湯沸かしにおけるガスの消費量を把握する。例えば,自分たちのガスコンロ(ガスストーブ)や鍋(コッ ヘル)を使って,地上で水1ℓ沸かすのにガスを何グラム必要とするのか測定して,目安とする。これを基準 に山でのガスの消費量も記録しておくと便利である。(標高に応じて気圧が下がると水の沸点は低下する。例 えば,富士山の山頂では約 70℃で沸騰する。詳細は各自で調べること。) (2)腐りにくい食材を選ぶ。肉等は火を通してから味噌やラードで固めるぺミカン等の前処理を適切に行う。 (3)万一のビバークなど待機の際には,米をお粥にしてかさ増しさせる等の工夫も必要。食糧の摂取や燃料の 使用は体温を維持するのに必要な最低限に使用量を減らし,横になって安静にして体力の温存に努める。水分 の摂取は必須であり,数日にわたる待機の場合には水の確保に特に注意する。 (4)非常事態で脳が正常に働くために,ブドウ糖が必要。そのための非常食(ブドウ糖タブレット,飴玉など) は個人装備としても常に携行する。 (北村憲彦) Ⅴ 気象判断(秋版) (1)一ノ越,大汝山休憩所,剱御前小舎 登山道は尾根上を行くルートであり,考えられる気象リスクは低体温症,強風(突風)による転滑落,落雷の リスクになるが,これらに共通する引き返しポイントは,①森林限界 ②支尾根に出る所 ③主稜線に出る所 ④エスケープルートとの分岐点 ⑤避難小屋や営業小屋 ⑥岩場,岩稜が始まる所 の6つである。これらを見 ていくと,既に室堂から森林限界を越えているので,①は該当する場所がない。②も今回,該当する場所がない。 ③は一ノ越から立山を経て真砂岳から別山に至る主稜線ということになる。そこで主稜線に出る一ノ越が該当す る。④は真砂岳,剱御前小舎が該当する。⑤は大汝休憩所と剱御前小舎。⑥は雄山付近の登山道の黒部側に崖マー クがある。 このうち,④真砂岳からのエスケープルートであるが,この手前の富士ノ折立~真砂岳間の鞍部が強風帯になっ ているため,引き返しポイントは富士ノ折立を巻く所より手前で判断しないと致命的な結果になりかねない。一 方,剱御前小舎まで辿り着くことができれば,雷鳥沢へのエスケープルートがあり,すぐに稜線から沢状の弱風 帯に下りれることと,剱御前小舎は営業小屋であるが最悪の場合は,避難できることから引き返しポイントとし て使える。⑤雄山と大汝山の鞍部から大汝山休憩所の間はピークの西側を巻くように登山道がつけられているこ とや,大きな岩があることから,吹き曝しの稜線が続く訳ではないことが予想されるので,ここで悪天をやり過 ごすか,そこまでの荒天でなければ,引き返すという判断ができる。⑥は雄山付近ということになるが,崖マー クは黒部側のみに表示されており,距離も短いことから,引き返しポイントとしてはそれほど重要ではない。 以上から一ノ越,大汝山休憩所,剱御前小舎となる。 (2)低体温症

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