安全で楽しい登山を目指して

148 第4編 リスクマネジメントに関する総合演習 (3)図6から,午前9時には低気圧が佐渡沖と東北地方沿岸に抜けている。また,低気圧通過後も等圧線の間 隔は立山付近で広い。このため,風が弱く,日本海からの湿った空気が入りにくいため,天気が回復したと思 われる。一方,図7では低気圧が東北北部沿岸に北上し,立山付近で等圧線が込み合っている。つまり,図6 から7の間に天候が急変し,吹雪になることが想定される。さらに,画像1で富山湾方向に暗い雲が見られる ことから,天候が悪化するまでそれほど時間がないことが分かる。数時間後の昼頃には天候が悪化することが 分かっているので,これ以上の前進は諦め,室堂に下山するか,雷鳥沢に移動して幕営するのが良い。 ここで重要なのは,低気圧が抜けた後,等圧線が込んでいるエリアに入ると北西風が強まって立山など日本海 側の山岳で大荒れの天気になる,ということを知っているかどうかである。過去に同じような気圧配置で何度も 気象遭難が発生しており,こうした天気図のときは,山麓や平地の天気予報が当てにならないことが多い。した がって,天気図から天候の悪化を予想することが大切である。 また,図6では中国地方の辺りで等圧線が込み合っていることから,低気圧が東に進むにつれて,この込み合っ ている部分も東に進むことが予想される。したがって,立山連峰でもこの後,天候が崩れることが分かる。この とき,天気は徐々に崩れるのではなく,急速に悪化することが多く,天候悪化のタイミングは等圧線の広いエリ アから狭いエリアに入るときである。気象庁の予想図だと24時間ごとの天気図しか見られないので,民間の気 象会社の予想天気図などで3時間ごとの予想天気図を確認することをおすすめする。 さらに,この天気図だけからでは,立山連峰で雨になるか雪になるのかは分からないので,併せて 700hPa 面 (高度約 3,000m 付近)の予想気温を確認することをおすすめするが,5 月や 9 月下旬以降にこのような気圧配置 になるときは,中部山岳北部の 3,000m 級の山岳や東北地方の 2,000m 級の山岳では雪になることが多いので,雨 ではなく雪になることを想定する。吹雪になれば,視界が悪くなり,道迷いのリスクも増す。今回の場合は一旦, 等圧線の間隔が広いエリアに入ったため,天気が回復したが,低気圧が通過した後,等圧線が込み合ったままだと, 天気が回復することなく,大荒れの天気になっていく。 積雪を伴うような降雪になるときは,翌日天候が回復しても,凍結する恐れがあるので,アイゼンを持参して いない場合,滑落のリスクが高くなる。そうしたことも考えて判断をしなければならない。 (猪熊隆之)

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