安全で楽しい登山を目指して

146 第4編 リスクマネジメントに関する総合演習 Ⅱ ナヴィゲーション技術 (1)富士ノ折立から別山までは,大きな尾根をたどる。高山帯の尾根歩きで注意しなければならない点は,主 尾根を外して,枝尾根に入り込んでしまうことである。そのようなミスを防ぐためには,尾根の分岐点を確実 に把握すること,入った尾根の方向と登り下りを確認することである。 富士の折立から,ルートは北北西向きの急で100m以上の下りとなる。少し登り返して真砂岳に取り付く。 そこから西に,雷鳥沢に向けて下る尾根にも道が付いているので,間違えてこちらに下ってしまわないように, 方向が西にならないこと,確実に山頂に到達することを確認する。真砂岳山頂では登山道が交錯しているが, 北西向き尾根であることを確認し,別山方面に向かう。 (2)剱御前小舎から剱沢小屋まで 天気がよければ剱岳および剱沢の様子は把握できるので問題ないが,霧などで視界がない時にはルート維持に 気を遣う必要がある。剱御前小舎では道が7方向に伸びているので,ルート維持は重要である。地形との関係と 方向の二つの情報を照合すれば確実である。剱沢小屋に降りる道の方向「ほぼ東/やや北」であること,周囲の 地形として広い谷の中に入っていくことと同時に,右あがり左下がりの傾斜であることを確認する。 道は途中から北向きになり,谷の中を野営場/剱沢小屋まで下っていく。霧の中であっても,これらを見落と して通過することは考えにくいが,剱御前小舎からの距離感(例えばだいたいの時間)を意識するとともに,急 峻な谷の中に入ってしまったり,右下がりの片斜面に入ってしまったら,行きすぎを疑う。 (村越 真) Ⅲ 医療 (1)「食べる」「隔離」「保温」を行う。 稜線歩き開始前の準備:飲水(塩分を含むもの)。炭水化物を食べる。汗で濡れた衣類を着替える。 行動中:カッパを着て隔離と保温に努める。濡れないようにカッパを着るタイミングを早めに判断し,カッ パのフードや襟,袖口をきちんと締める。小まめに炭水化物を食べる(ポケットに入れておく)。一定時 間ごとに,二人一組でお互いの状態を確認しあう,あるいは,指導者(顧問等)が全員の健康状態を確認 する。 (2) ① 脱水,しゃりバテ,急性高山病,低体温症 ② 脱水を疑う場合:当日の食事状況,飲水量,排尿量と回数 しゃりバテ:当日の食事の摂取量・内容・最終摂食の状況 急性高山病:症状(頭痛,めまい,吐き気,疲労感)があるか(LLSでスコアリングすると良い),症状 はいつ始まったか。血中酸素飽和度が高くても急性高山病になるので症状を優先して確認する。 低体温症:症状(震えがあるか,意識が正常か),当日の食事状況,レイヤリングの内容,衣類が濡れて いないかどうか確認する。 ③ ②で挙げた中で,最も該当すると思われるものに優先順位をおくが,3,000mの稜線では全てが悪影響を起 こすと考え,全てに対応する。 一度行動を中止し,立て直す。 ツェルトをかぶり,防寒着を着せ炭水化物を飲食させる。湯たんぽで体幹を温める。努力呼吸をさせる。 他のメンバーも行動を停止しているので,体温が下がるため,同じ対応をする(元気な他のメンバーは湯た んぽはしなくても良い)。呼吸を意識してさせる。 回復すれば目的地まで歩く。 回復しない場合:歩けないならばその場で救助要請する。 症状が残る場合 ・急性高山病の症状が強い(LLS 4点以上)→ 標高を下げる。室堂に近ければ完全下山が可能なため,改 善しない場合や悪化時の対応が取りやすい。雷鳥平あるいは室堂に移動。 ・急性高山病の症状は軽い(LLS 3点以下)→標高を下げる。あるいは,順応すれば翌日には改善する可 能性もある。この日の幕営予定地は標高が下がるので目的地まで行くことも可能だが,翌日悪化すると

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