安全で楽しい登山を目指して

14 第1編 山岳部の指導者になろう 登山は,球技等の体育館や運動場などの特定の施設 で行なうスポーツと異なり,自然の中で長時間(期間) 行なうものであるため,山岳の地形や経路,危険な生 物,急激な気象条件の変化などに伴う危機的状況の発 生など多様な危険(リスク)を含む活動である。 また,高校生は,必ずしも全員が登山の経験が十分 で知識や技術にも習熟しているとは言えず,長時間(期 間)の山行に必要な体力や危機に際しての判断力など を備えているとは言いがたい。 そのため,山岳部の指導者(顧問等)に求められる 資質や能力も幅が広く,単に登山経験があり,顧問歴 が長いというようなことではなく,高等学校山岳部活 動の教育的意義を踏まえたマネジメント能力,危機管 理能力及び登山引率の実践的な能力が求められている と言える。 しかしながら,これら全ての資質や能力を指導者と なった当初から備えている者は,多くないことが予想 されるため,研修会への参加や身近な優れた指導者や 専門家の指導等を受けながら,リスクの少ない登山か ら経験を積み重ね,着実に必要な資質や能力を身に付 けていくことが望まれる。 以下に,必要な資質や能力について述べる。 (1)教育的意義の理解,目標設定と計画作成,実施 の能力(マネジメント能力) 高校生の登山等の活動には,生徒に,自然や環境へ の理解や畏敬の念の醸成,自立心や協調性の涵養,リー ダーシップの発揮や良きフォーロワーシップの育成を 促すなどの教育的な意義がある。そのため,各学校で は学校教育活動の一環として,運動部活動(山岳部や ワンダーフォーゲル部等)や学校行事,各都道府県高 等学校体育連盟等による登山・講習会等が行われてい る。 登山(研修会や講習会の場合も含む)を実施する場 合には,目標を設定し,生徒とも共有しながら,指導 者及び主催者の役割の明確化と関係者との連携を図 り,入念な準備や下見を行なった上で,安全確保を前 提条件として,PDCA サイクルを生かして,計画作成, 実施,反省・評価及び報告・改善に当たる必要がある。 その際,それぞれの役割に応じて,事前はもちろん実 施中にも打合せや相互の連絡・情報交換を行い,緊密 なコミュニケーションをとりながら,緊急時に迅速な 登山は,山岳の地形や経路,危険な生物,急激な気象条件の変化などに伴う危機的状況の発生など多様な 危険(リスク)を含む活動である。高校生は,登山の経験や知識・技術が未熟であることを踏まえて,山岳 部の指導者(顧問等)は,教育的意義を踏まえたマネジメント能力,危機管理能力及び登山引率の実践的な 能力を身に付けることが求められている。 対応をするなど関係者間で密接な連携を図ることがで きるようにする必要がある。 図1 高等学校登山(山岳部活動)のPDCAサイクル(戸田作図2018.6) 情報収集・準備・下見・専門家等の助言等 校内(部内)チェック 登山計画審査会 Plan 保護者・生徒への説明 目標設定・計画の作成 登山計画書(届)提出 ・指導者間等での共有 Action Do 改善策の具体化 組織的に実践 緊急対応・連絡 Check 記録。関係機関等 反省・評価 への報告 図1 高等学校登山(山岳部活動)のPDCAサイクル (戸田作図2018.6) (2)生徒等の安全を確保するための能力(危機管理 能力) 山岳部活動など,全ての教育活動の実施においては, 生徒等の安全確保が前提条件であり,常に指導者には 危機管理能力を向上させることが求められる。 ア 学校における危機管理に関する基本的な考え方 危機管理は,概して言うと,事前(平時・日常)の 危機管理(リスクマネジメント)及び事後(発生直前・ 発生時及びその後)の危機管理(クライシスマネジメ ント)の2つの側面がある。前者は,平時から早期に 事件・事故が起こる予兆(異状・異常)や危険を予測・ 発見し,その危険等を確実に除去することに重点が置 かれ,後者は,万が一事件・事故が発生した(しそう になった)場合に,適切かつ迅速に対処・避難し,被 害を最小限に抑えること,さらには,類似の再発の防 止と通常の生活や教育活動の再開に向けた対策を講じ ることを中心とした危機管理である。 学校における危機管理は,山岳部活動も含めた教育 活動全般において,教員や指導者の共通理解はもちろ ん生徒の主体的な活動なども含めて安全教育と一体的 かつ組織的に進める必要がある。 4 高等学校山岳部の指導者に必要な資質や能力

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