安全で楽しい登山を目指して

113 第10章 積雪と雪崩 測することが重要である。 また,現場での風紋,吹きだまり,雪庇等の観察から, その地域の局所的な卓越風向を知ることが出来,同じ ような標高帯の局所的な風向,吹きだまりの形成を推 測することができる。 ●気温 積雪変態や雪崩にとって,気温がプラスかマイナス かは重要だ。平野の気温から,気温減率により山岳高 所の気温を予測することは,降水が雪なのか雨なのか, 積雪が湿雪なのか乾雪なのか等を推測する手がかりに なる。 0℃以上の気温が予想される場合,積雪表面が融解 し,その後の降雪により埋没,凍結して温度の高いク ラスト層や氷板が出来る。その上下にはこしもざらめ 雪が形成されやすい。また,気温の寒暖差が激しい場 合,表面霜やしもざらめ雪が形成されやすくなる。 ●日射 日射は,積雪の表面や表層の温度を急激に上昇させ, 大きな変化を与える。表層の雪の焼結を促進しスラブ 化を進めたり,0℃まで上昇して雪を融解させたりす る。融解した表層の雪がその後の降雪により埋没した 場合は,上記のとおり,急な温度勾配が生じてこしも ざらめ雪が形成されやすくなる。 イ 積雪要素 積雪要素では,雪崩に直結する積雪の不安定要素に つながる情報を観察することが重要である。特に,弱 層の存在,弱層の上載積雪の結合状態等の観察が重要 となる。 ●積雪観測 積雪要素の情報収集には,通常,積雪断面観測を行 い,層構造,雪質,粒径,密度,硬度,雪温等を観察 する。収集したデータは,観察時のみならずその後の 積雪構造の変化を推測する重要なデータとなる。 積雪断面観測での簡易な硬度測定の方法について図 22に示す。 また,積雪の状態は,行動中に登山靴やスキー,ス トックなどがどのくらい貫入するかで簡易的に確認す ることができる。表層の雪を手でつかんで握り雪玉を 作って結合状態や水分の有無を観察することもでき る。 ウ 不安定性要素 不安定性要素とは,積雪の不安定性に関する直接的 な情報のことである。具体的に収集するデータは,雪 崩の痕跡,雪面に出来る線状の割れ目(シューティン グクラック),弱層が破壊される時に発する音(ワッ フ音),積雪テスト(弱層テスト)の結果,などである。 雪崩の痕跡では,発生斜面の向きや破断面の有無を 観察することも重要である。 ●積雪テスト 積雪テストにはいろいろな方法があり,雪崩との関 連性の評価も異なるが,一般的にコンプレッションテ ストが行われることが多い。 コンプレッションテストは,30㎝角に切り出した 雪柱の上に載せたシャベルを手でたたくことにより, 弱層が破壊されるときの荷重と破壊の特徴を観察し て,積雪の安定性を評価する方法である。コンプレッ ションテストの方法と結果の評価について図23に示 す。 (2) 地形 地形は,地形そのものが雪崩と直接的に関わるのみ ならず,気象要素と組み合わさって積雪の不安定性に 影響を及ぼす。 雪崩ハザード評価において重要な地形要素として, 斜度,植生,形状があげられる。また,積雪への影響 として標高,斜面方位が重要である。 ● 斜度 雪崩の発生区となる斜度は 25 ~ 60 度といわれる。 カナダの 1984 ~ 2006 年の雪崩事故データからは, 約 70%が 30 ~ 40 度で起きている。45 度を超える斜 面では,降雪後すぐに自然発生雪崩が起きてしまう頻 度が高く,また60度を超える斜面では雪そのものが 溜まりにくいため,雪崩は起きにくくなる。 雪崩の堆積区から発生点を見上げた角度を見通し角 とよび,雪崩到達距離の目安となる。乾雪雪崩では 18 度,湿雪雪崩では 24 度の地点まで雪崩が到達する ことがあると言われている。 ● 植生 植生の有無は雪崩発生と関わりが深い。森林限界を 越えた高度の斜度30~40度の広い斜面は,雪崩ハザー 図22 積雪断面観測での簡易な硬度測定の方法 雪の中に拳,指,ペン,ナイフを抵抗があまりないように差し込む

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