安全で楽しい登山を目指して

112 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう とが多い。また,コブ状起伏にタテ割れ目が出来ると, 全層雪崩の危険が高くなる(図 19)。 これらの現象は,斜面上の積雪が地面との間で動い たり,積雪層内部で変形したりする運動の速度が速い ときに発生する。温暖で融雪水や雨が多量に地面まで 流れ込むような状況下で,全層雪崩が発生しやすい。 このような条件となるのは春先が多いが,北陸など の標高の低い山岳では,真冬でも気温上昇や降雨によ り全層雪崩が発生することも珍しくないので,前兆現 象についての注意が必要である。 図19 全層雪崩の前兆現象 (6) 雪崩の運動形態 雪崩をその運動形態から分けると,雪煙を舞い上げ て高速で流れ下る「煙型」と,大小の雪の塊が斜面 を比較的低速で流れる「流れ型」に分類できる(図 20)。 「煙型」は「面発生乾雪表層雪崩」に対応すること が多く,「流れ型」は「全層雪崩」や「点発生湿雪表 層雪崩」に対応することが多い。 「煙型」の速度は,80m/s に達することもある。こ れは時速 300㎞にあたり,新幹線に匹敵する。たとえ スキーでも逃げるのがたいへん困難な速度である。 「流れ型」は 10 ~ 30m/s と比較的低速だが,それ でも時速にすると36~108㎞にあたり,人間が逃げ るのは難しい速度を持つので,油断は大敵である。 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 第10章 積雪と雪崩 図20 雪崩の運動形態 5 雪崩リスクマネジメント 雪崩リスクマネジメントでは,積雪,地形,気象を 適切に評価し,適切な行動をし,雪崩事故に対する装 備やレスキューの方法を身につけることが必要とな る。 本稿では,雪崩ハザード評価に用いる情報と,情報 収集のための積雪観察について触れる。 (1) 雪崩ハザード評価 雪崩ハザード評価に用いる情報の3つの要素は不安 定性要素,積雪要素,気象要素である。 評価する対象により直接的に関連する重要性の高い 情報を順に並べると,不安定性>積雪>気象となる。 一方,これらの3つの要素の情報が有効とされる地理 的な適応範囲は,通常,気象>積雪>不安定性の順に なる(図21)。 各要素について次に解説する。 ア 気象要素 気象要素は,個人の観察やアメダスデータ等の公的 な気象観測データから収集可能である。気象要素の中 でも,積雪要素と関連する,降雪(および降雨),風(風 速,風向),日射の項目が特に重要だ。 図21 雪崩ハザード評価の3つの要素 ●降雪および降雨 降雪では,降雪量,降雪結晶の種類に特に留意する 必要がある。多量の降雪が弱層の上に載ると雪崩発生 の駆動力が増す。1時間で 2.5㎝以上の降雪量の増加 がある場合は,積雪不安定性が増すといわれている。 降雪結晶では,弱層を形成する雪粒無しの広幅六花 や角板,あられに留意する。また,雲粒有りの場合は 焼結が速く進みスラブ化しやすい。 ●風速,風向 小さな樹木がゆれる程度の 7m/s 以上の風速となる と雪の移動がはじまると言われている。それ以上の風 速になると,雪は削剥,移動,堆積を繰り返し,吹き だまりが形成される。吹きだまりは雪崩発生に関連す るので,風向,風速等の気象データからその位置を予 (『雪崩教本』より引用)

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