安全で楽しい登山を目指して

111 第10章 積雪と雪崩 表面霜のできる条件として,以下の3つがあげられ る(図15)。 ・放射冷却で表面温度が低下すること ・空気中の湿度が高いこと ・弱い風が吹いていること 大きさが1~2㎜を超えると弱層になりやすく,海 外では1㎝を超える表面霜もしばしば観測され,表層 雪崩の主要な原因となっている。日本では数㎜まで成 長することはまれである。 図15 表面霜による弱層形成の模式図 ●降雪結晶 風が弱い条件で雲粒が少ない大きな雪結晶(広幅六 花など)が積もると,空隙が多い弱い層が形成され弱 層となる(図 16)。このような雲粒の付着の少ない結 晶は,層状雲や発達していない対流雲から降ることが 多い。 これに対して激しい降雪のときの降雪結晶は,雲粒 が付着しやすく結晶が風で破砕されるため弱層にはな りにくい。 低気圧が通過するときにも弱層となる雲粒なし結晶 が積もることがあり,注意が必要である。2017年3 月27日に栃木県那須岳で発生した表層雪崩がその例 で,南岸低気圧が通過したときに低気圧の進行方向の 前面で弱層となる様なさらさらの降雪結晶が降り積も り,その後の降雪が上載積雪となって雪崩が発生した と考えられている。 図16 降雪結晶による弱層形成の模式図 ●あられ 雪結晶に雲粒がびっしりと付着して球状になったも のがあられである。 あられは,表面が凸凹で,空隙が多く粒同士の接触 点が少ないため安定化しにくく,弱層になることがあ る(図 17)。また固い粒のため急斜面では転がりやす く傾斜 35 ~ 45 度の斜面に溜まって弱層を形成するこ とがある。 図17 あられによる弱層形成の模式図 ●濡れざらめ雪 濡れざらめ雪の弱層が形成されるのは,積雪表面が 日射や気温上昇で急激に融解して,雪粒同士のつなが りの少なくもろい粒状の濡れたざらめ雪となり,その 直後に多量の雪が積もったときである(図 18)。新雪 は断熱性が高いため,積雪内には濡れざらめ雪がしば らく保存される。 図18 濡れざらめ雪による弱層発生の模式図 ●弱層がない表層雪崩 豪雪のときには,特に弱層がなくても表層雪崩が発 生することがある。一般的には,上載積雪が増加する と下の層は圧密により強くなって積雪は安定化する。 しかし一気に雪が積もると,下層の雪が強くなる速度 以上に上載積雪が増加して破壊が起きることがある。 例えば,35度の傾斜の場合,毎時8㎝の降雪強度 が3時間続くと雪崩が発生するという計算結果があ る。 また,45度の場合は,毎時6㎝の降雪強度でも3 時間で雪崩が発生するという結果になった。 (5) 全層雪崩 全層雪崩は,発生区において地面から上の積雪全て が崩落して流れ下る雪崩である。発生の前兆として, 積雪上にクラックや雪しわ,こぶ状隆起が出現するこ

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