安全で楽しい登山を目指して

110 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう (4) 弱層の種類 弱層となる雪層の特徴は,雪粒子がまばらで密度が 小さいことである。 これまでの研究から,弱層を形成する典型的な雪と して,しもざらめ雪・こしもざらめ雪,表面霜,降雪 結晶,あられ,濡れざらめ雪の5種類が知られている。 このうち,霜の結晶形をしているしもざらめ雪・こし もざらめ雪,表面霜を霜系,降雪時の結晶形に由来す る降雪結晶,あられを降雪系,濡れざらめ雪を湿雪系 と呼ぶ。 図 13 に弱層の種類と特徴について示す。 実際に表層雪崩発生に関係した弱層の種類はどの ようなものが多いのだろうか。1996 ~ 2016 年に日本 全国の山岳域で発生した雪崩の観測結果をまとめる と,こしもざらめ雪・しもざらめ雪(霜系)の弱層が 60%を占めて最も多く,降雪結晶(降雪系)の弱層が 40%であった。 一方,スイスやカナダの表層雪崩の観測事例では, 霜系(こしもざらめ雪・しもざらめ雪,表面霜)が 82%を占め,その中でも表面霜の弱層が多く,降雪系 (降雪結晶)の弱層は 10%と少ない。 地域による積雪特性の違いから弱層の種類も異なる ことに注意が必要である。 (5) 弱層の形成メカニズム どのような条件でどの種類の弱層が形成されるかを 知ることは,雪崩の発生予測にとってたいへん重要な ことである。ここでは,各弱層の形成メカニズムにつ いて知ろう。 ●しもざらめ雪・こしもざらめ雪 積雪層内の上下で大きな温度差があるとしもざらめ 雪が発達する。 しもざらめ雪は通常,寒冷で積雪が比較的少ない地 域で,冷たい積雪表層と暖かい地表面との間で大きな 温度差が長く続くことで発達する。しかし,日本の中 部山岳地域の様な積雪が厚い地域でも,積雪表層付近 でしもざらめ雪(こしもざらめ雪)が形成され雪崩の 原因となることがわかってきた。ではどのようなメカ ニズムで厚い積雪の表層付近にしもざらめ雪(こしも ざらめ雪)が形成されるのだろうか。 雪面直下に1℃/㎝を超える大きな温度勾配が生じ ると,一晩で表層付近にしもざらめ雪が形成される。 表層にしもざらめ雪が成長しやすい条件は以下のとお りである(図 14)。 ・古い雪の上に数㎝の新雪が積もる。 ・その後晴れると日射は雪面直下の新雪内に吸収され そこの温度が上昇する。 ・その後の晴れた夜間に,雪面の温度は放射冷却によ り急速に低下して,雪面と上層の新雪の間に大きな温 度勾配ができる。 ・この様な状態が続くと,積雪上層の新雪が霜の結晶 に置き換わり,霜系(しもざらめ雪,こしもざらめ雪) の弱層が形成される。 ・弱層が形成された後,この上に大量の積雪が積もる と(上載積雪),表層雪崩が発生しやすくなる。 図14 しもざらめ雪による弱層形成の模式図 ●表面霜 よく晴れた朝に新雪が降らなかったのに雪面がきら きらと輝いていることがある。これが表面霜である。 表面霜も放射冷却で雪面温度が下がったときに積雪 表面に形成される。シダ状やコップを切り取った様な 形状を示し,雪面から柱が立つように成長する。しも ざらめ雪と異なるのは,空気中の水蒸気が冷えた積雪 表面に凝結して成長することである。 図13 弱層の種類と特徴

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