安全で楽しい登山を目指して

109 第10章 積雪と雪崩 (1) 雪崩の分類 日本では,発生区の3つの要素より雪崩を8種類に 分類している(図10)。発生の形により,①点発生雪 崩と②面発生雪崩に,滑り面の位置によって①表層雪 崩と②全層雪崩に,雪崩層の積雪状態(始動積雪の含 水の有無)によって①乾雪雪崩と②湿雪雪崩に分けら れる。 これらを組み合わせて,例えば点発生湿雪表層雪崩, 面発生乾雪表層雪崩などと表現する。 以上の分類のうち,表層雪崩は前兆現象がほとんど なく発生することから,予測が困難である。特に,面 発生乾雪表層雪崩は大規模になりやすく,スキーヤー・ スノーボーダー,登山者が巻き込まれる事故が多く発 生していて,最も警戒しなくてはならない雪崩である。 図10 雪崩の分類要素と区分 (2) 点発生表層雪崩 1点から発生し,くさび状に広がりながら落下する 雪崩である(図11)。この雪崩は,ほとんど結合力を 持たない雪が積もっている場合に発生しやすい。新雪 が斜面に大量に堆積した場合や日射,降雨により表面 付近の雪が融かされ結合力が減少して流動性を増した ときなどにみられる。 面発生雪崩と比べ,雪崩層の厚さと幅は小さく,落 下速度も遅いため,大事故になることは少ないともい われている。 図11 点発生表層雪崩の模式図 (3) 面発生表層雪崩 結合力を持つ積雪が,積雪内部のある層を境に広い 面積にわたって一斉に滑り出す雪崩である(図12)。 発生区には通常写真に示すような明瞭な破断面が出来 る(写真1)。 面発生雪崩は何の前兆もなく突然発生し,大規模に なりやすく,速度が速く,破壊力が大きいため,最も 警戒しなければならない雪崩であり,大きなものは数 ㎞も流れ下ることもある。 剪断の力に弱い層が結合力の強い積雪内にサンド イッチ構造で含まれている場合,面発生表層雪崩の要 因となることが多い。この様な層を弱層と呼ぶ。弱層 は同一斜面で広く形成されることが多いので,ある箇 所で起きた破壊が引き金となって弱層内を破壊が伝搬 し,弱層から上の比較的結合力の強い積雪層を一斉に 崩壊させる。 では,どのような傾斜の斜面で面発生表層雪崩が起 きているのだろうか。米国,スイス,カナダ,日本で 起きた比較的大きな面発生雪崩についての解析から, 面発生乾雪表層雪崩のほとんどは,傾斜 30 ~ 45 度の 斜面で発生していて,その頻度のピークは40度付近 にあることがわかった。25 度以下の緩斜面や 55 度以 上の急斜面での発生はきわめてまれである。急斜面で 面発生雪崩が起きにくい理由は,降雪がすぐに崩れ落 ちてしまい雪崩が起きるほど雪が積もらないためであ る。 図12 面発生表層雪崩の模式図 写真1 面発生表層雪崩と破断面(剱岳池ノ谷)

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