安全で楽しい登山を目指して

11 第2章 山岳部の指導者に知ってもらいたいこと 全性が重視されるので,リスクを冒してはならない。 スポーツ庁の通知では,高校で冬山登山が原則とし て禁止され,例外的に熟練した指導者のもとで基礎的 な内容であることなどを条件に冬山登山が認められて いる。スキー場のゲレンデやその周辺の雪崩の危険性 が問題にならない場所であれば雪山講習が可能である が,上記の那須の事故時に登った場所は,安全面から いえば不適切な場所だった(「平成 29 年 3 月 27 日那 須雪崩事故検証委員会報告書」,平成 29 年 3 月 27 日 那須雪崩事故検証委員会,2017 参照)。 ▶指導のポイント 部活動では,通常の登山と違ってリスクを冒すこ とができない。 スポーツ庁の通知では,高校生に冬山の基礎的な内 容を指導する指導者は冬山などの豊富な知識と経験を 有していることが必要だとされている。生徒に冬山の 基礎的な内容を指導する指導者は冬山登山に熟練して いる必要がある。山岳部の指導者は冬山登山の技術や ロープワークを含めて,登山の技術,知識,経験,判 断力を身に付ける必要がある。 しかし,山岳部の指導者の誰もが登山の熟練者とは 限らない。誰でも最初は未熟者であり,登山の技術, 知識,経験,判断力を身に付けるには時間がかかる。 指導者の技術や経験が未熟な場合には山岳部の顧問が できないのかといえば,そうではない。指導者の登山 の技術,経験が不十分な場合には,指導者は自分が安 全管理できる範囲を自覚し,安全管理できる範囲の部 活動にとどめることが必要である。 指導者の登山の技術,経験が不十分な場合に指導者 がその点を自覚しなければ,安全管理できる範囲を超 える部活動を実施し,部活動の安全管理を生徒任せに しがちである。それが事故に結びつきやすい。 ▶指導のポイント 指導者は自分が安全管理できる範囲を自覚し,そ の範囲で部活動を実施する必要がある。 自然がもたらす危険性は不確実で予測が難しいの で,自分がどこまで安全管理ができるかがわかりにく い。たとえば,やさしい沢歩きや縦走登山は体力さえ あれば誰でも可能だと思いがちだが,それぞれ特有の 危険性があり,経験を積まなければわからないことが 多い。 一般に,学校の部活動では教育的観点から生徒の主 体的な判断が尊重される。そのため,指導者の技術, 経験が不十分な場合に,生徒の自主的な判断に基づく 登山を実施しがちである。2017 年(平成 29 年)の那 須の事故や後で述べる芦別岳の事故では,引率教師が 意欲的な生徒の意見に引っ張られて,リスクのある行 動を容認した結果,事故が起きた。部活動では生徒の 主体性を尊重すべきであるが,安全管理に関する限り, 生徒の主体性ではなく,指導者による安全管理を優先 させなければならない。指導者に事故を回避すべき法 的な注意義務があり,その責任を負う者が安全管理に 関する決定権を持つ必要がある。 ▶指導のポイント 部活動の安全管理を生徒任せにしてはならない。 部活動の顧問の教師が山岳部の活動の安全管理が十 分にできない場合には,外部の熟練した指導者に委託 する方法を検討する必要がある。最近は,外部の指導 者に部活動の指導を委託する学校が増えている。この 場合でも,委託を受けた外部の指導者は,学校と教師 が負担する安全管理義務を遂行する補助者の立場にあ り,学校と教師が部活動の安全管理義務を負う点は変 わらない。 生徒が学校とまったく無関係な学校外のクラブなど で活動すれば,学校による安全管理は問題にならない。 この場合の生徒の安全管理は,保護者と外部のクラブ に委ねられる。この場合には事故が起きても学校が加 入する諸制度や保険等の適用はない。教師による安全 管理と部活動の関係を図示すると次のようになる。 が重視されるので、リスクを冒してはならない。 スポーツ庁の通知では、高校で冬山登山が原則として 禁止され、例外的に熟練した指導者のもとで基礎的な内 容であることなどを条件に冬山登山が認められている。 スキー場のゲレンデやその周辺の雪崩の危険性が問題に ならない場所であれば雪山講習が可能であるが、上記の 那須の事故時に登った場所は,安全面からいえば不適切 な場所だった(「平成29年3月27日那須雪崩事故検証委 員会報告書」、平成29年3月27日那須雪崩事故検証委員 会、2017参照)。 指導のポイント 部活動では、通常の登山と違ってリスクを冒すこと ができない。 スポーツ庁の通知では、高校生に冬山の基礎的な内容 を指導する指導者は冬山などの豊富な知識と経験を有し ていることが必要だとされている。生徒に冬山の基礎的 な内容を指導する指導者は冬山登山に熟練している必要 がある。山岳部の指導者は冬山登山の技術やロープワー クを含めて、登山の技術、知識、経験、判断力を身につ ける必要がある。 しかし、山岳部の指導者の誰もが登山の熟練者とは限 らない。誰でも最初は未熟者であり、登山の技術、知識、 経験、判断力を身につけるには時間がかかる。指導者の 技術や経験が未熟な場合には山岳部の顧問ができないの かといえば、そうではない。指導者の登山の技術、経験 が不十分な場合には、指導者は自分が安全管理できる範 囲を自覚し、安全管理できる範囲の部活動にとどめるこ とが必要である。 指導者の登山の技術、経験が不十分な場合に指導者が その点を自覚しなければ、安全管理できる範囲を超える 部活動を実施し、部活動の安全管理を生徒まかせにしが ちである。それが事故に結びつきやすい。 指導のポイント 指導者は自分が安全管理できる範囲を自覚し、その 範囲で部活動を実施する必要がある。 自然がもたらす危険性は不確実で予測が難しいので、 自分がどこまで安全管理ができるかがわかりにくい。た とえば、やさしい沢歩きや縦走登山は体力さえあれば誰 一般に、学校の部活動では教育的観点から生徒の主体 的な判断が尊重される。そのため、指導者の技術、経験 が不十分な場合に、生徒の自主的な判断に基づく登山を 実施しがちである。2017年(平成29年)の那須の 事故や後で述べる芦別岳の事故では、引率教師が意欲的 な生徒の意見に引っ張られて、リスクのある行動を容認 した結果、事故が起きた。部活動では生徒の主体性を尊 重すべきであるが、安全管理に関する限り、生徒の主体 性ではなく、指導者による安全管理を優先させなければ ならない。指導者に事故を回避すべき法的な注意義務が あり、その責任を負う者が安全管理に関する決定権を持 つ必要がある。 指導のポイント 部活動の安全管理を生徒まかせにしてはならない。 部活動の顧問の教師などが山岳部の活動の安全管理 が十分にできない場合には、外部の熟練した指導者に委 託する方法を検討する必要がある。最近は、外部の指導 者にクラブ活動の指導を委託する学校が増えている。こ の場合でも、委託を受けた外部の指導者は、学校と教師 が負担する安全管理義務の補助者の立場にあり、学校と 教師が部活動の安全管理義務を負う点は変わらない。 生徒が学校とまったく無関係な学校外のクラブなど で活動すれば、学校による安全管理は問題にならない。 この場合の生徒の安全管理は、保護者と外部のクラブに 委ねられる。この場合には事故が起きても学校が加入す る諸制度や保険等の適用はない。教師による安全管理と 部活動の関係を図示すると次のようになる。 指導者の安全管理可能な範囲 生徒の活動 学校の 管理外 の活動 部活動 部活動の指導者が生徒の安全を守る注意義務を負う 場合でも、高校生はある程度は自分の行動を自分でコ ントロールできるので、生徒が自分で安全管理をすべ 部活動の指導者が生徒の安全を守る注意義務を負う 場合でも,高校生はある程度は自分の行動を自分でコ ントロールできるので,生徒が自分で安全管理をすべ き部分がある。例えば,登山道を転倒しないように歩 くことは生徒自身が管理すべきことである。この点は, 小学校の児童と対比すればわかりやすい。小学校の低 学年の児童の遠足では,児童は自分の安全を管理する 能力が不十分なので,教師は,児童が転倒しやすいこ とを前提に安全なコースを選定する必要がある。しか し,高校生の場合にはそこまでの配慮は必要ない。

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