安全で楽しい登山を目指して

108 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう (3) 積雪(雪質)の分類 図7に,日本の積雪(雪質)分類を示す。雪粒の大 きさや形と変態過程の違いにより分類している。 ●新雪 積もってから数日程度の雪で,降雪時の雪の結晶形 を残している。 ●こしまり雪 新雪としまり雪の中間で,降雪結晶の形はほとんど 残っていないが,しまり雪にはなってはいないものを いう。小さな粒が網目状に繋がった状態。 ●しまり雪 雪粒はやや丸みを帯びる。粒が網目状によく結合し ていて丈夫。 ●ざらめ雪 水を含んで粗大化した丸い雪粒や水を含んだ雪粒同 士が再凍結して大きな雪粒になったもの。 ●こしもざらめ雪 積雪内部で雪粒に霜の結晶が成長しはじめたもの。 平らな面を持った結晶からなる。 ●しもざらめ雪 霜の結晶がさらに発達し,もとの雪質と置き換わっ たもの。コップ状や板状の結晶形をしている。 ●氷板 融解水や雨水が止水面に停滞し氷化した板状の氷。 雪質(ゆきしつ) 記号 説 明 新雪 + 降雪の結晶形が残っているもの。みぞれやあられを含む。結晶形が明 瞭ならその形(樹枝等)や雲粒の有無の付記が望ましい。大粒のあら れも保存され指標となるので付記が望ましい こしまり雪 / 新雪としまり雪の中間。降雪結晶の形は殆ど残っていないが,しまり 雪になっていないもの しまり雪 ● こしまり雪がさらに圧密と焼結によってできた丸みのある氷の粒。粒 は互いに網目状につながり丈夫 ざらめ雪 ○ 氷を含んで粗大化した丸い氷の粒や,水を含んだ雪が再凍結した大き な丸い粒が連なったもの こしもざらめ雪 ☐ 小さな温度勾配の作用でできた平らな面をもった粒,板状,柱状があ る。もとの雪質により大きさは様々 しもざらめ雪 ∧ 骸晶(コップ)状の粒からなる。大きな温度勾配の作用により,もと の雪粒が霜に置き換わったもの。著しく硬いものもある 氷板 - 板状の氷。地表面や層の間にできる。厚さは様々 表面霜 ∨ 空気中の水蒸気が表面に凝結してできた霜。大きなものは羊歯状のも のが多い。放射冷却で表面が冷えた夜間に発達する クラスト ∀ 表面近傍にできる薄い硬い層。サンクラスト,レインクラスト,ウイ ンドクラストなどがある (1998,日本氷雪学会) 注1)ひらがなの付いた名称(○○雪)は雪を省略してもよい。例:ざらめ,こしもざらめ 注2)1つの雪の層が一種類の雪質からできているとは限らない。2種類の雪質が,ときには3種類の 雪質が混在していることもある。 図7 積雪(雪質)の分類 (4) 雪質の変化 雪質が変化する過程には3種類がある(図8)。等 温に近い状態で圧密と焼結が進行する等温変態,融解 と再凍結を繰り返して進行する融解変態,温度差の大 きな積雪中で進行する温度勾配変態である。 新雪からしまり雪に変化し,さらに融解を経てざら め雪に変化する場合が多いが,その過程の途上で温度 勾配が強いときがあると,しもざらめ雪やこしもざら め雪に変化する。しもざらめ雪は,新雪からも,しま り雪からも,ざらめ雪からも変化することがある。 図8 積雪(雪質)の変化 (5) 積雪層の形成 図9に積雪層が形成されていく様子を模式的に示 す。 積雪は多くの層からできている。1回のまとまった 降雪で1つの層ができる。日本海側の山岳では,冬型 の気圧配置の際に積雪が急激に増加する。冬型の気圧 配置は冬期間に頻繁に出現し,1回毎に数10㎝程度 の積雪深の増加が見られる。 降雪中断期に積雪は沈降して積雪深が減る。この時 期に表面近くで弱層が形成されることがある。次の降 雪で積雪層や弱層が雪中に埋まる。弱層が弱い間に上 載積雪が積もると,雪崩発生の危険が高くなる。 融雪期になると融雪水が浸透し湿雪となる。弱層は 時間がたつと圧密と焼結で丈夫になり解消していく。 やがて全層ざらめ雪となり積雪が消失する。 図9 積雪層の形成の模式図 4 雪崩 登山における雪のリスクで一番に取り上げられるの が雪崩であろう。ここでは雪崩から身を守るためにま ず雪崩について知ることからはじめよう。

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