安全で楽しい登山を目指して

107 第10章 積雪と雪崩 3 積雪とその変化 降雪が地表に達すると積雪が形成される。積雪は, 積もったときの状況で粒の形や密度が異なっていて, さらに堆積した後も温度,雪の重さ,水の浸透などで 絶えず変化している。 (1) 積雪を安定化する変化 積雪は融けなくても時間を経ると変化していく。 積雪内に温度差がない場合,樹枝状等の降雪結晶は 昇華蒸発により枝の部分がなくなり,丸みを帯びた雪 粒へと変化する。それと同時に,雪粒同士の接触部分 が焼結現象によって結合し,次第に太く丈夫になる(等 温変態)(図4)。 さらに上に雪が降り積もると,その重みにより下の 積雪は圧密される。圧密が進むと雪粒間の接触点が増 えるので,焼結はさらに進行して丈夫な積雪が形成さ れる。 圧密,焼結が進むと積雪は安定化する。積雪の温度 が0℃に近いほど圧密,焼結が速く進み,積雪はより 速く安定化する。 図4 積雪を安定化する変化 (2) 積雪を不安定化する変化 積雪の表面の温度は放射冷却により-20℃以下に 低下することがある。一方,地表面の温度は0℃に保 たれる場合が多い。このよう な積雪内の温度差を温度勾配 (℃/㎝)という。 積雪内の温度勾配が大きく なると,暖かい層の雪粒から 昇華蒸発した水蒸気が冷たい 層へ移動して,冷たい層の雪 粒に霜が成長する。この過程 を「しもざらめ化」という。 霜系の結晶は角張っていて面 的に発達するため,雪粒同士 の接触点が少なくて焼結が進 まず,積雪を不安定化する要 因となる(図5)。 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 第10章 積雪と雪崩 図5 積雪を不安定化する変化 温暖になり積雪の温度が0℃まで上がると,融解が 進んで積雪内に融解水が浸透する。しかし夜間にまた 冷えると,積雪中の水は再び凍結する。このように融 解と再凍結を繰り返すと,やがて丸みを帯びた大きな 雪粒が形成され,これを「ざらめ雪」と呼ぶ。 融解水が浸透して濡れたざらめ雪(濡れざらめ雪) は,粒がばらばらになり弱くなる。一方,夜間に冷や されて積雪中の融解水が再び凍結すると,たいへん固 いざらめ雪(かわきざらめ雪)に変化する。 濡れざらめ雪は積雪を不安定化させるが,かわきざ らめ雪は積雪を安定化させる(図6)。 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 第10章 積雪と雪崩 図6 融解と再凍結による変化 低気圧の北側 では北東風 低気圧の西側 では北西風 低気圧の南側 では南西風 雪域または 雨域 雲域 低 高 高 高 サラサラした雪が降りやすい 温暖前線や低気圧北側から東 側に広がる温暖前線面の降雪域 から,雲粒の付着が少ない針, さや,角柱,交差角板,鼓など の結晶から構成される,まるで グラニュー糖のようにサラサラ した降雪が確認されている。 弱層となる雲粒なし板状結晶が 降ることがある 温暖前線や低気圧北側から東 側に広がる温暖前線面の降雪域 では,表層雪崩の弱層となる雲 粒の付着が少ない板状結晶が降 ることがある。 図3 南岸低気圧型の天気図 (『雪崩教本』より引用) (猪熊隆之『山岳気象大全』*2より引用・改変) ■圧 密 ■焼 結 ■融解と再凍結 ■蒸発と凝結

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