安全で楽しい登山を目指して

106 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 登山における雪のリスク,特に雪崩事故のリスクを低減するためには,雪についての科学的知識を身につ けることがまず重要である。降雪・積雪の性質や変化について理解し,雪崩とはどのような現象か,発生条 件は何か,発生を予測する手段は,等について十分に知ることができれば,雪崩事故は減らすことが出来る。 1 登山と雪 雪は,登りにくい地形を覆い登山ルートを提供して くれる反面,登山に困難や危険をもたらしている。吹 雪による低体温症,深雪のラッセル,堅雪での滑落, 雪崩,雪庇の崩落,クレバスやシュルンドへの転落, スノーブリッジの崩落等,そのリスクは多岐におよぶ。 そこで本稿では,登山における雪のリスクを低減し雪 を上手に利用して困難や危険の少ない登山を実施する ために,降雪や積雪,雪崩についての基本的性質を身 に付けることを目的とする。 2 降雪と気象 (1) 雪をもたらす気圧配置型 日本の降雪は,主に二つの型に分類される。一つは 「季節風型」による降雪であり,他の一つは「低気圧型」 (図1)による降雪である。これらの降雪により1日 間で積雪深が数10㎝以上増すような場合は,雪崩発 生に対する注意が必要となる。 図1 低気圧型と冬型の天気図 (2) 季節風型 「季節風型」の場合,低気圧が日本付近を通過して 東海上に抜けた後,大陸からの北西の季節風の吹き出 しに伴う寒気が日本海で水蒸気の供給を受けて筋状の 雲となって発達し日本海側に大雪をもたらす。 「季節風型」はさらに「山雪型」と「里雪型」に分 けられる(図2)。 「山雪型」では,等圧線が南北(縦)に混んで強い 北西風が吹き,日本海で筋状の雲が発達する。陸地に 流れ込んだ雲は,脊梁山脈にぶつかり上昇してさらに 発達し,山沿いから脊梁山脈に大雪をもたらす。北ア ルプス等の高山では1日で1m以上積雪深が増すこ ともある。 「里雪型」では,強い寒気が入って日本海上空で積 乱雲が発達し,平野部の降雪量が多くなる。季節風が 大陸の長白山脈で二つに分けられ,それが風下の日本 海上でぶつかることにより活発な雪雲(帯状対流雲) が形成されることが多い。この雲は日本海上で発達し ながら,山陰地方や北陸地方の平野部や山沿いに大雪 をもたらす。 図2 山雪型と里雪型の天気図 (図 1,2は気象庁ホームページより) (3) 低気圧型 「低気圧型」はその経路により,「日本海低気圧型」 と「南岸低気圧型」に分けられる。 このうち「南岸低気圧型」は,本州南岸沿いから日 本列島の東海上に北東進し,気温が低い場合太平洋側 の平野部や山岳に大雪をもたらす(図3)。2017 年3 月27日に栃木県那須岳で発生した雪崩事故も「南岸 低気圧」の通過による大雪により雪崩が発生した。こ の事故では,低気圧の北側に広がる層状雲から降るさ らさらの雪結晶が雪崩発生の要因となったことがわ かった。 第10章 積雪と雪崩

RkJQdWJsaXNoZXIy NDU4ODgz