JARC LIVE 21 や都市を廻る富豪たちだ。彼らは最高のホテル、極 上のミシュラン星付きレストラン、ラグジュアリーなス パ体験などに価値を置き、金銭を幾らつぎ込むかは 頓着しない。例えば日本を訪問したら、日本の文化、 歴史、芸術、そして歌舞伎や能、料亭のお座敷な どを堪能。カントリーサイドならば、ヘリやリムジンで 移動し日本の四季折々の風土を探求する。世界で 事業に成功したら臆することなく目を肥やし、本物の 世界に価値観を傾注する訳だ。然しながら日本では これらの行動はあまり理解されない。いくら事業で成 功し財を成しても世間体が気になり、“ 勿体ない “と いう感覚が支配する。高級外車を買える地位にある 人間が取引先に遠慮して国産のクラウンで済ますと いった具合だ。これは古くから処世術として来た日本 の美徳でもあり否定する気はない。然し、“ 沈黙は金 ” であり、“ 贅沢は慎む”という価値観では世界のフィー ルドで戦えない。自分の存在を声高に表現し、己が 主張を実践していくのがグローバルな富裕層たちであ る。日本には彼らを真に満足させるラグジュアリーホ テルが僅かしか無いという現実を、今一度考察する 必要がある。 “ 東京は世界の一流ラグジュアリーホテルの不毛 の地 ”。これは衝撃的なフレーズだが、本物の理念、 矜持を携えた世界のホテルを見て来た筆者にとって、 敢えてそう言わざるを得ない。“ ホテルは文化 ”。一 流のラグジュアリーホテルは永く培って来たその土地 の風土、歴史、文化、伝統などを具現化したもので ある。日本には公的格付け基準がないので、フォー ブスのファイブスターを基に５ツ星ホテルの数を算出 すれば、東京の４軒を含め日本全体で僅か５軒のみ である。日系のホテルでは皇居前のパレスホテルが 唯一の認定である。世界屈指のメガロポリス東京で このありさまで、ロンドンの13軒、パリの11軒、ニュー ヨークの 11 軒（2019 年現在）に比べあまりに少 ない数である。2011 年 5月、フランス観光担当 大臣からフランス全土で8 軒の「PALACE」認定 ホテルが発表された。Le Bristol、Le Meurice、 Plaza-Athénée 、Le Parc Hyatt Vendome のパ リにある4 軒のホテルは文句ないであろう。圧巻な のは、リゾート地にあるラグジュアリーホテルだ。ビア リッツにあり皇帝ナポレオン３世が皇后ウジェニーの ために建てた宮殿 l'Hotel du Palais。ヨーロッパ 中のセレブリティが集まるスキーリゾートのクールシュ ヴェルにある Le Cheval Blanc 。コートダジュール にあり世界中の著名人・大富豪がバカンスを楽しむ Le Grand Hotel du Cap Ferrat 。いずれもホスピ タリティの水準は勿論、ミシュラン星付きレストラン、 最高峰のスパ施設、顧客の質が重要なアンビアン スなど、ラグジュアリーホテルとしての本質を備えてい る。また、ホテル産業が発達し、親子代々ホテルに 従事する伝統を誇るスイスには、ヨーロッパ最古のホ テルと言われるLes Trois Roisがバーゼルにあるの を始め、名門ラグジュアリーホテルが多く存在する。 勿論、この様なヨーロッパの伝統を誇るホテルと明 治維新後の歴史の浅い日本のホテルと比較論じるの は無理があろう。 一方で、日本には優れた旅館文化というものがあ り、ヨーロッパのホテルと引けを取らない悠久の歴史 がある。日本最古といわれる粟津温泉の旅館「法 師」、ギネスブックに世界最古と認定された西山温泉 の旅館「慶雲館」などだ。京都では御三家といわ れる「炭屋」「俵屋」「柊屋」など日本文化の粋を 集めた貴重な旅館もある。これら伝統を誇る旅館は 外国人富裕層には人気だが、連泊するうちに畳の 生活が苦になり、鴨居に頭をぶつけるなど長期滞在 は不向きという声も聞こえてくる。他方、「日本クラシッ クホテルの会」という組織があり、日本のホテル黎 明期に創業し戦前・戦後を通して西洋のホテルのラ イフスタイルを模索してきた９軒のホテルだが、前述 した世界の歴史的ホテルとは比べるべくもない。日 本では欧米の様な階級社会が存在せず、“ エスタブ リッシュメント” の概念も希薄な世界のため、ラグジュ アリーという本質がぼやけている。 ホテルが顧客を選別するのか、顧客がホテルを選 ぶのか。ホテルで大切なものは顧客との信頼関係。 本物のラグジュアリーホテルならば、そこに集うゲスト の質もおのずから決まってくる。それがホテルにとって いちばん重要とされるアンビアンス「Ambiance」と いうものだ。世界は広い。先ずは偏狭な日本の概 念を捨て、海外の本物と言われる一流ホテルを見て 欲しい。ラグジュアリーとは無縁と思われるアフリカ にも、ハリーウィンストンを凌ぐダイアモンドジュエラー 「Graff」が経営するDelaire Graff Lodge & Spa というハイエンドのラグジュアリーホテルが南ア・ステ レンボッシュに存在する。世界には日本人の価値観、 普遍性を遥かに超えた独創的なラグジュアリーの空 間が広がっている。
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