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22 山本 真輝氏 ㈱船井総合研究所 チーフ経営コンサルタント 『ホテルは一日にしてならず』 10年、20年先を見据えた長期的な事業計画を 2020 年 3 月初旬、世界的に広がる新型コロナウィルスの渦。 2 月27日午後、突如、発表された安倍首相の全小中高校の臨時休校要請を機に謝恩会、会議、 一般宴会など不特定多数が交わる予約が軒並みキャンセル。決算を前にホテルの悲鳴は鳴り止まない。 そんな中ではあるが、果たして宿泊・観光業界の未来はどうなるのか、 何をすべきなのか、有識者に聞くコーナーを設けた。 第一回目は経営コンサルティングの大手、 ㈱船井総合研究所 地方創生支援部 チーフ経営コンサルタント山本真輝氏に語っていただいた。 有識者に聞く とで、お客さまを軸とした良い連鎖反応を引き起こします。 残念ながらヒューマンサービスを高めても宿泊施設は客 室数で売上げの限度額が決まります。加えて装置産業の 宿命である設備投資に比重がかかり、売上げや利益がス タッフに還元されにくいところがあります。ある意味、矛盾 する宿命なのかもしれません。 しかし、今後、宿泊業界が発展していくためには、まず は短期的、短絡的ではなく目指すべきゴールに向けた10 年、20 年先の未来計画を描くことが必要です。観光業 界はマクロ的な視点から見れば着実に伸びています。今 後もさまざまな紆余曲折あるかと思いますが、まだまだ伸ば せる伸びしろは十分にあると思います。 だからこそ、じっくりと長期修繕・運営計画を立てるとと もに、経験値や勘ではなく、微妙な変化を数字的見地か らいち早く発見し、手を打ち続けていくことです。“ ホテル は一日にしてならず ”ということを再認識し、これまでの古 き良きホテル時代に築かれてきたお客様目線のサービスを 取り戻しながらも、変化し続けていくことが、新たなコンセ プトやこれからのホテル・旅館文化を作り上げていくものだ と確信しております。 新型コロナウィルスの猛威により宿泊および観光業界 は先が見えない状況に陥っています。しかしながら、冷静 に考察すると宿泊稼働率の低迷はウィルスによる影響を 受ける以前から始まっていました。特に関西国際空港を 起点に大阪や京都観光で賑わっていた関西エリアは、昨 年秋ごろより、民泊を含めた宿泊施設の多様化の影響も 受け、受給バランスが崩れ、稼働率・単価ともに前年割 れを引き起こしていました。 このような現象を引き起こした背景には長期的な視野に 立った事業計画が不得手であることだと思います。最近 は不動産的な要素が強まり、宿泊業は数年で投資回収 できるという誤った認識を持っている方が多くいらっしゃい ます。そうではなく、ホテル運営を継続させていくためには 10 年、20 年先を見据えた事業計画を構築していかなく てはなりません。 リーマンショックのときを思い返すと分かるように、経済 や環境の変化にともない、良いとき、悪いときの波があり ます。その中で現状を打破し、成長していくためには、お 客さま目線に立ったサービスをスタッフ皆で作り上げていく ことが大切だと思います。 実際、コロナウィルス騒動で外出を控えている人が多 い中でも、安定的な集客を得ているホテルもあります。“あ のホテルにどうしても泊まりたい ”と順番待ちをして、ようや く予約がかなえられた消費者は、“ 泊まりたい ”という衝動 からアクションを起こしているのです。それはそこに、それ だけの価値があるからです。 宿泊にはビジネスユースなど宿泊ができればいいという ものと、ホテルがデスティネーションの 1 つと化し、どうし ても行きたいというものの2つのタイプがあります。長期的 視野で持続可能なホテル経営を実現するためには、後者 のようにお客さまや地域に愛される、あこがれられる宿泊 施設をいかにして作り上げていくことができるかだと思いま す。 そのためにはスタッフがゲストに対して興味や関心を持 つことが重要です。なぜうちのホテル・旅館を選んでくれ たのか? どのようなことを求めているのか? などお客さま に関心を持ち気持ちを追求し、皆で共有する。そうするこ 宿泊・観光業界の未来考察 01

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