安全で楽しい登山を目指して

27 第1章 PDCAサイクルで安全登山 ポートする大枠も例示している。 図中の2個の「1・2班(リーダー)」が囲まれて いるのは,事故に遭遇していないA班を示し,その右 下にある「班(リーダー)」が事故に遭遇したB班を 示す。A,B班から研修会現地本部へ「報告」,研修 会現地本部からA,B班へ「指示」を行う。緊急時に は緊密な連絡交信が必要である。 B班や研修会現地本部は,できるだけ早く警察や消 防などへの救助要請をすることで,救命を最優先する。 研修会現地本部と警察や消防は,刻々と変わる状況を 記録し,情報共有することも大切である。 さらに研修会現地本部は,留守本部や参加校へ「報 告」する。留守本部は,研修会現地本部への「指示」, 警察や消防への「情報提供」,高体連専門部への「報告」, 保護者への「周知」「報告」「説明」を行う。高体連専 門部から留守本部へ「指示」や保護者からの「問合せ」 に応じる。研修会現地本部も留守本部も複数人で担当 し,緊急時に備えて緊張感をもって務める。 ▶指導のポイント ア 万一の時に関係部署に救助や説明対応など多く のことを支援いただくことを想定して,支援体制 のある登山チームを作っておく。 イ 長期の合宿や合同の講習会などの前に,協力者 へ挨拶や連絡をし,万一に備えてもらう。 ウ 事前に事故防止のために,この大きなチームか らアドバイスを受けよう。 (5)準備 ア 体力と技術 体調を整えるコンディショニングは体を鍛えるトー ニングとは区別される。メンバーの運動生理学的な特 徴を把握して,無理のないように段階的,計画的にト レーニングしよう。(詳細は第3編第8章「登山の運 動生理学とトレーニング」を参照) 登山技術のうち,荷物のパッキング技術や生活技術 などは,事前の準備段階でも練習できる。 パッキングについては,特に重量バランスに注意さ せる。ザックの上部の方に重いものを入れること,登 山靴や衣類など身に着けるものの使い方に慣れること は,体を動かし長時間できるだけ効率よく歩くために 必要である。体にフィットするように肩ベルトの長さ も調整させる。 歩行技術は,荷物を背負ったり登山靴だけで歩いた り,荷物を背負ったり分けたりして練習する。ストッ クにも使い慣れる必要がある。近くの河原など不整地 を歩くのは歩行技術向上に役立つ。荷物を背負う場合 には,重量と重心位置を変えて,生徒が歩きやすい重 心位置などを検討する。(詳細は第3編第3章「歩行 技術」を参照) ▶指導のポイント ア 登山の環境と運動の特異性を理解し,必要なト レーニングで体を鍛え,長時間行動のリズムに慣 れよう。 イ 山行前には体調を整えよう。 ウ 無理なく,無駄のないパッキングや歩行技術を 身に付けて,体力を効率よく活かそう。 イ 装備 必要な個人装備品や共同装備品(団体装備品)につ いては,全国高等学校登山大会<審査基準と指導目 標>(たとえば,登山部報No.61,pp. 76-77)に詳しい。 特に重要なのは,サブザックで行動する場合にも携行 すべき装備品である。 このうち特に重要なものは,①命を守る装備:雨具 (上下),水筒,呼笛,マッチやライター,非常食,② 移動に不可欠な装備:地図,コンパス,ヘッドランプ と予備電池である。サブザック行動と甘くみてはいけ ない。低体温症の原因となる濡れと防風のための雨具, 熱中症対策の水分補給の水筒,道迷いなどに備える地 図とコンパスなど,最小限度の必要装備を携行しよう。 これらは晴天の日帰り登山でも必須装備である。この ほかに緊急連絡用の無線機や携帯電話とその予備電 池,計画書も携行すべきである。いずれも雨具と呼笛, コンパス以外は,防水対策するように指導してほしい。 一つずつを少し大きめのビニール袋に入れて,包むよ うに収めると防水とクッションの役目をしてくれる。 すべての装備が機能するか故障はないか二人以上で 確認させ,チェックリストに記録する。このチェック リストは,山岳部や個人の備品保管や登山当日の忘れ もの防止リストにも使える。燃料のパッキング忘れや ガスコンロ(ストーブ)の故障,テントポールの破損 や不足などがないように,出発前に良好に使用可能か を必ず確認する。 ▶指導のポイント ア なぜサブザック行動でも携行すべきかを生徒と 一緒に話し合おう。 イ 万一どれかを忘れたら,行動に制限が掛かって いることを意識して,早めに引き返すなどの適切 な行動をとろう。 (北村憲彦)

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