安全で楽しい登山を目指して

161 第3章 上級演習 【解答例】 Ⅰ 登山計画とリスクマネジメント (1)この計画では黒部の源流と雲ノ平を高校生にも体験させたいという指導者(顧問等)の思いが伺える。こ こで難しいのは,2日目の薬師沢を下降して雲ノ平を経由するルートを含んでいる点だ。薬師沢の下りは道の状 態も変わりやすく,渡渉,スリップなど気を使う場面が続き,雲ノ平への登り返しも心身ともに負担が大きくな る。雲ノ平まで入ると,どこに脱出するにしても2日は必要な奥まった場所という点にも注意せよ。つまり第一 のチェックポイントは,太郎平小屋付近だ。ここでは必ず体調や天気の確認をしよう。もしメンバー全員の体調 に問題がなく,晴天が2日続くと予想できれば,雲ノ平に向かう。そうでなければ,雲ノ平を諦めて以下のエスケー プルートが考えられる。①太郎平小屋から引き返す,②北ノ俣岳手前から神岡新道を下山,③全員元気かつ天気 の回復が見込めるなら,雲ノ平をパスして北ノ俣岳~黒部五郎岳~黒部五郎キャンプ場。 このように引き返す以外に,ルートの途中から下山路を分岐させること,あるいは難しいルートを回避して進 むこともエスケープルートの選択となる。入山前にはメインのルートだけなく,悪天や体調不良などを想定した エスケープルートも綿密に計画しよう。これらを整理した登山計画書は,留守本部や関係機関(学校,自宅など) にも必ず,伝えておくこと。 三俣蓮華岳から双六小屋までは複数のルートが入り乱れているので,慎重に進む。双六小屋のキャンプ場を出 発したら,当初のメインルートが最も安全なルートである。鏡平への下りで転倒しないように気をつけて,小池 新道を下れば,蒲田川左俣谷に沿う林道に出る。 (2)このコースにおけるリスク(障害の程度×発生確率)の例を以下に示す。1 日目,2 日目,などその日ごと や場面ごとに考えながら,それを回避するように計画を立てること。 障害程度→ ↓障害発生確率 軽度 中程度 重度 生じにくい(発生確率低) 双六岳付近で道迷い 折立から太郎平小屋で 熱中症 急速な台風接近 生じるかもしれない 双六小屋付近での道迷い 黒部源流で転倒 薬師沢の増水 稜線で落雷 生じやすい(発生確率高) 三俣蓮華岳付近で道迷い 雲ノ平周辺の道迷い 黒部五郎岳付近での転倒 (北村憲彦) Ⅱ 気象判断 (1)落雷,沢の増水 日本海から前線が南下してくる気圧配置。前線の南側では暖かく湿った空気が流れ込み,大気が不安定になる。 このため,積乱雲が発達しやすく,雷を伴った強い雨に最大限の警戒が必要だ。 (2)落雷のリスクが高い場所 落雷はどこでも発生するが,その中でも尖った岩や高い物に落ちやすい傾向にある。したがって,落雷のリス クが高いのは高い木の近く(4m以上離れること),周囲が開けた高い場所,尖った岩の近くということになる。 また,岩場では直撃を受けなくても近くに雷が落ちたときに,その衝撃で飛ばされて転滑落するということがあ る。そのため,落雷のリスクがあるときに,岩場や岩稜に入ることはリスクが大きい。今回のルートでは岩場や 岩稜はないので,周囲が開けた高い場所と高い木の近くで落雷のリスクが大きい。高い木は至る所にあり,地形 図からは特定できないので除外すると,落雷のリスクが大きい場所は太郎兵衛平周辺(地形図の左上)と,雲ノ 平(地形図右下)ということになる。このうち,太郎兵衛平周辺では薬師峠のキャンプ場に引き返すか,緊急性

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