安全で楽しい登山を目指して

137 第1章 初級演習 【解答例】 Ⅰ 登山計画 チェックタイムとエスケープルートの例 ・1日目 松尾尾根のとりつきを9時として,釈迦ヶ岳山頂に12時に達しなければ,その時点で同ルート下山。 ・1日目 釈迦ヶ岳山頂から羽鳥峰に向かう。羽鳥峰に15時に達しなければ,その時点で羽鳥峰直下の林道 へ下る。 以上の設定において,なぜ予定より長い時間を要したのかという原因や場面に触れていない。負傷や疲労,寝坊, 悪天候などによって,どのようなチェックタイムを決めておいた方が良いかも話し合ってみよう。 ・2日目 起床後のメンバーの体調によっては,ヒロ沢を戻って,羽鳥峰から林道へ下山あるいは搬送。 ・2日目 タケ谷出合に11時に達しなければ,タケ谷から根平峠を経て,伊勢谷から林道へ下山。 ・2日目 クラ谷出合に12時に達しなければ,コクイ谷出合~上水晶谷出合経由でタケ谷出合に戻って,タ ケ谷から根平峠,伊勢谷を経て林道へ下山。 ・2日目 杉峠には11時に到着していれば,雨乞岳へ往復して,タケ谷出合まで戻って,タケ谷から根平峠, 伊勢谷を経て林道へ下山。 この例のように,ルートの前半については,それ以上先に進まない歯止めの基準,ルート後半は十分に早く達 していなければ,引き返し,このルート中の最も楽に下れるルートを見つけておく。今回のルートでは羽鳥峰か ら林道およびタケ谷~根平峠~伊勢谷を経て林道へ下山が,もっとも安全で早く移動できるルートである。後者 は織田信長が馬で越え,近江商人がここを越えて伊勢へ商売に通ったと伝えられ,昔から鈴鹿山系の弱点とされ ている。 (北村憲彦) Ⅱ 登山技術 ガレ場の通過 1日目 松尾尾根の頭手前のガレ場では,通過前に疲れていないか確認する(例えば,脈を測定し,唇の色,顔色, 意識が正常か,会話の様子,脚のけいれんなどの観察),もし過度な疲労がなければ,通過を開始する。バラン スを崩さないように注意して通過する。先頭を行く人に対して,後続の人が追い付こうとして焦らせないように, 振り返って後続者を見ながら「慎重に歩け!」と大きな声で伝える。通過したら,後続を監視しながら待つ。ロー プを出すよりも,何よりも本人が自力で歩けるかを判定・確認することが大切である。無理なら,引き返すべき である。 (北村憲彦) Ⅲ ナヴィゲーション技術 谷は上流に向かって分岐し,尾根は下流に向かって分岐する。従って,谷を遡上する時,尾根を下降する時に は間違った谷/尾根に入らないように,注意する必要がある。そのためには,要所の分岐を確実に把握するとと もに(現在地の把握),方向を確認しながらのルート維持が必要である。 具体的にはa~bまでは比較的単純な谷であるが,根の平峠や国見峠の方向の谷に誤って入らないようにする。 谷の方向の違いが鍵となる。bに向かう谷は基本的には南南西から南の間に方向が収まっている。根の平峠や国 見峠に向かう谷は東から南東なので,そちらの方向に向かって進んでいるなら,これらの谷に入ったことを疑う。 谷の方向を確認するには,コンパスの利用はもちろんのこと,空が V 字型に開けた方向を把握する(それが谷の 方向を示す)。 bからcまでは小さな谷が数多く分岐する谷だが,多くの谷は間違って入り込んでも急な傾斜で区別が付くと 思われる。注意したいのは,本流が南向きから南東向きに方向を変える辺りの南東向きの二つの谷(1と2), 南南東向きの谷(3),また2の対面にある西向きの谷(4)である。1,2と3は方向を確認すれば明らかに間違っ た谷だとわかる。この区間全体は南西向きなので,4もそれとは違うので区別することができる。ただし,45 度 程度の違いでは完全に区別するのが難しいことがある。1と2の谷の出合いを確実に把握することで,2の出合 いの後西向き,そして直後に真南向きに方向が変わることを地図から読み取り,確認する。 その後の5や6の谷への間違いへの対応も基本的には同じである。 7付近から谷が広く,斜面は緩やかになる。このような場所では,低い場所がどちらに連なっているかを丁寧 に読み取ることが必要だ。また,常にコンパスで谷の方向(北)に進んでいることを確認する。 8では正しい尾根に取り付いたことを確認するため,方向を確認する。

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