安全で楽しい登山を目指して

124 第3編 登山の技術と知識を身に付けよう 年刊),『ハイランド』(1930 年刊)として纏め,本場 アルプスの美しさを見事な筆の力で日本に紹介した。 槇有恒はアルプスから帰朝後,『山行』(1923 年刊) を上梓。槇の薫陶を受けた大島亮吉は,『山・研究と 随想』(1930 年刊),板倉勝宣は『山と雪の日記』(1930 年刊),松方三郎は『アルプス記』(1937 年刊)を著す。 日本独特の渓谷遡行や奥秩父の深林と渓谷に見る山 岳美については,冠松次郎の『黒部谿谷』(1928 年刊) や田部重治の『日本アルプスと秩父巡禮』(1919年 刊),木暮理太郎の『山の憶い出』(上巻1938年,下 巻 1939 年刊)などの名著がある。 古くから,文人には山水に親しむ風が強い。大正期 には本格的な登山や縦走を楽しむ文人も現れ,『日本 山水紀行』(1927 年刊)を著した大町桂月のような紀 行作家も登場した。 昭和に入ると山岳雑誌『山と渓谷』が創刊(1930 年刊)され,相次いで『山と旅』,『山小屋』,『ハイキ ング』などが発刊された。この時代には,低山趣味の 提唱と登山知識の涵養書として『霧の旅』(松井幹雄, 1934 年刊)。北海道の山を巡る紀行・随想集の『北の 山』(伊藤秀五郎,1935年刊)。微妙な雰囲気を醸し 出す画文集の傑作,『霧の山稜』(加藤泰三,1941 年刊) なども出版された。 孤高の登山家として単独登山主義を貫いた加藤文太 郎の『單獨行』(1956年刊),これほど版を重ね,多 くの人に愛読された山の本もない。 終戦後文壇の注目を浴びた山岳小説は,橋本英吉の 『富士山頂』(1948年刊)だ。冬富士山での気象観測 にあたる野中至夫妻の感動物語。井上靖の『氷壁』(1957 年刊)は,ロープ切断事件をテーマにした小説。新田 次郎の『強力伝』(1956 年刊)は,三つの短編小説を まとめた直木賞受賞作品である。 日本人の海外登山に関しては,明治時代からマナス ル登山まで判り易く纏めたのが,徳岡孝夫の『ヒマラ ヤ 日本人の記録』(1964年刊)。マナスル以降の日 本人の記録については,『日本ヒマラヤ登山通史』(山 森欣一,2018 年刊)や『現代ヒマラヤ登攀史』(池田 常道,2015 年刊)が必読。 昭和初期にヒマラヤを夢見た日本人がバイブルとし たのは,『ヒマラヤに挑戦して』(P.バウアー,伊藤愿訳, 1931年刊)。日本人初のヒマラヤ登山の記録は,『ナ ンダ・コット登攀』(竹節作太,1937 年刊)がある。 海外渡航が自由化し,日本人のアルプス詣でがはじ まると,先ず古典ものでは『アルプス登攀記』(E. ウィ ンパー,浦松佐美太郎訳,1936年刊)や『アルプス 及コーカサス登攀記』(A.F.マンメリー,石一郎訳, 1938 年刊)。そして『アルプス三つの壁』(A・ヘック マイヤー,安川茂雄訳,1966 年刊),『白い蜘蛛』(H. ハー ラー,横川文雄訳,1966 年刊),『星と嵐』(G. レビュ ファー,近藤等訳,1955 年刊),『無償の征服者』(L. テ レイ,横川文雄/大森久雄訳,1966 年刊)『わが山々へ』 (W. ボナッティ,近藤等訳,1966 年刊))などのアル プス登攀記が影響を及ぼした。 第 2 次ヒマラヤン・ブームが到来すると『処女峰ア ンナプルナ』(M.エルゾーク,近藤等訳,1953年刊),『ナ ンガ・パルバット』(ヘルリヒコッファー編,横川文 雄訳,1954年刊),『八千米上と下』(H・ブール,横 川文雄訳,1963 年刊),『エヴェレスト登頂』(J. ハント, 朝日新聞社訳,1954 年刊),『マカルー全員登頂』(J. フランコ,近藤等訳,1956 年刊),『マナスル登頂記』(槇 有恒,1956 年刊)などのヒマラヤ登頂記が愛読された。 ヒマラヤの概念把握には,『ヒマラヤ』(K・メイスン, 望月達夫・田部主計共訳1957年刊),『ヒマラヤの高 峰(Ⅰ~Ⅲ)』(深田久弥,1973年刊),『ヒマラヤ名 峰事典』(平凡社,1996 年刊)などが挙げられる。 登山史を多角的に俯瞰する文献としては,『日本の アルピニズム』(斎藤一男,1965 年刊),『登山百年史』 (A・ラン,諏訪多栄三・馬場勝嘉訳,1967 年刊),『日 本登山史』(山崎安治,1969 年刊),『近代日本登山史』 (安川茂雄,1969年刊),『日本アルプス山人伝』(安 川茂雄,1971 年刊),『岩と人―岩壁登攀史』(斎藤一男, 1980年刊),『日本岳連史―山岳集団50年の歩み―』(高 橋定昌,1982 年刊),『目で見る日本登山史』(山と渓 谷社,2005 年刊),『山―その日この人(上・下)』(斎 藤一男,2015 年刊)などがある。 山岳文化については,『登山の文化史』(桑原武夫, 1950 年刊),『日本山岳文学史』(瓜生卓造,1979 年刊), 『山の文学散歩』(斎藤一男,2010 年刊)などがお薦め。 【以上,人名敬称略】 参考文献 ・『ヒマラヤ』(K・メイスン著,望月達夫・田部主計 共訳,1957 年,白水社刊) ・『ヒマラヤ 日本人の記録』(徳岡孝夫著,1964年, 毎日新聞社刊) ・『日本のアルピニズム』(斎藤一男著,1965年,朋 文堂刊) ・『登山百年史』(アーノルド・ラン著,諏訪多栄三・ 馬場勝嘉訳,1967 年,あかね書房刊) ・『日本登山史』(山崎安治著,1969 年,白水社刊) ・『近代日本登山史』(安川茂雄著,1969年,あかね 書房刊) ・『ヒマラヤの高峰Ⅰ~Ⅲ』(深田久弥著,1973年, 白水社刊) ・『岩と人―岩壁登攀史』(斎藤一男著,1980年,東 京新聞出版局刊)

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